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SNSを活用した企業PRのコツとは

笹木郁乃

新型コロナウイルスの影響で消費者の巣ごもりが続く中、SNSの利用者も増えている。これを機にSNSを活用したPR戦術を展開しようとする企業にとって、押さえておくべきポイントとコツはどんなことだろうか。株式会社LITA社長の笹木郁乃氏に聞いた。

笹木郁乃氏プロフィール

笹木郁乃

笹木郁乃(ささき・いくの)1983年生まれ。山形大学工学部卒業後、アイシン精機で研究開発職に従事。その後寝具メーカーのエアウィーヴ第1号社員として転職し、PRに注力して売上高1億円から115億円に伸ばす急成長に貢献。キッチン用品メーカーを経て、2017年ikunoPRを設立、19年LITAに社名変更。企業のPR支援のほか、経営者や個人事業主、広報担当者などにPRスキルを伝える「PR塾」も主催する。

PRにSNS活用を考える企業が増加

 ある調査によると、新型コロナの影響で今年4月以降はSNS利用者の数が増えているという結果が出ています。消費者が商品やサービスの購買に慎重になっているうえ、企業も広報・宣伝予算を絞らざるを得ないこの時期、SNSを活用したPRを強化したいと考える経営者が増えているようです。

 そうした事情で、私たちのような中小規模のPR会社にも、SNSによるPR代行の依頼が増えています。これまでSNS活用の経験が浅い企業が、外部の協力を得ることはもちろん問題ありません。ただ、SNSでは内部の動きを発信することも重要になるため、社内に人材を育てることも求められます。

SNSでのPRを始める前に知っておきたいこと

広告宣伝とSNSによるPRの根本的違い

 まず、踏まえておかなければならないのは、SNSによるPRは、大規模な予算を使ってマスコミなどを通じて行う広告とは根本的に異なるということです。多数の消費者に広く知ってもらうことが目的の広告と違って、消費者にとって共感性の高い情報を出し、濃いファンを増やすことができるのが特長です。

 新聞広告や雑誌広告と同じ感覚でSNSをとらえてしまうと、続けることが難しくなります。SNSでは100人の濃いファンを育てて、彼らの口コミによって1千人、1万人と渦を作っていくというやり方になるため、待ちきれずに「広告を出した方が早い」とつい考えてしまいがちです。しかしSNSを使う利点は、企業の理念やストーリーなど、深い部分を知ってもらうことにあります。「会社のアンバサダーとなるファンを育てる」という意識が非常に大切なのです。

「バズ型」と「蓄積型」の違いとは

 SNSを活用したPRにも「バズ型」と「蓄積型」の違いがあります。

 バズ型はフェイスブック広告を出したり、ツイッターであればリツイートをした人に無料プレゼントなどのキャンペーンを行ったりすることで、一気にフォロワーを増やすやり方です。ただ、そこで集まるのは濃いファンではなく、むしろ特典目当ての質の低いファンであることがほとんどなので、長期的な売り上げ増加にはつながりません。

 目指していただきたいのは、丁寧にファンを育てて口コミを増やす蓄積型のSNS運用のほうです。会社のサービスを好きになってもらい、リピーターが増え、彼らによる口コミが広がっていくという形です。

 ですから、フォロワーの数だけで判断してしまうことには注意が必要です。SNSの投稿を通じて自社ホームページを何人が訪問したか、実際の購買につながったかといった、目的に沿った指標で判断することが大切になります。

 バズ型でフォロワー数を万人単位に増やした後、イベントを開催したら数人しか集まらなかったというような失敗例はよくあります。たとえフォロワー数が1千人程度でも、イベントには100人集まってもらえるようなアカウントを目指してください。

インフルエンサーへの協力依頼で気を付けたいこと

 インフルエンサーに口コミしてもらう場合にも気を付けたいことがあります。

 以前は、とにかくフォロワー数が多いカリスマインフルエンサーと呼ばれる人たちにPRを依頼するケースが多かったのですが、なかなか効果が出づらいことが分かってきました。今はフォロワー数がそこまで多くなくても、特定の分野に対して意識の高い人に広めてもらった方が、購買行動につながりやすくなっています。

 インフルエンサーの協力を得るときは、自社のブランドと相性の良い人物とのマッチングで、「数よりも質」を意識すると良いでしょう。

SNSによるPRは広告宣伝とは異なると語る笹木氏
SNSによるPRは広告宣伝とは異なると語る笹木氏

企業PRへのSNS活用とアカウントの育成方法

SNSを活用する目的は何かを考える

 では、実際にSNSアカウントをどう育てれば良いのでしょうか。

 まずやらなければいけないのは、目的をしっかり設定し、それに応じてフェイスブック、ツイッター、インスタグラムなど、各ツールを使いこなすことです。

 目的は採用なのか、商品の販売なのか、認知度向上なのか、それぞれの目的によって相性の良いツールは変わります。そして、各ツールのアカウントにおいて、どんな世界観を構築して何を投稿するかに関する軸をつくってください。

 最初の設定を間違えると、SNSの運用担当者も何を投稿すべきか迷ってしまいます。たとえば、採用目的で安心感や信頼感を出さなければいけないのに、カジュアルな動画を上げてしまう、担当者が日々の感情をシェアするだけで終わってしまう、といった失敗が起こりがちです。

