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世界の外食王を目指すトリドール・粟田貴也社長の「野心」と「危機感」

丸亀製麺でお馴染みのトリドールホールディングス。人件費や原料費の高騰で苦戦する外食産業が多い中、好調を維持しているが、2025年に売上高5千億円と、現在の5倍規模の目標を掲げ、さらなる成長を目指している。その原動力が、粟田貴也社長の野心と危機感だ。文=関 慎夫

トリドールが目指す目指す世界ランクトップ10入り

粟田貴也社長が語る「勝ちパターン」

「第一優先は客数を増やすこと。そこを徹底する。そのためには手間暇をかける。つまり店内での手作りにこだわるということ」

丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスの業績が順調だ。11月に発表した中間決算でも、売上高は前年同期比11.7%増の560億円、営業利益は同1.5%増の44億円、最終利益が同16.8%増の30億円だった。通期では売上高が10.3%増の1122億円、最終利益は6.9%増の59億円を見込む。牽引するのが主力業態である丸亀製麺で、既存店売上高は11月まで15カ月連続で前年を上回っている。

外食産業は厳しい時代を迎えている。大きな要因が人件費と材料費の高騰だ。特に人手不足は深刻で、都心では時給1千円ではなかなか人が集まらない。人が足りないばかりに営業時間の短縮や、閉店に追い込まれた店やチェーンは山ほどある。また材料費も、国産品、輸入品ともに価格上昇が止まらない。280円均一で支持を増やしてきた鳥貴族も、28年ぶりの値上げに追い込まれてしまい、それが影響して既存店売上高は一時落ち込んだ。

そういう状況下においてもトリドールは好調を維持している。その理由を粟田貴也社長に尋ねた時の答えが冒頭の発言で、さらにこう続く。

「集客していくことがすべての数値を凌駕する。集客が増えて売り上げが上がれば全体の固定費の比率が下がり利益は出やすくなる。逆に先にコストカットに走ってしまうとお客さまが来なくなり売り上げが減った瞬間にすべてのコスト料率が上がっていく」

コストのことだけを考えれば、丸亀製麺のように製麺を店で行うよりも、セントラルキッチンで製麺、それを各店舗に配送するほうがはるかに安上がりだ。粟田社長はこれまで何度も同様の誘いを受けてきた。「チェーンオペレーションをする上で店で手作りするのは無理がある」と何度も言われたという。不安になることもあったが、今では「これが自分たちの勝ちパターンであり、差別化戦略だ」。

日本で初めての国際的ブランドへ

最近の丸亀製麺は、海外へも展開、国内外合わせて1千店も視野に入った。しかし粟田社長にとって1千店は単なる通過点にすぎない。何しろトリドールは、25年世界6千店・売上高5千億円の目標を掲げている。そのためには売り上げを5倍に伸ばさなければならない。どう考えても不可能のようにも思えるが、「実現できそうもない目標を持つことで、自分たちの行動を変える必要性に迫られる。それがいい結果をもたらす」と粟田社長。そしてこの目標を達成できれば、外食企業ランキングで世界のトップ10が見えてくる。

この目標は粟田社長の「野心」である。

「外食にはガリバーがいない」と粟田社長は言う。国内外食企業ランキングでは、トップを走る「すき家」などを展開するゼンショーホールディングスで売上高は5440億円。以下すかいらーく3545億円、コロワイド2344億円と続く。しかし外食産業の市場規模25兆円と比較すると、ゼンショーでさえ、その2%にすぎない。「他産業には手の届かない巨人がいる。ところが外食にはそれがない。やりようによっては自分たちもかなりのところにいけるのではないだろうか」と粟田社長は考える。あくなき成長を求める理由はもうひとつある。「海外で成功している日本の外食はいない。僕の言う成功は、日本メーカーのように海外で収益を生み、収益構造の上でも海外事業がある程度のボリュームを持つ会社」。

マクドナルドやKFC、バーガーキングやピザハットなど、世界中で愛されている外食ブランドはいくつもあるが、いずれもアメリカ発だ。最近は世界中で日本食ブームが起きており、「ラーメン」や「スシ」は世界共通語となりつつある。海外展開する外食チェーンも増えてきた。しかし現段階では、国際的ブランドとして通用するところは現れていない。粟田社長には、自動車や電機でできたことが外食でできないはずがない、という思いがある。

ではどうやってさらなる成長を果たしていくのか。25年5千億円の売り上げを達成するには毎年20%成長しなければならない。最近のトリドールの増収率は10%前後。今のままの成長スピードでは不可能だ。

そのために必要なのは海外事業の大幅な拡大だ。計画では、5千億円到達時の海外売り上げは2900億円を見込む。

「ひとつは丸亀製麺を全世界に広げていく。国ごとの食習慣に合わせてローカライズしながら、丸亀ブランドを拡充していく。もうひとつはそれぞれの国で毎日食べても飽きられないほど親しまれているものを展開する。そのためにM&Aを積極的に進めていく」

トリドールは17年5月、香港の有名ヌードル店「譚仔雲南米線」(雲南ヌードル)の運営会社を約150億円で買収した。雲南ヌードルは香港に約50店舗あり、香港市民に親しまれている。トリドールでは今後雲南ヌードルの中国本土展開も視野にいれているというが、同様のM&Aを世界各地で展開する予定で、粟田社長は「いい案件があったら、同時並行も辞さない」と決意を語る。

