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電気自動車普及で始まる車載用電池の覇権戦争

EV

自動車産業が「100年に一度」と言われる変革期に突入している。従来のガソリンあるいはディーゼルエンジンの車が、電気自動車(EV)に取って代わられる流れになってきたのだ。内燃機関から電気へ。これを支えているのは車載電池であり、主役はリチウムイオン電池である。日本発の技術であり、部材メーカーは国内にそろっている。文=ジャーナリスト/永井 隆

車載用電池で存在感を高める中国

日本発のリチウムイオン電池技術

アメリカ・カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッションヴィークル=排ガスを出さない車。つまり温室効果ガスである二酸化炭素を一切出さない車)規制をはじめ、ZEV規制をモデルとした中国のNEV(新エネルギー車)規制、さらにアメリカやEUそして2020年から日本でも導入されるCAFE(企業平均燃費)規制……。

フランス政府とイギリス政府は、40年までに内燃機関を搭載する車の販売を禁止する方針を17年に相次いで発表した。パリ協定をはじめとする、世界的な温暖化対策に向け、自動車を巡る環境規制は高まる一方だ。

さらに、CASE(ケース=コネクテッド:つながる、オートノマス:自動運転、シェアリング&サービス:カーシェアリングとサービス、エレクトリック:電動化)の波が自動車に到来。車は単体で走るだけの乗り物ではなく、今や社会インフラの一つとして動き出しているのだ。ベースになるのは、高容量を実現させたリチウムイオン電池である。

電動化(EV化)の延長線には自動運転がある。EVがガソリン車に比べて応答性能に優れ、遅れやムダがない、という車両としての特性だけではない。駆動用として搭載されているリチウムイオン電池の存在は大きい。

自動運転の車両には、レーダーをはじめ複数のカメラなどが搭載されている。さらには、交通システムの管制塔とも通信でつながる(コネクテッド)。リチウムイオン電池はこれらの機器の電源となるのだ。

そもそもリチウムイオン電池は、日本発の技術である。1980年代半ばに旭化成が基礎開発をして、91年にソニーが世界で初めて商品化した。

開発者である旭化成名誉フェローの吉野彰氏、量産を成し遂げたソニー元技術者の西美緒氏は、“工学分野のノーベル賞”と呼ばれる「チャールズ・スターク・ドレイパー賞」を2014年に受賞。2人はノーベル化学賞の呼び声も高い。

吉野氏は現在、経済産業省が主導してEV向けの次世代型電池開発を目的に設立した技術研究組合「リチウムイオン電池材料評価研究センター」(LIBTEC・大阪府池田市)理事長を務めている。

LIBTECには、旭化成や東レ、住友金属鉱山、トヨタ、ホンダ、マツダ、パナソニック、GSユアサなど、部材メーカー、自動車メーカー、電池メーカーから29社が参加している。

年間で1万台以上量産するEVとしては、日産自動車が12年末に発売した「リーフ」が史上初。EV、HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)向けの車載用リチウムイオン電池も、日本勢が15年頃までは圧倒的に強かった。

中国のEV市場拡大で状況が一変

ところが、中国を中心にするEV市場拡大に伴い状況は一変。17年にはパナソニックが中国のCATL(寧徳時代新能源科技股)に世界首位の座を明け渡し、その後も差は開いている。

中国政府の後押しを受けているのが大きく、CATLをはじめ、EVメーカーでもあるBYDなどの中国メーカーは、車載用電池の出荷量を増やしている。中国は世界最大の自動車市場であると同時に、世界最大のEV市場。中国EVメーカーが市場を支配しているが、外資で先行してEVを現地生産してきたのが日産だ。

その日産も、昨秋に発売した乗用EVには、中国製の車載電池が搭載されている。

EV

内燃機関車から電気自動車への移行が進む

電気自動車の未来を変える全固体電池をめぐる状況

液LIBの開発・生産競争が進む

現在、EVやPHVに搭載されているリチウムイオン電池(LIB)の電解質はみな液体だ。電池内部に電解液(リチウム塩有機溶媒)が封入され、「液LIB」などと呼ばれている。正極材(活物質)と負極材(同)、正極と負極の間に組み込まれるセパレーター(絶縁材)で構成される。

