SUBARU(スバル)で、次々と問題が発生している。新車の完成検査の不正に加えて、大規模なリコールが発生、1月には国内唯一の生産拠点である群馬製作所(本工場、矢島工場)の稼働を一時停止した。国内外に熱狂的なファンを抱えるスバルに、いったい何が起きているのか。文=ジャーナリスト/立町次男
検査不正、大規模リコール、パワハラ等、スバルで問題が相次ぐ
端緒にすぎなかった完成検査の不正問題
2018年6月下旬の定時株主総会後の取締役会で正式に就任したスバルの中村知美社長。17年秋からの完成検査問題でCEO(最高経営責任者)職を返上した吉永泰之前社長(現会長)に代わり、信頼回復への陣頭指揮を執ることになった。
しかし、新体制になっても問題は続発しており、気が休まる暇はなさそうだ。
18年9月下旬に発覚したのは、ブレーキやステアリング(ハンドル)という、安全性に直結する機能の検査に関する問題だったことから、スバルに対する批判の声が強まった。
本来ならブレーキペダルだけを使って後輪の制動力を確認するところ、ハンドブレーキも引いていたなどの事例があり、外部の弁護士らによる調査報告書では「悪質な検査違反行為と言わざるを得ない」と指摘された。
この時、記者会見で「検査の優先度が低かったのでは」と問われた中村社長は、「品質は自動車メーカーの根幹をなす部分で、今も昔も最優先事項としてやってきたつもりだ」と回答。「組織風土を改革する」と強調したが、むなしく響いた。
この時、スバルは検査員の証言をもとに、「不正が行われていたのは17年12月まで」と説明したが、18年11月初旬にこれを覆し、前回の会見(9月下旬)以降も不正が続いていたと公表、18年1~10月に国内向けに製造した全乗用車約10万台のリコールを届け出ると発表した。
中村社長は再び会見場に登場し、「不正は今回で最後です」と終結宣言。就任したばかりで、9月の段階では中村社長に同情的な向きもあったが、経営責任を追及する声も上がり、「再発防止策を進めたい」と繰り返すのが精いっぱいだった。
会見の内容からは、調査の独立性を大義名分として、自社で原因を突き止める意欲に乏しいことが明らかになった。国土交通省も懸念を強め、スバルに再発防止策の実施状況を四半期ごとに報告するように求める「勧告書」を交付。スバルの検査体制については「深刻な状態」と批判し、重点的に監視対象とする方針も伝えたという。
スバルは責任の明確化のため、製造部門を担当する大河原正喜代表取締役が同年12月末で辞任。大河原氏は兼務する専務執行役員も19年3月末で退任する予定だ。
製造本部長と群馬製作所所長を兼務していた為谷利明氏も19年3月末で常務執行役員を退任する。担当役員を一新するのは、再発防止を徹底するためだ。
41万台のリコールと群馬工場の生産停止
だが、この2つの不祥事が発生した間にも、新たな問題が明らかになっている。
不正とは異なるが、10月下旬に18年4~9月期の連結業績予想を突如、大幅に下方修正。営業利益見通しは、8月に公表した1100億円と比べて4割以上少ない610億円に引き下げられた。
業績予想修正時はその理由を詳しく明らかにしなかったスバルだが、やがて国内外で主力小型車「インプレッサ」など約41万台のリコールを発表した。
「バルブスプリング」というエンジン部品に不具合があり、リコールではこの部品を交換する。車体からエンジンを取り外して分解する必要があるが、1台当たり16個使われており、改修には2日間もかかる。
このため、費用は約550億円と大きく膨らみ、これだけで通期の営業利益の4分の1近くが吹き飛ぶ計算だ。不正やこの問題を受け、19年3月期の国内生産計画を当初の予定から約1万6千台引き下げることになった。
バルブスプリングが使われている水平対向エンジンはスバルの独自技術。スバルの象徴的なエンジンの部品の不具合ということで、ブランドイメージにも痛手だった。最初に不具合が見つかったのは13年と、リコールまで5年以上かかったことになり、対応の遅さも印象づけられた。
年が明けても、問題発生は止まらなかった。
1月中旬、一部車種で使用している「電動パワーステアリング装置」で不具合が生じている可能性があることが判明したとして、同日夜から、群馬製作所でのすべての車両生産・出荷が停止するに至った。
先に新聞などで報道された後に、工場の稼働停止を発表するなど、広報対応も後手にまわる。1月下旬には不具合の原因を確認し、対策を施した部品の準備にめどが立ったことから、車両生産・出荷を再開した。
1月末に国交省に届けたリコールは約780台だったが、稼働日ベースで10日間も生産を停止したため、約2万台の影響が生じたようだ。同社は連結業績への影響を「精査中」としており、業績を下押しする可能性がある。
さらに、商品の問題ではないが、1月24日には、群馬製作所の総務部に勤務していた男性社員が長時間労働や上司のパワハラとも取れる言動が原因で自殺していたことを、遺族の代理人が明らかにした。スバルは過労自殺を契機に社内調査したところ、15~17年に、社員約3400人に対し、約7億7千万円の残業代の未払いがあったことも分かった。
スバルで問題が続出する原因はどこにあるのか?
