経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

安倍総理が立ち向かう「内憂外患」とは

イラスト/のり

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トランプとつかず離れずを維持できるかがカギ

1月20日に就任したドナルド・トランプ米大統領が、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱の大統領令に署名したのを皮切りに、不法移民の流入を防ぐためとしてメキシコとの国境沿いに壁建設を指示する大統領令に署名。さらに、テロ対策として中東・アフリカ7カ国の一般市民の米国入国を90日間停止、すべての国からの難民の受け入れを一時的に停止という“入国禁止令”を出した。就任からわずか10日余りで、早くも世界がトランプ大統領に振り回されている。

日本もトランプ大統領の“標的”にされている。1月31日、製薬メーカーの経営トップを集めた会合で為替について言及し、「中国が何をしているか、そして日本が何年も何をしてきたか見てみろ。彼らは、為替を操作して通貨安に誘導している」と、日本を名指しで批判。菅義偉官房長官はすぐさま「(批判は)全くあたらない」と反論した。2月10日の日米首脳会談を前に、早くも互いを牽制する舌戦が切られた格好だ。

自民党関係者は語る。

「トランプ大統領は、今なおビジネスマンのスタイルを貫き通している。つまり、先制攻撃を仕掛け、自分に優位に交渉を進めるというもの。“米国へのお土産”を取れるだけ取ろうという腹積もりなのでしょう」

安倍晋三首相は、日本外交が厳しい状況に立たされることをあらかじめ想定していたと、官邸関係者は語る。

「昨年、大統領選で当選を果たした際、すぐさまニューヨークへ駆け付け、トランプ氏に会ってきたことで、さまざまなシミュレーションを行ってきました。だからこそ、年明けには何度も『解散はない』『経済優先』を述べていたのです」

想定内だったとはいえ、厳しい状況に変わりはない。米国に引きずられて尻尾を振るようなマネをすれば、アベノミクスが道半ばなのに海外でまたも大盤振る舞いするのかと、批判の矢面に立たされるからだ。加えて、海外から見れば、トランプ追従の国家としてテロの格好の対象になりかねない。うまくつかず離れずのポジションをキープしていけるかがカギとなるようだ。

さらに、今年は3月のオランダ総選挙を皮切りに、4~5月フランス大統領選挙、6月フランス議会選挙、イタリア総選挙、9月ドイツ連邦議会選挙がある。つまり、欧州は選挙イヤーなのだ。昨年、英国がEU離脱を国民投票で決め、排外主義の傾向が色濃くなっていきそうな欧州各国だけに、その動向を見極め、外交のかじ取りを慎重に行わなくてはならない。

本気度が問われる働き方改革の実行

加えて、国内経済でカギを握るのが、働き方改革の一環として掲げている長時間労働の見直しだ。労働基準法の一部改正により、残業時間は「年間で月平均60時間まで」を上限とする法案を提出する予定なのだ。

ところが、野党からは反発の声も聞こえてくる。

「政府案は、〈繁忙期は100時間まで認める〉とか〈2カ月連続で80時間までなら認める〉とした例外規定が盛り込まれている。これは抜け道でしかなく、働き方改革とは言えない」(民進党中堅衆院議員)

以前、安倍首相は、クビ切り自由化、残業代ゼロの「ホワイトカラーエグゼンプション制度」と呼ばれる裁量労働制の拡大を目指してきた。それがとん挫した形となり、一転して残業規制に乗り出してきたのだから、野党は慎重に法案を吟味していく姿勢なのだという。

働き方についてはこれまで、掛け声ばかりで何も進まなかった。ネット環境が整備され、SOHO(スモールオフィス・ホームオフィスの略)が話題になり、起業した個人経営者は活用しているものの、企業内で自宅勤務の領域を広げるといったことはなかなか難しかった。政治も民間のことに口を挟むことを良しとしなかった部分もある。

しかし、安倍政権は2%の経済成長を掲げたにもかかわらず、その実効性は見いだせていない。労働者側の働き方を見直し、企業の内部留保を吐き出させる方向に向かわせなければ何も変わらないと分かったからだ。

低成長時代に、どのようにカネを回していくのか。都合のいい数字だけを見せて、うまくいっていると言えた時期はもう過ぎた。それは安倍首相が一番分かっていることで、国民が納得する働き方改革の実行が望まれている。

かつて小泉純一郎元首相が「坂には上り坂、下り坂、“まさか”がある」と語ったが、この状況下では「すぐさま解散なんて、ムリな話」(別の自民党関係者)なのだろう。本腰を据えた議論が望まれている。

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