 フォロワー数が増えやすいアカウントは、テーマごとに棚が分けられていて、目的に応じて関連分野の本が置いてある書店をイメージすると分かりやすいでしょう。

ターゲット層にどう思われ、どう行動してほしいか

 SNS活用の目的設定にあたって、意識してほしいポイントは3つあります。

1 メッセージの方向性を確立する。つまりターゲット層にどう思われたいか。

2 世界観を決める。

3 アカウントの軸を3つのテーマで表現できるように決める。

 1については、商品のターゲット層に対してどう思われたいか、どんな行動をとってほしいのかというゴールを設定するところがスタートです。

 私の例でいうと、フェイスブックアカウントに関しては「いつか私にPRを学びたいと思う人が増えてほしい」という目的を持って運用しています。

 投稿は、「PRについてこんな研修を実施した」「自分が手掛けたPRでこんな成果が出た」といった内容が中心です。自分の子供のことなども少し書きますが、それは自分の個性やキャラクターを知ってほしいからです。

 ターゲット層が経営者やPRを学びたい個人事業主の方なので、服装や髪形についても意識しています。私自身が広告塔として発信する場合と、企業の場合は少し違いますが、ターゲット層に沿う内容にするという点では同じです。たとえば、B to B系の会社で顧客の信頼を得ることがゴールであれば、見る人はそれほど多くなくても、信頼感が得られる内容の投稿を続けることが必要でしょう。

企業、ブランドの世界観を統一

 次に、世界観の統一についてです。たとえば本屋に行けば、同じ子育て雑誌でもしっかりした実用的な情報を届けるのか、かわいさを重視するのか等で、ずいぶんと違いがあります。消費者は表紙のカラーの使い方や世界観の打ち出し方で直感的にに判断するので、企業やブランドの世界観を反映することは、SNSにおいて非常に大切です。

 SNSの中でも、特に世界観が重視されるのがインスタグラムです。インスタはスマホ画面で複数の写真が一気に見られる造りなので、世界観が一瞬で伝わるようになっています。

 ツイッターやフェイスブックは、文章の中身やその都度投稿する写真などのほうが大事で、インスタほど見た目の印象が重視されるわけではありません。とはいえ、ターゲット層に合致した言葉や写真の使い方を工夫するのも、ある意味世界観の統一と言うことができます。

講座の集客にもSNSを活用
講座の集客にもSNSを活用

3つのテーマで表現することで唯一無二のアカウントに

 さて、最後に挙げた「アカウントの軸を3つのテーマで表現する」はどうでしょうか。

 ターゲット層に求める行動を決めることは重要ですが、これだけではライバルとの差別化にはつながり難いのが実情です。たくさんのアカウントがある中で自社をフォローしてもらうには、もう一工夫が必要です。

 私のフェイスブックアカウントの目的は、前述のとおり「PRを習いに来てくれる人を増やす」ということですが、そのためのテーマとして「PRスキル」のほかに、「女性経営者としてどんな課題を乗り越え、どんなチームを作っているか」という部分も打ち出しています。

 さらに、これだけではまだ弱いので、3つめとして「自分の日々の挑戦記録」も出すようにしています。例えば「6歳の子供を育てながら、愛知と東京を往来しながら、さまざまな仕事に挑戦している」という部分です。この3つのテーマに基づいて日々投稿することによって、他と被らないアカウントにすることを意識しています。

 インスタグラムのほうは、私個人のプライベートアカウントとして運用しています。フェイスブックが経営者の方からの信頼に重きを置くアカウントとすれば、インスタは私のPR研修の8割を占める女性の方々に対して、考え方やライフスタイルに共感していただけるよう工夫しています。どちらかと言えば、フェイスブックはすぐにビジネスにつながる感じで、インスタはその予備軍を育てる形と言えば分かりやすいかもしれません。

 私が某キッチン用品のアカウントを代行していた時は、インスタを「憧れ感」というテーマで運用し、そこでも投稿における3つのテーマを決めていました。

 まずは料理レシピの紹介です。最終目的はお鍋をいつか買いたいと思っていただくことなので、商品を使った料理レシピを投稿していました。ただ、他の鍋メーカーも同じようなことをしているので、それだけでは差別化できません。

 そこでもう1つ、お洒落な感じでキッチンに商品が置いてあるような写真を投稿し、家庭におけるライフスタイルの点から訴求していました。

 それでも十分な差別化にはならないため、3つ目に打ち出したのが「メード・イン・ジャパン」という部分です。職人さんが商品をつくっている場面や製造工程の写真も投稿するようにしました。

 これら3つを打ち出すことで、唯一無二のアカウントにすることができました。このように、テーマが3つできると他には真似できないアカウントになり、ファンが増えやすくなるのです。

唯一無二のアカウントにするために投稿のテーマ設定は必須だ
唯一無二のアカウントにするために投稿のテーマ設定は必須だ

3つのテーマのうち1つは「役に立つ情報」を

 インスタで新規顧客となるファンを増やす一方、購買後の口コミを増やすためにツイッターも運用していました。ある意味、カスタマーセンターの位置づけです。

 ここではお洒落さを意識した発信ではなく、たとえば「商品を買った」といった投稿があった場合に、欠かさずリツイートやお礼のコメントを入れて、応援団を増やすことに注力していました。その他にも、インスタでつぶやいた料理レシピにツイッターからリンクを飛ばしたり、新規店舗の情報などもつぶやいていました。

 本物のファンを増やすには、「役に立つ有益なアカウントだ」ということを認識してもらわなければなりません。ですから、3つのテーマのうちの1つは、何かしら顧客の役に立つ情報を入れるという点を意識してみてください。