前回、2015年のワールドカップで南アフリカを破るなど、3勝を挙げた日本代表。今大会もロシア、アイルランド、サモア、スコットランドとの対戦が決まっており、前回惜しくもかなわなかった決勝トーナメント進出への期待が高まっている。過去11年、15年の2大会のワールドカップ出場経験を持ち、今大会でも中心選手として期待される田中史朗選手に今大会への期待を聞いた。
ラグビーワールドカップ2015年大会で日本代表が得たものとは?
―― 来年日本でワールドカップが開催されます。母国での開催を選手としてどんな気持ちで迎えますか。
田中 2011年のニュージーランド大会、15年のイングランド大会の2大会に出場させていただきましたが、両大会とも国を挙げて盛り上げていました。両国に比べ日本のラグビー熱はそこまで高くはありませんが1年後の開幕の時には盛り上がっているはずですからとても楽しみです。ただ、選手の立場としてはしっかりと準備をしていくだけですね。
―― 初めてワールドカップを見たのは、どの大会ですか。
田中 9歳の頃にラグビーを始めたのですが、大会を見たのは意外に遅くて、14歳だった1999年の大会からです。当時、日本代表の村田亙さんに憧れていて、そのスピードとともにラグビーに対する高い意識に影響を受けていました。当時、ラグビーマガジンの懸賞で村田さんのジャージが当たったので、毎日着ていました(笑)。
―― 自身のポジションであるスクラムハーフの魅力は。
田中 ゲームをコントロールできるところです。体の大きな選手や足の速い選手がいるので、彼らに指示を出して効率的に動いてもらい、ディフェンスやアタックを仕掛けていく。特に攻めて前に出ていく時にはスペースもよく見えるので、フォワードやバックスを投入していきながら試合をコントロールしている実感があります。ただ、その感覚をつかむまでは苦労しました。
―― 15年大会は日本代表が快進撃を遂げました。そこで得たものは。
田中 安心というか安堵感です。というのも、11年の大会で1勝もできなかったことで罪悪感というか、自分たちのせいで日本のラグビー人気が凋落したといった思いがありました。それがスーパーラグビーへの挑戦や代表での頑張りにつながり、ベスト8には届きませんでしたがある程度の結果を残せたので、11年の悪夢を振り払い、肩の荷が下りたと感じました。しんどかったですね。
ラグビー日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフ氏はどんな人物か?
―― 田中選手は日本人初のスーパーラグビー選手ですが、所属したハイランダーズで現日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフ氏と出会っています。どんな方ですか。
田中 ジェイミーは最後に一声掛けるだけでチームをまとめあげることのできる大きな存在ですね。実際に体も大きく威圧感もありますが、彼のひと言には重たいものがあります。また、僕が海外に出て行くきっかけをくれたトニー・ブラウンともハイランダーズで一緒でしたが、今も日本代表のコーチとして共に戦っています。
―― エディ・ジョーンズ氏とジェイミー・ジョセフ氏の違いは。
田中 エディはしんどい練習を無理強いしてでも重ねてチームを作り上げていく人で、選手との交流も少なかったですが常にラグビーのことを100%考える人でした。ただ、日本人選手の多くが意見を言えず、言えても逆にエディからいろいろと指摘されることで、委縮してしまい自分のプレーが出せなくなってしまう選手もいました。そういった面では、ジェイミーも厳しいコーチですが、エディの時代よりはしっかりとコミュニケーションがとれています。どちらが良いとは言えませんが、今の方がストレスはありません。前回のワールドカップが終わって、外国人選手を含む多くの選手が代表から一時離れたり、引退発表が相次いだりしたのも、それだけみんな多くのストレスを抱えていたんですね。
―― ただ、そういった状況に追い込まれなければ、あのような結果は生まれなかったってことですね。
田中 そうですね。それくらいのレベルで練習をしなければいけないということを学びました。また、結果を出したことで今や多くの選手の意識が高まりました。エディの時代には僕がエディと意見を戦わせたり、チームメートにも直接意見したりしましたが、今は何も言わなくても高い意識を持っています。そういう意味では、精神面もプレーの面でも日本代表のレベルは上がっています。
ラグビーワールドカップで田中史朗選手が注目する選手は
―― ワールドカップでは、どのチームとの対戦が楽しみですか。
田中 スコットランドですね。前回大会でも負けていますし、13年にも戦っていて、後半20分まではすごくいい勝負をしていたのですが、最後に突き放されて悔しい思いをしました。もう一度対戦して、勝つのを楽しみにしています。
―― 前回大会のスコットランド戦は残念でした。敗因は疲労ですか。
田中 しんどかったですね。試合間隔が中3日しかなかったこともありますが、南アフリカ戦の後の盛り上がりも原因です。世界の強豪を破ったのですから当然うれしくって、選手の中には祝杯を挙げる人も結構いました。僕もお酒は大好きなんですが、お酒を飲んでしまうと疲労回復が遅れるので飲まなかったんです。その時に祝杯を挙げることを止められればよかったのですが、さすがにみんなの喜んでいる顔をみてしまうと……、言えませんでした(笑)。でも、次は言いますよ。
―― 大会まで約1年、どんな準備をしていきますか。
田中 個人としては、フィットネスやスキル、スピードといった能力を上げていきたいです。チームとしては以前よりも外国人と日本人のコミュニケーションがとれていますので、さらに対話を増やして、ひとつにまとまっていければと思っています。
―― 日本代表の注目すべきところはどこですか。
田中 チームワークですね。個人能力が高い選手もいますが、それだけでは世界で勝てません。ですが一人一人仕事が決まっていますので、その仕事をきっちりできれば良いトライが取れます。ですからチームワークで最終的なトライにまで結び付けるところを見ていただきたいですね。
―― 世界中からもトップ選手が集まります。注目すべき選手は。
田中 僕と同じ9番の選手であれば、オールブラックスのアーロン・スミス選手ですね。彼はハイランダーズ時代のチームメートですがスピード、フィットネス、パスにキックとパーフェクトな選手ですので9番を目指す選手は、特に見てもらいたい選手です。また、スコットランドのグレイグ・レイドロー選手もキックがうまく、卓越したリーダーシップがあるといわれています。彼らに限らず、すごい選手が世界から集まります。ぜひ、スタジアムに足を運んで応援してほしいですね。
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