「日本市場を飛び出し海外へ」と考えた時、助けてくれるのが日本貿易振興機構(ジェトロ)だ。海外のマーケット情報を提供するだけでなく、パートナーの紹介や商談会の開催など、さまざまなサポートを行っている。農水省の掲げた輸出1兆円を陰で支えている。
「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
食の輸出1兆円の目標達成が見える
2018年8月に開かれた「FOOD EXPO2018香港」。この見本市はアジアでも最大級の総合食品見本市で、3日間で50万人が集まった。日本からも自治体や企業など約50社・団体が参加、日本食品の売り込みを図った。会場には斎藤健農水相(当時)も訪れ、日本からの出展者を激励していたが、日本の「食」が世界に進出するには、こうした見本市に参加するのが早道だ。
例えば、ある宮崎県の老舗味噌メーカーは、シンガポールの見本市に出展し、それがきっかけでシンガポールの日系百貨店に売り場を確保。ここを拠点にアジア圏への浸透を図っている。また愛知県のソースメーカーは、中東・ドバイの見本市に参加、そこから中東の富裕層を開拓していった。
このような見本市を通じて、日本の「食」の海外展開を後押ししているのがジェトロだ。
ジェトロは前身の日本貿易振興会時代から通算すると60年にわたり日本企業の海外進出を支援してきた。農水省は日本の農産物の輸出を今年1兆円にする目標を2009年に掲げた。
国内マーケットが縮小に向かっている一方で、海外には有望マーケットがあり、世界的に日本食ブームが起き始めていた。また中国を筆頭にアジアの国々が経済発展し富裕層が増加したことで、価格ではなく品質を訴求することで市場を開拓できると考えたためだ。
この目標は、途中足踏みもあったものの、ここにきて拡大のペースが上がっており、昨年はついに9千億円を突破したと見られている。1兆円の目標達成が見えてきた。
このサポートを行ってきたのもジェトロだった。
相手国パートナーの紹介サービスも
ジェトロのホームページには、「農産物・食品の輸出支援ポータル」というページがある。その中の「世界の食のトレンド」では、世界のレストランやスーパーマーケットでも日本産の食材がどのように活用されているか詳しく紹介してある。
例えば、パリのベジタリアンカフェレストランでは、たまり醤油、豆腐、シイタケなどの日本食材が使われている例や、アメリカのシリコンバレーにあるステーキハウスでは、和牛にこだわり、海産物も築地から取り寄せていることが紹介されている。このページを読むことで、どんな日本の食材がどこの国で評価されているのか、知ることができる。
また「日本からの輸出に関する制度」というページでは、品目、地域ごとにどんな規制があるのかを知ることができる。例えば「コメ・米国」で調べると、アメリカの規制が分かるだけでなく、輸出手続きや関税、流通・小売りにおける注意事項まで説明してある。農産物・食品の輸出を検討している事業者にとっては必見のサイトだ。
その上で、ジェトロの相談窓口に連絡すれば、さまざまな形でサポートしてくれる。
「輸出でも、直接現地に進出するにしても、重要なのはいかにして信頼できるパートナーを見つけるか」というのは海外進出企業からよく聞く話だ。いいパートナーが見つかり、その国で売り上げを大きく伸ばしたケースもあれば、半ばパートナーに騙され、泣く泣く撤退したという話も珍しくない。
このパートナー探しに関してジェトロでは、東京・大阪本部をはじめとした各国内事務所で世界各国の企業情報を掲載したデータサービスを利用できる。
また有料だが、ジェトロの海外事務所を通じての企業紹介も行っている。ただし、あくまで情報提供であり、個別企業の紹介には応じていない。あくまで海外進出の入り口にすぎないというわけだ。
ジェトロ主催の商談会の重要性と成功させる秘訣
商談会への参加が新規市場開拓や商品開発につながる
またジェトロの主催する商談会への参加も海外進出には不可欠だ。
商談会には国内・海外それぞれで開催されている。
国内商談会は、ジェトロが海外から招く有力バイヤーとの個別商談会。商談会に申し込み、海外バイヤー一覧から希望商談先を選択すると、バイヤー側はその中から商談相手を選定、開催当日に商談を行うという仕組みだ。
実際この商談会で新規市場を開拓した例もあれば、取引にはいたらなかったものの、海外バイヤーから欲しい商品を聞くことで、その後の商品開発につながったというケースは数多い。
また海外商談会は、日本の事業者が現地に行って、卸・飲食店・小売店などのバイヤーと商談するもので、農産物・食品分野だけでも、今年度だけで16回開催する。
バイヤーとの商談は、見本市などに参加しても行うことはできるが、ジェトロ主催の商談会の最大の魅力は、参加費が無料ということだ。海外の見本市の出展料は一番小さいブースでも平均して50万円かかると言われている。これに加えて、渡航費や宿泊費、サンプル輸送費などが必要になる。ジェトロの見本市なら、旅費などを払うだけですむため、出展者の負担ははるかに小さい。
また、有料の海外見本市でもジェトロが「ジャパンパビリオン」を構える場合は、ここに出品することで出展料の一部をジェトロが補助する制度もある。
ジェトロ主催の商談会と違って、見本市は規模が大きく、世界から有力バイヤーも参加する。ジェトロのジャパンパビリオンは、見本市の中でも好位置を確保できるため、単独で出展するよりバイヤーの目に触れるチャンスは大きい。またジェトロがバイヤーにプロモーションを行うなどのサポートもあるという。
商談会をうまく運ぶには事前準備が不可欠
ジェトロによると、商談会でバイヤーとの交渉をうまく運ぶためのコツは、事前準備にあるという。前もって、輸出品の栄養、健康へのプラス効果、物語性を整理したうえで、産地の背景や生産工程・生産履歴を明確にしておくことが重要だ。そのサポートもジェトロでは行っている。
10年にジェトロが行ったアンケート調査によると、日本の農産物・食品業者が輸出を始める場合の障害になるトップ2は、①海外での輸入制度や需要動向を把握するための正確な情報が入手しにくい②相手国インポーターの信用度や卸・小売りへのチャネルが不透明――というものだった。
以来、ジェトロは、その対策に取り組んできた。本稿で紹介したホームページの作成や、見本市等での対応は、それに基づくものだ。
とはいえ、輸出額はまだ1兆円に届かない。農産物・食品を日本の成長分野と位置付けるなら、この程度では物足りない。ジェトロの果たす役割は依然、大きい。
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