経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

地方発の脱毛エステ「パールプラス」急成長の理由

軸丸真衣・MEコーポレーション社長

新型コロナウイルスの影響で、接客業の多くが苦境に立たされている。美容エステティックサロンもその1つだ。そうした中、成長の勢いが止まらないのが脱毛専門エステの「パールプラス」。地方発ながら、独自のやり方で売り上げを伸ばしている軸丸真衣氏に話を聞いた。(文=吉田浩)

軸丸真衣・MEコーポレーション社長プロフィール

軸丸真衣・MEコーポレーション社長

(じくまる・まい)大分県津久見市出身。地元で女性専門の鍼灸院を約10年間運営した後、2014年脱毛専門エステティックサロンのパールプラスを開業。業界の常識を破る低料金と美容を追求する姿勢などが人気となり、郊外を中心に全国133店舗まで拡大。現在は福岡県在住。

脱毛エステ「パールプラス」の特色

地方在住女性の脱毛ニーズに応える

 「脱毛エステに就職したのではなく、病院に就職したと思ってください」

 スタッフを雇う際、こう言葉をかけているというMEコーポレーションの軸丸真衣社長。衛生管理への徹底的なこだわりが、顧客から支持される大きな理由の1つだ。

 同社が運営する脱毛エステティックサロン「パールプラス」は、2014年に大分県津久見市で誕生した。現在はフランチャイズを含め、全国133店舗まで拡大した。脱毛専門エステの領域では、業界2位の出店数を誇っている。

 もともと鍼灸師として女性専門の鍼灸院を自宅で営んでいた軸丸氏は、患者たちからムダ毛処理の悩みを頻繁に聞いていたという。当時住んでいた田舎町には脱毛専門のサロンがなく、美容意識の高い一部の女性たちは車で一時間以上かけて大分市内の痩身エステなどに通い、そこで脱毛の施術を受けていた。

 「でも、脱毛は女性にとって最低限のエチケットや生活習慣みたいなものなので、本格的なエステでなくても、そこだけしっかりやりたいというニーズがすごく多かったんです」

 軸丸氏自身も学生時代にアルバイト代のほとんどをエステに費やしていた経験を持ち、美容に関する関心は人一倍高かった。そんな背景もあり、脱毛エステサロンを自ら開くことにしたというのが、パールプラス誕生の経緯だ。

脱毛機器を自ら開発

 記事冒頭にある通り、サロンを営むにあたり最も重視したのは衛生面だ。施術室の消毒を徹底することはもちろん、特に問題視したのがレーザーやフラッシュなどを照射する脱毛器具だ。

 当時、ほとんどのサロンが導入していた脱毛器は、施術が終わった後にアルコールで拭くだけというずさんな衛生管理の下で使われていた。信じがたいことだが「脱毛エステに行ったら性病を移された」という酷い話もあったほどだ。メーカーに器具の改善を頼んでも話が進まない。そこで、軸丸氏は驚きの行動に出る。世界中から必要なパーツを集め、器具を自作することにしたのだ。

 「鍼灸院の時も、ベッドやカーテンレールの枠などを自作しましたし、難しいかもしれないけどできるはずと思ったんです」

 研究と制作に約1年半かけて完成したオリジナルの脱毛器は、照射するヘッドの部分を取り外して使用ごとに殺菌処理ができる画期的なもので、衛生面を大きく改善することに成功。現在は特許申請中で、他のサロンに供給するまでになるほど高い評価を得ている。

オリジナルの脱毛器
照射部分が取り外せる脱毛器具を自ら開発した

郊外出店とママスタッフの採用で低料金を実現

 大手エステサロンと比べて、大幅な低料金を実現しているのもパールプラスの特徴だ。自身が全身脱毛に何百万円もかけた経験から、軸丸氏は業界の料金設定に疑問を抱いていた。その部分を変えるのも、起業当初から意識していたという。

 「エステでよくあるのが、強引な勧誘で囲い込まれてしまうことです。スタッフの入れ替わりも激しく、『一緒に頑張りましょう』と言ってくれた人が一カ月後にはいなかったり、契約したらすごく事務的な態度になったりすることもあります」