正極材は、リチウム酸化物。マンガン系、コバルト系、ニッケル系、リン酸鉄系、コバルト酸リチウムの一部をニッケルとマンガンに置き換えた三元系と5種類がある。現在は三元系が主流だ。

国内メーカーとしては住友金属鉱山、日亜化学工業、田中化学研究所、本荘ケミカルなどがある。海外では韓国のサムスンSDI、LG化学の他、BYDをはじめとする中国メーカーが有力だ。

負極材は、天然および人造のグラファイト(黒鉛)が主に使われている。日立化成、三菱ケミカル、日本カーボン、JFEケミカルが主なプレーヤー。海外では中国メーカーが強い。

また、東芝は負極にチタン酸リチウムを採用した安全性が高い「SCiB」というリチウムイオン電池を商品化。スズキはHVに採用しているほか、スズキと東芝、デンソーはインドでのSCiBの電池工場建設に着手している。

セパレーターは、ポリエチレン、ポリプロピレンの単層構造もしくは多層構造。国内では旭化成、東レ、宇部興産、ダブルスコープがメイン。

電解液は三菱ケミカルや宇部興産などが手掛けている。

また、東北大学は、大がかりな設備投資を必要としないリチウムイオン電池の量産技術を確立させている。安全性の高いマンガン系であり、車載用としても利用できる。

セパレータ

リチウムイオン電池に使われるセパレータでは日本企業が優位にある

全個体電池のメリットと課題

さて、液LIBに代わる、新世代の車載電池として期待されるのが全固体電池だ。液体の電解質を固体とするのが、全固体電池である。実用化できれば、超急速充電が可能になり、EVの航続距離を飛躍的に延ばすことができ、火災の心配がない、セパレーターが必要なくなるなど、メリットが強調されている。

では、逆に固体の問題点は何か。一つは電解質と活物質(電極)との 界面(境界)である。

現在のLIBでは、リチウムイオン(陽イオン)が電解液の中を移動しながら、正極と負極とを行き来して、充放電が繰り返される。リチウムイオン酸化物の正極、主にグラファイトの負極とも、層状構造で充放電により内部にリチウムイオンが入り込む。これに伴い、電極は膨張と収縮とを繰り返すのだ。

全固体電池実用化で先行するトヨタ自動車

液体電解質なら流動性があるため、電極との界面は安定して維持できる。しかし、電解質が固体になると界面が保てなくなり、電池は機能しなくなってしまう。

また、イオン伝導度が高いとされる固体電解質は硫化物であり、どうしても危険が伴う。工場での量産でも、EVの走行時においても、ほんの少しの水分(湿気)と触れただけで、硫化水素が発生してしまう。

LIBはリチウム原子が電子を失いリチウムイオンになる酸化、逆に電子を得てリチウムに戻る還元の化学反応を利用しているが、リチウムイオンは充電の際には負極にたまり、放電では正極へと移動していく。界面での抵抗をいかに小さくするかは、電池を進化させていくポイントでもある。

全個体電池の開発で先行しているのはトヨタ。東京工業大学と共同研究を重ね、イオン伝導度が高く安定した材料特性の固体電解質の開発に、ある程度のメドをつけていると見られる。パナソニックとの協業により、実用化を目指していく。

部材メーカーとしては、三井金属、JX金属、出光興産などが、固体電解質の開発を進めている。電極開発では住友金属鉱山や住友化学、GSユアサなどが参入している。

リチウムイオン電池は日本で開発しながら、中韓に主役の座を奪われてしまっている。

LIBTECでも官民挙げてオールジャパンで全固体電池の開発に取り組んでいるが、技術的な優位性を確保し続けることは求められる。なぜなら、世界的な競争の中で、主要材料である特にコバルトの調達力が最終的に問われるからだ。

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