物流施設で商品の入出荷を担う働き手の不足が深刻だ。窮状を打開しようとスタートアップ企業がロボットなど新技術を開発、現場で試験的に採用されている。菅新政権がデジタル化重視の姿勢を打ち出した流れに乗り、物流施設は「物流テック」活躍の場として存在価値を高めそうだ。文=ロジビズ・オンライン編集長/藤原秀行(『経済界』2020年12月号月号より加筆・転載)
目次 非表示
物流テックが存在感を高める背景
物流施設の開発ラッシュが続いている。米不動産サービス大手ジョーンズラングラサール(JLL)日本法人の調査によると、今年4~6月に東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉と茨城の一部)で新たに完成した大型物流施設の総延べ床面積は38万9千平方メートルで、実に東京ドームの約8・3個分だ。
インターネット通販の利用拡大などで物流施設の需要が増えていることが背景にあり、近年は1棟で延べ床面積が30万平方メートルを超える巨大なものも登場している。
だが、物流施設では労働力の確保が年々難しくなっており、足りない働き手を補うロボットなどの新たな技術が続々と生み出され、現場に配備されている。新政権がデジタル化を重視する姿勢を打ち出したこともあり、物流施設は「物流テック」活躍の場として一段と存在価値を高めそうだ。
物流テック開発の実例
ピッキング作業支援ロボット「PEER」
2015年設立のスタートアップ企業GROUND(東京)は、物流施設内で在庫の中から出荷する商品を選び出すピッキング作業を支援するロボット「PEER(ピア)」を19年に発売した。
搭載したセンサーなどが周辺の環境を把握し、物流施設内に数多く立ち並ぶ在庫を納めた棚の中からピッキングすべき商品がある場所まで最短のルートで自動的にたどり着く。スタッフは商品を置いている場所を細かく覚えなくても、PEERが止まった場所まで移動し、モニターの表示に従って商品を取り出しコンテナに入れていけば、注文のあった商品をすべて正しくピッキングできるという流れだ。
現場に採用されたばかりの人でも円滑にピッキング作業をこなせるため、働く人の負荷を大きく減らせるとともに、新人も戦力としてすぐに活躍してもらえるのが強みだ。導入の際に在庫を納めた棚の位置を大きく変える必要がないため、大企業だけでなく中小の通販事業者などでもロボットを活用しやすくなっている。
スタッフ1人にPEER複数台を割り当てられるため、省人化で人材をより高度な作業へ配置できる。1人がPEER3台を受け持てば作業効率を2倍程度高められる計算だ。
19年にファッション・アパレル分野のECシステム開発などを手掛けるダイアモンドヘッド(東京)が千葉県柏市に構えている物流センターに初めてPEERを納入。新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が広がり、インターネット通販の利用が急増してからは、EC事業者や大手スーパーなどからの問い合わせが増えているという。
GROUNDの宮田啓友社長は「新しいテクノロジーを使って物流施設内のソーシャルディスタンスを実現し、『3密』を避けるような環境づくりを早急に提案、実現していきたい」と意気込む。
AI搭載の自動搬送ロボット「EVE(イブ)」
別のアプローチで入出荷作業の効率化に挑んでいるのが、中国の大手ロボットメーカーGeek+(ギークプラス)だ。
同社が開発したAI(人工知能)を搭載した自動搬送ロボット「EVE(イブ)」は、物流施設内で商品を納めた棚の下に潜り込んで持ち上げ、ピッキング作業担当スタッフの待つエリアまで運ぶ仕組み。スタッフは到着した棚の中から、モニターに映った商品を取り出し、出荷用の容器に入れる。
入荷した商品は、同じくEVEが運んできた棚の指定場所に収めることで在庫として自動登録される。AIが商品の出荷頻度を判別し、よく売れる商品はピッキング作業エリアの近くに棚を配置、よりスピーディーに出荷できるようにする。
スタッフはEVEがその都度持ってくる棚に向き合えばよく、広大な物流施設内を歩き回る必要がなくなり、配置人数自体を減らすことが可能。ギークプラスはピッキングの効率を3~5倍高められるとEVE活用の効果を説明する。
米スポーツ用品大手ナイキが千葉県市川市に構えている基幹物流センターではEVEを500台以上導入。新型コロナウイルス感染拡大後、ナイキでもECの注文が劇的に増えたが、大和ハウス工業グループで同センターの運営を担っているアッカ・インターナショナルの加藤大和社長は「人手であればこなせないくらいのボリュームを取り扱えた。2千人くらいのマンパワーに相当する力を出せた」とロボット導入効果の高さを強調する。
EVEは既に日本で1千台以上の納入実績を重ねている。ギークプラス日本法人の佐藤智裕社長は「無人の自動フォークリフトも日本で実用化し、EVEなどと連動させて物流施設内の全作業を一貫して省人化したい」と語る。
高い制御技術で作業の自動化を担うロボット
「施設の全作業を自動化する」という一段と高い理想の実現に取り組むのがスタートアップ企業のMUJIN(東京)だ。
同社は異なるメーカーの産業用ロボットでも同じように高い能力を発揮できるよう後押しする制御技術の開発を手掛ける。代表的な成果の1つが、異なる形状や重さ、硬さの商品を箱の中から取り出す「ピースピッキング」を担うロボットだ。自動化が難しく、従来はどうしても人手に頼らざるを得なかった作業だ。
しかし、MUJINの制御技術を活用したアーム型ロボットは1時間に900ピースを取り出すことが可能で、人間並みの驚異的な作業スピードを達成した。より細やかな取り扱いが求められる医薬品などにも対応できるため、物流施設で相次ぎ採用されている。
19年には「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングとパートナーシップ契約を締結。物流施設内の入出荷などの全業務自動化の実現へ準備を進めている。
MUJINを創業した滝野一征CEOは「ROI(投資利益率)による費用対効果の比較だけではなく、(感染症拡大といった)BCPの観点でもロボットを入れるのが当たり前の世界にしていきたい」と〝アフターコロナ〟を見据えたロボット化に貢献していく姿勢を訴えている。