 そのため、パールプラスでは当初から大手の半額以下の料金設定にし、支払い方法もコース料金で顧客を囲い込むことはせず、月払いにした。現在はコース料金を導入するようになったものの、大手と同じ料金の場合、たとえば施術回数は3倍以上、オリジナルのスキンケアやシャンプーなどの商品も提供するようにしている。ちなみに、それらの商品も軸丸氏が自分で開発したものだという。

 低料金を実現できた理由は、まず前述のようにオリジナルの機械を開発したことで、高価なメーカー製機械を購入する必要がなくなったこと。店舗の内装は極力シンプルにし、過度に豪華な装飾は行っていない。

 また、店舗立地を地代の安い郊外に限定している点も大きい。1店舗の規模は従業員3人程度で回せる程度に抑え、スタッフとして子育て中の母親たちを中心に採用した。彼女たちが働きやすいように営業時間を平日の17時までとしたことで、人件費の高騰も抑制している。

 主婦中心の採用は、地方で仕事のない女性の雇用創出にも貢献している。自身もシングルマザーである軸丸氏は、自らの経験も踏まえ、地方在住の女性の置かれた状況をこんなふうに語る。

 「地方の主婦が仕事を見つけるのはかなり難しく、農業や家畜の世話ぐらいしかなかったり、スーパーのレジ打ちにしても競争率が相当高かったりします。ママさんたちは夕方までしっかり働いて家庭を大事にしてほしいし、独身のスタッフも17時半からデートしてほしいと思っています」

「パールプラス」の成長を加速させた経営の秘密

経営陣の役割分担を明確化

 地元で数店舗を営んでいた軸丸氏が、短期間で全国展開するまでになったのは、経営者としての目覚めがあった。そのキッカケとなったのが、現在会長を務める高井洋子氏との出会いだ。

 軸丸氏は、自身が通っていたビジネスモデル塾の主催者だった高井氏を2018年に顧問として招へい、19年からは共同経営する形となった。起業時から抱いていた「社会のために会社を作る」という軸丸氏の想いを、具体的なノウハウによって形づくる役割を担ったのが高井氏だ。

 「高井会長の塾では、まず会社のグランドデザインやクレド(信条)がいかに大切かを学びました。まず会社全体のテーマとして『人生にトキメキをプラス』と定め、これによって従業員の思いを一つにすることができたんです。すべての判断基準を『ときめくか、ときめかないか』に置いたことで、スタッフ同士で不平不満を言うことも減っていきました。会社の規模が拡大してからはグランドデザインを『脱毛業界に風穴を開ける』に変更し、『一点突破、全面展開』という理念も打ち立てました。そこからは、大きく会社に命が入ったと感じています」

 フランチャイズ展開のノウハウを持っていた高井氏のサポートもあり、軸丸氏がビジネスモデル塾に通っていたころは3店舗だったパールプラスは、短期間で150店舗が視野に入るまでに急拡大。こうして、商品や施術法などの開発は軸丸氏、経営戦略の策定は高井氏と役割分担をはっきりさせたことが、成長を加速させる大きな要因となった。

誰もが人生を楽しめるような会社に

 現在、エステ業界の置かれた状況は非常に厳しい。ただでさえ市場が飽和状態にあるところに、新型コロナ禍が追い打ちをかけ、倒産や廃業を余儀なくされるサロンが増加するのは確実だ。そんな中、衛生管理面の徹底や、密状態が避けられる郊外の小規模店舗といったパールプラスの特徴が奏功する形で、この4、5月は逆に売り上げが伸びたとのことだ。

 「脱毛専門の郊外店」という領域で市場シェアを高める戦略が一段落しそうなため、今後は既存店のブラッシュアップに力を入れていくという。既に開始している美容関連製品の通販にも力を入れていく考えだ。

将来の会社像について、軸丸氏はこう語る。

 「そもそも社名の由来は、“みんな(M)が笑顔(E)になる会社”という意味なんです。人の体は生活習慣だけでなく精神面が大きく影響するので、人の考え方が変わるようなことがしたいなと。自社を愛してお客様を愛して、みんなが人生を楽しめるような会社にしたいですね」

 現在もLINEなどを通じて、ひたすら顧客とスタッフの声を聞き、商品開発に没頭する。その感度の高さと理想を追い求める姿勢によって、地方発というハンデをアドバンテージに変換している。