スタートアップ業界を専門とする敏腕ヘッドハンター、フォースタートアップスの恒田有希子氏は、国内有力スタートアップ企業とエグゼクティブ人材のマッチングをいくつも実現させてきた。起業家らと密にコミュニケーションをととっている恒田氏が、企業のリーダーに欠かせないと考えている力とは、使命感に裏付けられた勇気だという。聞き手=唐島明子 Photo=山内信也(『経済界』2020年3月号より転載)
恒田有希子氏プロフィール
恒田有希子氏が語る「勇気あるリーダー像」とは
企業の成長にとって最も大事なのは「誰がやるか」
―― ヘッドハンターとして、毎日どのような活動をされていますか。
恒田 日本を代表する起業家の皆さまにお会いして、これから日本がどうなるのか、そして世界がどうなるのか、その中でそれぞれの企業はどう成長していきたいかなどの話をお伺いしています。
とても役得の多いポジションにいると感じていますが、なぜ皆さまに会っていただけるかというと、企業の成長にとって人が最も大切であり、最重要課題だからです。ヒト・モノ・カネなどの経営リソースがある中で、経営の結果を左右するのは「誰がやるか」です。
世の中ではテクノロジーのコモディティ化が進み、技術力が高いからといって必ずしも市場で競争優位になれるわけではなくなってきました。
また資金についても、ベンチャーキャピタルがこれだけ多く立ち上がり、メガバンクさえもスタートアップに投資するようになっており、これまでほど貴重なリソースではなくなってきています。相対的に、その資金を使ってどのようなチャレンジをするのか、誰に任せたいのかが重要になります。
人を集められるリーダーは「何のために働くのか」を提示
―― 「誰に任せたいか」はリーダーの話につながりますが、企業のリーダーにとって大切な力は何でしょうか。
恒田 勇気だと私は考えています。経営者や起業家は、何も無いところにお金を賭ける。そこには頭脳の良さより、「実現できるのか分からない。それでも私はやるのだ」と突き進んでいく勇気が求められます。
日本では「ウソをつくな」「言ったことは守れ」などと教育されますので、「できることしか言ってはいけないんだ」と縛られてしまい、勇気を持った発言や行動はしにくくなります。しかし失敗を恐れず、勇気を出した回数の差が、最終的に成功する人と、何も起こらない人との差になるのではないでしょうか。
また最近では、経営者にリーダーシップがないと、採用ができなくなるのではないかと感じています。「こうしたい」という勇気があるリーダーのもとに人が集まるのではないかと。
―― 勇気あるリーダーと採用の関係について、もう少し具体的に教えてください。
恒田 これだけ日本経済のGDPが伸び悩んでいても、今の日本人はそれなりに豊かで、多くの人は幸せに生きているように見えます。衣食住で困ることはほとんどありませんし、ある程度の教育を受け、エンターテインメントにも触れられる。原体験として、日々の生活が苦しかったり、何が何でもこれをやらねばならないという切実さを抱えてたりする人は少ないのではないでしょうか。
そのように燃えるような情熱はないからこそ、人は生きる目的を求めていて、お金を稼ぐためだけの仕事を選択しなくなってきている。「何のために生きるのか」と同義で「何のために働くのか」。その答えを示すリーダーがいるところに、人が集まっています。
仕事を使命だと思い込めれば失敗を恐れず突き進む勇気に
―― 高度経済成長期の雇用体系からの変化とも関係しますか。
恒田 そうですね。先人は今の豊かな社会を築いてくれましたが、私たちはどん欲になっていて、稼げるから満足という世の中ではなくなってきています。あと10年たったら課長になれるよ、部長になれるよということが、全くモチベーションにつながらない。
またモチベーションにも、その先があります。いつもやる気にあふれている前職の経営陣に「なぜそんなにいつもモチベーション高くいられるのか」と聞いたところ、その男性は「モチベーションなんてない。僕はこの仕事が使命だからやっている」と言っていました。
使命だと思えるところまで、その会社の方針を自分の中で昇華できているのか。使命だと思い込めれば、人はとても強くて、少しくらい仕事がうまくいかなくても、モチベーションが下がることはありません。
例えば、私がレンガ職人だったとして、目の前にあるレンガを積む行為が、ただレンガの壁を作っているのではなく、城を作っているのだと思い込めるかどうか。そしてリーダーは、城を作っていくストーリーを語れるかどうか。
語れるリーダーは自分自身がそのストーリーを本当に信じているからこそ、本当に実現できるかどうかまだ分からないし、失敗するかもしれないけれども、社会をこう変革していきたいと勇気を持って発言するのだと思います。
―― たくさんの起業家の方に会っている中で、勇気あるリーダーだなと感じた方はいますか。
恒田 早い段階からクラウドファンディング事業を手掛けてきたREADYFOR(レディーフォー)を起業した米良はるかさんです。
米良さんは一度大病を患い、CEOを休職する期間を経てから復職されています。「休んでいる時に、もっと世の中や日本に貢献したいと思い、新たにチャレンジすることに決めました」と仰っていて、少し前に資金調達しました。クラウドファンティングをベースに、短期的な利潤の追求だけでは生まれない、持続可能な社会を実現するための資金流通メカニズムの確立を目指すそうです。
スタートアップを支援している私としては、米良さんをはじめとする起業家、経営者の皆さんに本当に成功してほしいですし、もし彼らが前に倒れてしまっても、周囲の人がこぞって助けて、救い上げていく世界になるといいなと思っています。
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