一方国内では、既存店の拡充と新業態の開発とM&Aの3本柱で臨む。「優先順位はまず既存店。ここが利益の源泉だから。次に国内新業態、そしてM&Aという順番でいく」。トリドールの国内事業には、焼きそば専門店の「長田本庄軒」やラーメン店の「丸醤屋」などがある。大半は自社開発した業態だが、「晩杯屋」という立ち飲み居酒屋チェーンはM&Aによって傘下に収めたものだ。粟田社長は晩杯屋を居酒屋界のドトールコーヒーにしたいと意気込んでいるが、居酒屋は外食の中でも不振が目立つ業態だ。そのどこに勝算を見いだしたのか。

「昔のように職場の仲間で飲むというスタイルが変わってきた。しかも働き方改革で、テレワーキングなど仕事圏が生活に密着してくる。時間の使い方も変わってくる。以前、晩杯屋を見た時、女性もいれば単行本を読んでいる人もいた。これはお酒を飲むという目的ではなく、時間と空間を過ごすライフスタイルの一環だと思った。これはいける。晩杯屋は居酒屋界のドトールコーヒーになれると信じている」

このような新業態の展開は、トリドールにとってリスクヘッジの意味合いもある。もともとトリドールの源流は焼き鳥屋チェーンで、郊外のファミレスに居抜きで入って業績を伸ばした。しかしその後、焼き肉屋と回転ずしが台頭。焼き鳥屋チェーンは苦戦を強いられる。そこで新業態として開発したのが丸亀製麺だった。この経験から、粟田社長は常に危機感を持ち、時代の変化、環境の変化に備えている。その粟田社長が、今後の動向を注視しているのが昼食マーケットだ。

世界的外食産業になりたいという粟田貴也社長の野心

セブン‐イレブンなどコンビニエンスストア各社は、こぞってイートインスペースの拡充に力を入れている。店でお弁当を買い、その場で温め、店内で食べる客も増えてきた。さらに最近では、総合スーパー(GMS)などでも総菜などに力を入れると同時に、飲食スペースを設置する店も増えてきた。

丸亀製麺は数多くのショッピングセンター(SC)のフードコートに出店している。これまでは、SCを訪れた客がGMSや専門店で買い物をし、フードコートでお腹を満たすというのがひとつの行動パターンで、GMSと丸亀製麺は共存関係だった。ところがGMSが独自に飲食スペースを持つと、完全に競合関係になる。

「小売業が限りなく外食化の戦略を取ってきている。われわれも含め外食産業の原価率はだいたい3~4割。ところが小売りが仕掛けるのは、原価率が6~7割。外食の価値観が激変する。ですからGMSの食品売り場が賑わって、フードコートが空洞化する時代が来るという懸念がある。これは怖い。だから今のうちにあらゆることにチャレンジする必要がある」

だからこそトリドールでは、徹底して手作りにこだわる。「原価率が3~4割ということは、6~7割の付加価値を貰っているということになる。その付加価値とは何かというと、われわれの場合は手作り、出来立てという部分。ここを工業化してしまうと、外食は小売りに勝てなくなる」。

さらにはトリドールの側から小売りに近づくことも考えている。「小売りの外食化の部分にかかわることも考えている。あるいは将来小売業を買収して、それを核として外食化を促進していく可能性もある」。

粟田社長の基本的な考え方は、自分たちの立ち位置をどんどん変えていくというもの。常に動いていることで、チャレンジが習性化し機動力がつく。

成長を続け、世界的外食企業になりたいという野心、そして時代と環境の変化に備え続ける危機感。この2つが、トリドールの成長を支えている。

粟田貴也社長インタビュー「経営者としての夢とトリドールの今後」

粟田貴也トリドール社長

―― 好調が続いています。

粟田貴也・トリドールホールディングス社長(以下、粟田) 既存店が堅調なのが今の足腰の強さになっています。前年をクリアするのに何をすべきかを、それぞれの店が明確に意識し、実行しているのが一番の強みです。

―― それでもアクセルをさらに踏もうとしています。一度立ち止まって内部固めをしようとは思いませんか。

粟田 攻めこそ最大の防御です。守りに入った途端後退するような気がします。攻めているからこそ、次から次へとアイデアが出るし、組織の在り方も考えることができる。前に出ることで今を守るわけです。

―― 掲げる目標も高い。2025年5千億円を達成するには規模を5倍にする必要があります。

粟田 別に根拠があるわけでなく、実現できそうもない目標を持つことで、自分たちの行動スタイルを変えていける。一瞬破天荒に聞こえるけれど、今のままではだめだというスタートになる。今を肯定しないことが大事です。

―― その原動力はどこからくるのですか。

粟田 危機感と野心。外食産業は外的環境に影響を多く受けます。その中で生きていくには、日本国内にとどまっていていいのかとか、丸亀製麺という事業体に固執していていいのか、常に考えています。そこで新業態を開発し、海外に活動拠点をつくっている。これはリスクヘッジです。野心という観点でいうと、外食にはガリバーがいない。やりようによっては自分たちもかなりのところにいけるんじゃなかろうかと。そして海外で成功している日本の外食はないということも、われわれの夢をかき立てています。

―― 成長するにはM&Aが不可欠です。予算は決めているんですか。

粟田 予算はもうけていませんが、自分たちの体力で賄える範囲内ならやってこうかなと考えています。いい案件があれば同時並行も辞しません。

―― 勝算がどのくらいあったらゴーサインを出しますか。

粟田 いけるという自信めいたものがあれば。ただあくまで仮説なんで、外れる場合もある。だから絶対大丈夫じゃないし、失敗もしています。ですからあまり過信してはいけないというのを自戒の念としてもっています。

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