最近メディアに取り上げられることが増えたワークマン。群馬県のスーパーマーケットの一部門だったが、今では売上高1千億円に迫る勢いだ。元はガテン系の人たち御用達の店だったが、今ではアウトドアやタウン着としても人気を集める。その秘密はどこにあるのか。文=ジャーナリスト/下田健司(『経済界』2020年2月号より転載)
ワークマンの成長を牽引するワークマンプラス
成長期のユニクロを彷彿とさせる勢い
昨年来、突如として小売業界の表舞台に現れてきたのが、作業服専門店チェーンのワークマンだ。
小売業界で屈指の高収益企業として知る人ぞ知る存在だったが、扱う商品はプロ向けの作業服という地味でニッチな商品。アパレル業界でも注目されることはほとんどなかった。
それが2018年9月、新型店の「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」をオープンすると一転する。メディアがこぞって取り上げたこともあって、これが大ヒット。一躍脚光を浴びることになったのである。
新型1号店はショッピングセンター(SC)にテナント出店した「ワークマンプラスららぽーと立川立飛店」。それまで展開してきたワークマンと何が違うかと言うと、実は扱っている商品は同じで、ディスプレーや配置など売場での見せ方をカジュアル仕様に変えただけだ。
ワークマンは勢いに乗って、ワークマンプラスの店舗を増やしていく。19年3月期業績をみると、このワークマンプラス効果が表れている。
チェーン全店売上高は930億円で、前の期に比べて16.7%伸びた。利益の源泉となる既存店売上高は14%も伸ばしている。国内消費が振るわないなか、既存店を2ケタ伸ばす小売業は今どき珍しい。本業の儲けを表す営業利益は27.6%も伸ばした。
絶好調は続いている。20年3月期第2四半期の業績をみると、既存店売上高を27.8%も伸ばし、チェーン全店売上高は32.2%増。営業利益は55.1%増と期初計画から大きく上振れした。
足元をみても、既存店売上高は10月23.8%増、11月24.1%増と好調だ。株価は1年前の2倍超、1万円の大台が見えてきている。冬物商戦で好調を持続できれば、20年3月期の業績予想を上方修正する可能性が高い。成長期のユニクロを彷彿させる勢いだ。
PB開発で一般客需要を取り込む
ワークマンの成功のきっかけとなったのが、PB(プライベートブランド)の開発だ。
ワークマンの主要客と言えば、建設現場などで働く職人だが、この職人の数は減少傾向にあり、作業服の市場も縮小する見通しにある。
ワークマンは国内の作業服専門店市場では断トツのシェアを誇るが、成長性に乏しいマーケットの中では新たな戦略が必要となっていた。
目を付けたのが一般客の取り込みだった。きっかけは、プロ客ではなく一般客の需要があることを発見したことだ。
ワークマンは10年ほど前からPB開発に乗り出していたが、一部の商品が口コミやSNSで広がり一般客の人気に火が付いていたのである。
よく知られている例がレインスーツだ。本来の用途は雨天での屋外作業用の防水・防寒ウエアなのだが、ライダーが使えるという評判がSNS上で広がった。プロ向けに開発された商品だが、それとは異なる用途として一般客も利用可能な商品だったのである。
一般客への人気拡大を受けて、3年前にPBを用途別にブランド化した。アウトドアウエア「フィールドコア」、スポーツウエア「ファインドアウト」、レインスーツ「イージス」という3ブランドを投入。人気は続き、売り上げを年々拡大していった。
手ごたえを感じたワークマンは、これら3ブランドを中心にそろえた店舗を開発した。それがワークマンプラスなのである。
ワークマンの特徴と成長の背景
機能を維持しつつ初心者も手が出しやすい商品
ワークマンは、群馬県を本拠とする小売業のいせや(現ベイシア)から1982年に分社化された企業だ。
スーパーマーケットのベイシア、ホームセンターのカインズなどを擁するベイシアグループの一員だ。ちなみに、ベイシアグループといっても全国的な知名度はないが、グループ総売上高9千億円規模の北関東ではよく知られた有力小売グループである。
1号店は80年群馬県伊勢崎市に開いた「職人の店 ワークマン」。87年に100店舗、2001年に500店舗、16年に800店舗と店舗数を増やしていった。
どの店舗も100坪程度の売場に1700アイテムをそろえ、標準化されている。この標準化が低コスト運営を可能にし、高収益をたたき出す基盤となっている。ワークマンでも、ワークマンプラスでもこれは変わらない。
何といっても売りは安さである。
例えば、アウトドアやスポーツの有名ブランドと比べると、アウトドアウエアはほぼ半額以下、スポーツウエアとなると3分の1以下だ。実際、店頭に並ぶ商品を見ると、大体1900円、2900円といった価格が中心になっている。
