シャープが異例のスピードで東証一部に復帰した。支援を受ける台湾の鴻海精密工業から送り込まれた戴正呉社長にとっては、就任当初に掲げた最大の目標を達成したことになる。戴社長の手腕を評価する一方で、将来の成長を考えると、後継問題にも注目が集まっている。文=村田晋一郎
シャープが東証二部へ降格から復活した要因とは
シャープのように債務超過を理由に東証一部から東証二部に降格になった企業は、過去10年で16社。そのうち一部への復帰を果たしたのは11年のオリエントコーポレーションのみ。現在2部で上場を維持している企業もFDKとピクセラと、17年8月に降格したばかりの東芝の3社だけで、残りは他社に吸収されるか、民事再生手続きをとるなどして、上場廃止となっている。
そもそもいったん債務超過になってしまえば、二部上場の維持ですら容易ではないのが一般的な状況であり、シャープが短期間で一部に復帰したことは異例中の異例と言えるだろう。
シャープが台湾の鴻海精密工業の傘下に入り、鴻海ナンバーツーの戴正呉氏がシャープ社長に就任したのは、16年8月だった。上場の会見において、戴社長はその時の心境は「片道切符」で不退転の覚悟でシャープに乗り込んできたと振り返る。そして、就任時に最初に経営幹部の前で、経営基本方針を披露した際に、「東証一部への早期復帰」を共通目標として掲げていた。
早くから東証一部復帰を目標に掲げ、その実現を急いだことについては、会社の信用に基づく資金調達や人材の募集において、「一部と二部では全然違う」という認識だった。シャープの将来を考える意味でも、早期の一部復帰は必要不可欠であり、まずはその目標を果たしたことに戴社長は安堵の表情を浮かべた。
戴社長になってから、シャープは一部に復帰できるだけの業績改善を果たした。二部指定替えになった16年度上期と、17年度上期の経営数字を比較すると、顕著な改善が見られる。売上高は前年同期比1.21倍、当期純利益は454億円の赤字から347億円の黒字に転換。さらに設備投資は2.67倍、新卒採用は2.20倍、一人当たり年間平均給与は1.17倍であり、シャープは復活したと戴社長は胸を張る。
この復活の一番の要因は、戴社長が持ち込んだ鴻海流の経営手法にある。徹底したコスト意識で、これまでの商慣習を見直し、収益構造を大きく変えた。さらに部材の調達などでは、鴻海本体とのシナジーも収益改善に大きく寄与した。また、生産設備についても、例えば主力の亀山工場(三重県)では、過度なスマートフォン偏重を改め、さまざまな領域に活用できるようにし、特定デバイスの市況の影響を受けにくい健全な体制にしたという。
戴社長自身は、復活の要因を、「全社一丸になったこと」とし、社員の労を労った。「度重なるリストラや早期退職で、シャープに残っているのは、忠誠心の高い人間か、ほかに行き場のない能力の低い人間」という一部報道に言及。それに反論するように、もともと2~3カ月で黒字化できるほど「シャープの実力は高い」とし、あくまで全社員が頑張った結果であることを強調した。
また、シャープの実力の高さを金脈に例えた。今までの経営者はその金脈を掘ってこなかったが、自分はその金脈を一つずつ掘り当てることで、シャープを復活させ、さらに今後も成長できるとし、シャープのポテンシャルの高さを強調した。
「日本企業」としてのシャープの立場・役割を強調した戴社長
復活したとはいえ、シャープは今や鴻海傘下。「台湾企業」と見なし、シャープの復活は日本電機メーカーの復活とはとらえない向きもある。そうした声を知ってか知らずか、戴社長は、東証一部復帰に際して、「日本企業」としてのシャープの立場・役割を強調した。
そして「東証一部の日本企業としての社会責任」として、ディスプレーの「日の丸連合」に言及した。もともと戴社長は就任まもない16年8月、次世代ディスプレーである有機ELについて、ジャパンディスプレイ(JDI)と共同開発したいという意向を示していた。
先行する韓国メーカーに対して、日本の技術者を結集して「日の丸連合」で対抗しようというものだった。また、17年8月にJDIの経営難が話題になった際にも、シャープが支援すれば、立て直せるという考えを示していた。
