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「グローバルな舞台で戦いたかったから新業態のビール事業を始めた」―鈴木成宗(伊勢角屋麦酒社長)

三重県伊勢市で1575年に創業した二軒茶屋餅角屋本店。21代目社長の鈴木成宗さんは、1997年に新業態の伊勢角屋麦酒を創業し、クラフトビール事業を開始しました。「世界で戦えるクラフトビールを造る」を有言実行する鈴木さんの素顔に迫ります。

鈴木成宗氏プロフィール

鈴木成宗

(すずき・なりひろ)二軒茶屋餅角屋本店社長。日本ホームブルワーズ協会会長。1967年三重県伊勢市生まれ。東北大学農学部卒業後、家業の二軒茶屋餅角屋本店入社。97年伊勢角屋麦酒創業、クラフトビールは国際大会の受賞多数。

21代目社長だからこそ新業態のビール事業に着手

佐藤 二軒茶屋餅角屋本店は三重県伊勢市で440年以上続くそうですね。鈴木社長で何代目ですか?
鈴木 21代目です。長篠の戦いの頃、1575年に茶屋として開店しました。地元でも古株ですね。
佐藤 そんな老舗企業の跡取りが新業態の伊勢角屋麦酒を創業したのは革新的ですよね。そもそもなぜクラフトビール事業を選んだのですか?
鈴木 連綿と受け継がれてきた餅屋の事業は、「変わらないこと」に価値を置いており、10年先が想像できてしまったからです。ビールを選んだのは、学生時代に微生物などの研究をしていたので、小さな生き物や酵母に興味があったから。子どもの頃なんて、スズムシ、ヘビ、カメ以外にも、部屋の蚊帳の中でトンボを放し飼いにしていたくらいですから。
佐藤 昆虫ドームですか!
鈴木 はい(笑)。新業態を始めるに当たっては、当時の社長や周囲には、「夏は餅屋の和菓子が売れないし、事業を拡大するには日持ちのする新商品が欲しいから、新たにクラフトビール事業を始める」と表向きの理由を説明していました。
佐藤 本当の動機は酵母への興味だった(笑)。
鈴木 そうそう。それとビールを選んだもう一つの理由は、世界を舞台に戦いたかったからです。餅屋は実家が店舗なので、朝起きて餅をつくって売る仕事は、私には世界が狭すぎました。大学時代は欧米の研究機関とやりとりしていたのに、このままでは化石になってしまう。ビールならグローバルな事業ができると分かっていたんです。ちょうど細川内閣の時に酒税法の規制緩和があったのも後押しになりました。
佐藤 そのビール事業も20年以上になりますし、「純粋に好きなこと」を継続できているのは素晴らしいですね。ビールの品質基準はどう設定されているのですか?
鈴木 弊社では出荷するビールは「国際大会で受賞できるレベルであること」を条件とし、最善を尽くしています。私は作り手に厳しいほうですが、この条件をクリアできるなら、社員にはクリエイティビティーを自由に発揮してもらって構いません。ビール会社は、芸術家のように新しいものを創造するクリエイティビティーと、イメージしたものを確実に造るサイエンティフィックなリテラシーの両方がないとできません。
佐藤 職人の勘だけではないと。
鈴木 はい。そして「伊勢角屋麦酒のクラフトビールなら安心」「国際大会の本命は伊勢角屋麦酒だよね」というポジションを確立したい。そのために他社と連携して科学的な研究も行っています。
佐藤 実際に英国ほかの有名な国際大会で金賞を受賞されているのだから有言実行ですよね。先ほど「社員にはクリエイティビティーを」とおっしゃいましたが、何か特別な取り組みはされていますか?
鈴木 今は85人の従業員がいて、ビールのレシピを書けるブルワーが私以外に3人、ブルワー予備軍が5人います。早ければ入社数年でブルワーになれるので、社内コンペを勝ち抜くと国際大会に出品するビールを造ることができます。若手にはまずそこを目指してもらっています。
佐藤 社員の大きなモチベーションになりますね。鈴木さんも博士号や国際大会の審査員の資格も取られていて、並々ならぬ熱意を感じます。
鈴木 ありがとうございます。国際大会の審査員の資格は、日本では入手できない情報やセンスを身に付けるためです。

Neko Nihik

14種のホップを使った「Neko Nihiki」、柑橘系の香りが人気の「ペールエール」など13種類のクラフトビールを製造

海外のクラフトビール文化を日本でも醸成したい

佐藤 世界を相手に戦うために必要なんですね。この先、事業承継についてはどうお考えですか?
鈴木 東京農大で醸造の研究をしている長男が継ぐ予定です。ただ事業拡大のために、マーケティングや経理、人事なども勉強してほしいとも思っています。卒業後もすぐに入社するのではなく、できれば銀行や商社などで海外勤務を経験してもらいたい。私もまだ現役ですし、一つの会社に同じ役割の2人の男はいりませんから。
佐藤 今後の事業展開は?
鈴木 ありがたいことに日本で弊社の存在感が高まっている分、責任を感じています。日本のクラフトビール業界は、ビール業界全体の1%程度と未熟なので、海外のクラフトビールの文化を持ち込んで活性化させたい。日本ホームブルワーズ協会を設立したのもそのためです。
佐藤 海外のクラフトビールは味も色も種類豊富ですよね。
鈴木 日本にはホームブルワーが少ないので、クリエイティブなものができないんです。弊社もプロとして売れるものをと考えますが、海外のホームブルワーは採算度外視で純粋に造りたいものを造り、その中からプロが生まれます。あとは、新工場での大量生産体制が整ったので、伊勢発のクラフトビールの海外展開にもっと力を入れていきます。
佐藤 鈴木社長の挑戦、これからも楽しみにしています。

「伊勢角屋の味噌と醤油、伊勢の食材を使った料理や地酒も提供する伊勢角屋麦酒 八重洲店にぜひお越しください」(佐藤)

聞き手&似顔絵=佐藤有美
構成=大澤義幸 photo=市川文雄