想定する顧客は初心者だ。アウトドアウエアを例に挙げると、登山・トレッキング用ウエアを有名ブランドで一通りそろえようとした場合、購入額はそれこそ数万円に達してしまうだろう。
だが、ワークマンのアウトドアウエアなら、ビギナーがトライアルとして求めるときに格好の値段だ。最近は、アウトドアウエアやスポーツウエアを街着として着るアスレジャーも広がっており、そのトライアルとしても手を出しやすい。
売りは安さだけではない。ワークマンはPB商品開発で主要顧客である職人ならではのさまざまな要求を満たす機能を盛り込んできた。
耐久性、防寒性、防風性、遮熱性、通気性、吸汗性、透湿性、速乾性、ストレッチ性、耐水性、抗菌性……。値段の安さに加え、こうしたさまざまな機能を取り入れていかなければ、職人には買い続けてもらえない。PB商品には必ずそうした機能が強く打ち出されている。
低価格を実現するコスト構造
ワークマンはどのようにして安さを実現しているのか。
ひとつは大量生産による原価低減である。ワークマンの店舗数は約850店舗。作業服専門店業界の2位、3位は数十店規模だから断トツの店舗数である。
作業服という限られたカテゴリーとはいえ、この規模は大きな力となる。ワークマンもワークマンプラスも扱う商品は共通。ワークマンプラス専用商品はないから、この規模をそのまま生かせる。
もうひとつはいつも一定の安さで販売するEDLP(エブリデイ・ロー・プライス)である。
アパレル業界では、シーズン終盤になるとクリアランスセールなどと銘打って値下げして商品を売り切っていこうとする。値下げするぶん利幅も小さくなるため、商品投入の段階でそのぶんを補えるように価格設定している。つまり、原価率(販売価格に対する原価の割合)を低く設定しておくのである。
これに対して、ワークマンは値下げをしないため、利幅を高めに設定する必要がなく、低価格にすることが可能となる。
通常ならワークマンに追随するライバルが現れてもおかしくないが、今のところみられない。
その理由の1つが原価率である。ワークマンの原価率は64%。これに対して、例えばユニクロの原価率は35%程度とみられている。ワークマンと同等の価格と機能を持った商品にしようとしても、コスト構造の違いがカベとなって立ちはだかるのだ。
ワークマンが力を入れるアンバサダーマーケティング
レインスーツがライダーに人気になった例が示すように、ワークマンの成功には一般客のSNSが大きな役割を果たした。それだけに、SNSの活用をマーケティングの重要な柱と位置付けている。
19年9月、今シーズンの秋冬向け商品の投入に合わせて、「過酷ファッションショー」を開いた。防風、防寒、防水といった機能をアピールしようと、文字通り雨や雪、強風など荒天時の過酷な環境を再現した。一風変わったイベントということもあって、メディアだけでなく多くのインフルエンサーが取り上げ、話題が拡散した。
最も力を入れているのが、アンバサダーマーケティングだ。
これは、ブログやSNSで情報発信しているワークマンファンが製品開発アンバサダーになり、製品開発にも参加し情報を拡散。ブランド認知の向上を図るというもの。「ワークマン女子」と名づけ、女性客の取り込みにも注力するほか、キャンプ・釣り・バイクなどアウトドアの各分野でアンバサダーとのコラボ製品を増やしていくという。アンバサダーは現在十数人だが、20年末までに50人にする計画だ。
こうした話題づくりやブランド認知向上と並行して、ワークマンプラスの店舗を新店と既存店改装で増やす。19年9月末時点の店舗数は848店舗(ワークマン779店舗、ワークマンプラス69店舗)。25年1千店舗が目標だ。来年3月には、平日はワークマン、土日はワークマンプラス仕様という店舗を実験する予定で、あらゆる手を駆使しながらワークマンプラス化を加速させる。
1店舗の平均年商は既存のワークマンが1.1億円。ワークマンプラスとなると、路面店で2億円、SCテナントの場合は3億円にもなる。ワークマンプラス効果は絶大だ。
ワークマンプラスの店舗が増えれば増収効果が大きくなるわけで、当面ワークマンプラスが業績拡大を牽引していくだろう。
ワークマンの次の一手は?
ただ、ファッションビジネスの宿命か、急成長を遂げた衣料専門店は、必ずといっていいほどカベにぶつかるときがくる。つい先ごろも、経営難が伝えられる米ファストファッションブランド「フォーエバー21」が日本から撤退した。
確かにワークマンに死角は見られない。ワークマンプラスは全店の1割にも満たず、まだまだ成長余力がある。
しかし、ワークマンプラスが全国に行き渡れば飽和感も出てくるだろう。一般客の取り込みに成功したが、プロ客よりも移り気なだけに、SNSを使ったワークマン流マーケティングの次の一手も問われる。小売業界で久々に明るい話題を提供したワークマンだが、その実力が問われるのはこれからだ。
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