今回の会見でも、「日の丸連合を創成すべきという考えに変わりはない」と語った。日本の政策として、技術を日本に残すのか、残さないのが良いかについて、まずは経済産業省と、JDIに出資している産業革新機構(INCJ)と対話する意向を明らかにした。シャープがJDIをどのように支援していくかは、まず対話してから判断するという。
ただし、鴻海とINCJは、シャープの支援をめぐって争う形となり、結果的にシャープは鴻海を選んだため、経産省やINCJには鴻海に対してのわだかまりが残っている。それは東芝の支援にも影響し、鴻海も東芝支援に名乗りを上げたが、真っ先に排除された格好となった。それゆえ、戴社長の提案は、実現する可能性は極めて低いだろう。
日の丸連合が単なるリップサービスに終わる可能性は高いが、「日本企業」としてほかにどのような社会責任を果たしていくのか。グローバル化が進む昨今、資本の国籍にこだわる時代ではないのかもしれないが、地域社会への貢献という観点で、シャープの今後の動向が注目される。
一方で、日の丸連合に関係なく、シャープ独自で有機ELの開発を進めており、12月にスマホ向けの6.18型ディスプレーのサンプル出荷を開始する。戴社長は、韓国サムスン電子と同じ土俵で勝負するのではなく、まず自社の技術力を高めることを優先するとしたが、シャープ単独での展開にも自信を見せている。
東証一部復帰後のシャープが直面する課題とは
東証一部復帰を果たしたことで、今後シャープは、19年度末までの中期経営計画の必達が最大の目標となる。
この中期計画では、売上高を3兆2500億円、営業利益1500億円を目標に掲げており、17年度の見込みが売上高2兆5100億円、営業利益930億円であることを考えると、野心的な計画だ。
しかし、これを達成できた時こそ、シャープが復活したと言えるのではないか。戴社長は就任時に、「一部復帰後には社長を退任して台湾に帰る」と語っていたが、中期計画の遂行までは、社長にとどまる覚悟を明らかした。
戴社長の後継問題は、今後のシャープの最大の課題と言ってよい。戴社長は現在67歳であり、年齢的な問題から、「社長を辞めて台湾に帰りたい」というのは本心のようだ。しかし社長交代を取締役会に諮ったところ、「業績が回復している中で、年度途中の社長交代はありえない」「社長は株主総会で選任された取締役から選出される」として、却下されたという。また、6月の株主総会でも、一部の株主から戴社長の長期政権を望む声が挙がっていた。
今後、18年度以降の経営体制については、あくまで取締役会ならびに次期株主総会に判断を委ねるという。また、将来の社長交代を見据えて、18年からは共同CEO体制に移行する。今は戴社長がすべて行っている決裁権限の委譲を徐々に図り、次期CEOを育成するという。共同CEOについては、現在、社内に想定している人物がいるわけではなく、社内外も含めて、優秀な人材をこれから選んでいくという。
ただし、現在のシャープ経営陣は、戴社長の息のかかった人材で固められている。次期CEOだけでなく、マネジメントチームとしての在り方も含めて、考えていかなければいけない。その際に鴻海がどの程度かかわってくるかも鍵になる。
また、事業環境はどうか。中期経営計画の成長戦略の肝となるのが「人に寄り添うIoT」と「8Kエコシステム」だ。この実現に向けた事業構造転換を進め、飛躍的成長を目指すという。IoTについては、既に生活家電とスマートフォンの連携で、商品展開が始まっている。やはり不透明なのは、8Kだろう。
12月1日より、世界で初めて8Kテレビ「AQUOS 8K」の発売を開始しており、8Kテレビのデビューキャンペーン「シャープ8Kテレビ誕生祭」を1カ月間実施。今回の記者会見でも「シャープ 8K」のロゴが入った帽子をかぶって登場するパフォーマンスを見せる力の入れようだ。しかし、8Kは一部で衛星放送による実用放送が18年に予定されている段階。ビジネスの採算性が疑問視されるところだが、8Kカムコーダーなど放送機器も含めたエコシステムとして提供や、医療機器としての展開で、市場を創る方針。
8K市場の本格化は5~10年を見据えることも考えると、8K事業で成功できるかは、次期CEOの手に委ねられる。その意味でも、シャープの今後は、戴社長の後継者に懸かってくる。
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