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ゲーマーがアスリートに eスポーツ元年を迎える日本―夏野 剛(慶応義塾大学特別招聘教授)

慶応義塾大学特別招聘教授 夏野 剛氏

次世代の競技として、発展が期待されているのがeスポーツだ。日本でも、ここに来て、業界団体が統一され、プロライセンスの発行が始まるなど、eスポーツ推進の機運が高まってきた。eスポーツの展望について、慶応義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏に語ってもらった。

夏野 剛

なつの・たけし 1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。95年米ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBA取得。ITベンチャー企業を経て、97年NTTドコモ入社。世界初の携帯電話を利用したインターネットビジネスモデル「iモード」サービスを立ち上げた。2008年同社退社後は、ドワンゴほか数社の取締役を務める傍ら、慶応義塾大学特別招聘教授として教壇にも立つ。

日本がeスポーツで出遅れた理由を語る夏野剛氏

eスポーツでは、実は日本は出遅れています。ゲーム業界の中で日本のプレゼンスはものすごく大きいにもかかわらず、eスポーツの中では非常に薄い。一方で、世界のeスポーツの大会を見に行くと、上位に入っている日本人プレーヤーは何人もいます。

日本人のポテンシャルはすごくイケているはずなのに、この出遅れはすごくもったいない状況になっています。

出遅れた理由の一つは、まず日本は、任天堂やソニーなど、プラットフォーマーがあまりにも強いことです。

しかしプラットフォーマーが主導しない限り、権利関係上、eスポーツのようなものは成立しにくい。プラットフォーマーの観点から言うと、特別にゲームのうまい人が大会で勝つというものよりは、もっと広くたくさんの人にゲームで遊んで欲しいという意向が強い。このため、プラットフォーマーには、自分たちのゲームのeスポーツ化を積極的に進める理由がなかった。

それから、景品表示法の問題があります。日本でeスポーツの大会で賞金を出そうとすると、賭博に当たらないようにするには、景品表示法の範囲内でやらなければいけないため、賞金の額が非常に限定されてしまいます。

これをプロスポーツ化するためには、例えば公益財団法人をつくるとか、あるいは業界団体を統一するとか、ルールをきちんと決めて社会に認知してもらうとか、いろいろな作業が必要です。

しかしその作業があまり具体的に行われてこなかったというのが、2つ目の理由です。日本では、社会的なコンセンサスとして、ゲームのプロスポーツ化に対して、積極的な姿勢が今までは見られませんでした。

一方、アメリカやヨーロッパなど、海外はどうなっているかというと、PCのオンラインゲームからeスポーツが大きくはやりだしました。

PC、つまりプラットフォームが限定されないところからスタートしているので、日本と事情が違っています。

また、韓国もeスポーツが進んでいますが、恐らく韓国はeスポーツの分野であまり法的な縛りがなかったので、割と自由にやれたのだと思います。産業化に向けて、国も積極的に支援したことも大きかったのではないでしょうか。

日本で、この出遅れている状況を何とかしたいという機運が盛り上がったのが2017年でした。大きな背景は、アジア大会での種目化の検討やオリンピックの正式種目となる可能性が出てきたことです。

さすがに20年の東京オリンピックは間に合わないですが、24年のパリはひょっとしたらみたいな話はあります。JOCへの加盟も含め、アクションを起こさないでいるのはまずいという危機感で、日本のゲーム業界が一気にまとまりました。

CESA(コンピュータエンターテインメント協会)を中心として、eスポーツの団体が統一され、18年はまさに日本のeスポーツ元年になります。業界団体が一本化されて、きちんとしたガイドラインに基づき、きちんとした金額設定をしていく運営体制が確立されることによって、eスポーツが社会に認知されていく道筋はできたと思っています。

そして2月10日に開かれた「闘会議」というイベントの中で、各ゲームメーカーがプロライセンスの発行を始め、プロライセンスによる初めての大会が行われました。日本もやっと世界レベルのeスポーツに向けた動きが始まったというのが今の状況です。

夏野剛氏は語る eスポーツは海外では既に一定の産業規模に

eスポーツ推進は、ゲーム業界全体にとって非常に良い動きだと思います。産業の中で特定の誰かが儲かるというよりも、一番大きな効果は、プロができることによって、それを職業とするぐらいの競技だと認知され、裾野は間違いなく広がります。だからeスポーツはゲーム業界全体にとって、非常に大きな推進力になると思います。

日本のプラットフォーマーにとっても、eスポーツは大きなメリットになると思います。ただし、どのゲームが国際競技に選ばれるかはこれからの話です。

ユーザーの数や人気などを総合的に判断して決めると思うので、実績をどんどん作ることが大事です。特にオリンピックで種目化されると、どのゲームで競技を行うかは大きな問題なので、プラットフォーマーもうかうかしていられない状況になってきたと思います。

eスポーツの産業規模については、海外では広告収入も興業の規模も既存のプロスポーツと変わらないレベルまで来ています。マディソンスクエアガーデンでゲーム大会が開催されていますので、少なくともプロレスなどの産業の規模になっています。

日本はまだ始まったばかりですが、ゲームユーザーの層が広いですし、今の若者の中にはプロ選手になれるなら目指したいという人もたくさんいると思うので、産業化までに意外と時間がかからないかもしれません。

また、動画メディアとの連携も期待できます。eスポーツの興隆には、アメリカではTwitchなど動画メディアが積極的に取り上げて行った背景があります。

日本でもゲーム実況が、ゲーム業界をかなり盛り上げてきました。その意味でeスポーツと動画メディアは非常に相性が良い。しかもドワンゴが主催した「闘会議」が日本で最初のプロライセンス発行の大会になったので、eスポーツによってゲーム業界が活性化することは、ドワンゴにとっても非常に大きな意味をもっています。

ゲームは強力な動画コンテンツであるので、eスポーツはニコニコ動画のサービスに不可分な重要な要素だと思っています。(談)

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