経営陣と生産現場の意識が乖離
このような問題が積み重なり、スバルの国内販売は低迷している。
18年の国内販売は、前年比16.0%減の約14万8千台と、2年ぶりの前年割れとなった。同社は「インプレッサや『レヴォーグ』の新型車効果が落ち着いてきたことが要因」と、不祥事だけの問題ではないとしているが、昨年7月に主力のスポーツタイプ多目的車(SUV)「フォレスター」を全面改良したにもかかわらず、総販売台数が大幅に減っている要因に、数々の不祥事によるイメージ悪化があることは否定できない。
そして、日本自動車販売協会連合会が公表した1月の国内登録車(軽自動車を除く)販売台数をみると、スバルは前年同月比4割減と大幅に落ち込んだ。生産停止で販売店による顧客への新車の引き渡しが滞ったとみられる。
スバルで不祥事が続発した原因はどこにあるのか。大きな要因としては、経営陣と生産現場との意識の乖離がありそうだ。
17年12月に国土交通省に提出した検査不正の調査報告書は、「検査工程を含め工場の『現場』の立場や権限が強く、現場内でルールの制定および運用を完結させてしまうことが可能だった」と指摘している。生産現場の自主性を重視するあまり、管理職や経営陣との間でコミュニケーション不足に陥っていた可能性が高い。
経営陣が指示した調査に対し、生産現場の従業員が真剣に向き合わなかったため、新たな調査をやる度に、これまでに判明していなかった不祥事が明らかになり、経営陣が対応に追われる、ということが繰り返されたようだ。
急成長にコンプライアンスの仕組みが追い付かず
また、中村社長が「急成長に伴うひずみがあった」と認めるように、業容の拡大にコンプライアンス(法令順守)の仕組みが間に合っていない可能性もある。
世界販売台数は、約64万台だった12年3月期から右肩上がりで成長し、18年3月期は106万7千台に成長。増加率は67%で、成熟産業である自動車でこれほどの勢いで販売台数が増えるのは異例といえる。牽引したのは北米(米国、カナダ)市場。09年に主力車「レガシィ」を全面改良したのを契機に、インプレッサとフォレスターを合わせた主力3車種の車体を現地の消費者向けに大きくし、これが見事に奏功した。
台数成長の一方でスバルは利益率の高さも業界トップクラスだった。その陰に、検査など利益に直結しない設備への投資抑制や、賃金の未払いなどにみられる従業員へのしわ寄せがなかったとは言い切れない。
北米市場はいまだに好調だ。18年12月まで、米国は85カ月連続、カナダは31カ月連続で前年を上回る販売実績を残している。
18年通年でも、米国は5.0%増で、10年連続で過去最高を更新。国内が低迷する中、18年は世界販売も過去最高の約106万3千台を記録している。
しかし、群馬製作所の生産現場の変調が続けば、輸出にも影響して好調な地域での販売機会を逃し、スバルの屋台骨を揺るがす可能性もある。ブランド力が致命傷を負う前に挽回し、輝きを取り戻すためにも、中村社長のリーダーシップが問われている。
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