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熊谷正寿 GMOインターネット会長が目指す「ぶっとんだ経営」とは

 国内ドメイン登録数やレンタルサーバー事業、EC支援事業やウェブ上の決済事業など、インターネットインフラの世界で、数多くのナンバーワン事業を抱えるGMOインターネットは、2021年、創業30周年を迎える。デジタルトランスフォーメーション(DX)ブームを受け、同社グループの時価総額は年初から8割も高くなるなど業績は絶好調。

 今後も活躍の場はますます広がりそうだが、同社グループを率いる熊谷正寿代表は、「DX市場の中でのポジションなどの野望はない」と言う。過去30年間、顧客の求める商品・サービスを提供してきた結果が、トップシェアと好業績につながっているというのだ。

 「企業30年説」に従えば、GMOインターネットグループはこれから第2の創業期を迎えることになる。そこでの目標は「人の命や地球を救う企業になる」。目標達成には、企業規模を今の100倍にする必要があり、そのためには「もっとぶっとんだ経営者になる」と言う。熊谷代表の語る未来はいかなるものなのか。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年1月号より加筆・転載)

熊谷正寿GMOインターネット会長兼社長 グループ代表プロフィール

(くまがい・まさとし)1963年、長野県生まれ。國學院高等学校を中退し、父の事業を手伝った後、91年ボイスメディア設立。95年インターキューに社名変更しインターネット事業を開始。99年独立系ネットベンチャーとして初上場。2001年グローバルメディアオンライン(GMO)に、05年にGMOインターネットに社名変更した。

新型コロナ禍で熊谷正寿氏が考えたこと

在宅勤務をいち早く進めた理由

―― 2021年、GMOインターネットは会社設立30年を迎えます。この30年間、社会は大きく変わりましたが、熊谷さんにとっての最大の変化は何でしたか。

熊谷 創業したのは1991年ですが、95年からインターネットに事業領域を絞ってビジネスを行ってきました。

 というのも、インターネットの普及によって世の中が大きく変わったからです。これにより、人はより大切なことのために時間を割けるようになりました。以前は情報を収集するために、図書館に行ったり、専門知識を持つ人の話を聞くなど、相当に時間がかかっていた。ところが今ではパソコンやスマホで、瞬時に調べることができます。つまりモノを調べる時間がゼロになりました。その空いた時間を、考える時間にあてたり、人がより幸せと感じることに時間を割けることができるようになったのです。

 インターネットの普及には悪い側面もあるでしょう。でもそれ以上に人々を幸せにするために貢献してきたと思います。これが30年間で最大の変化です。

―― しかも変化のスピードは年々速くなっています。さらにコロナ禍によって、DXも一気に進みました。

熊谷 DXは5Gの普及で加速すると思っていましたが、現実にはコロナによって加速しましたね。

―― GMOはいち早くテレワークを導入するなど、新型コロナウイルスに対して迅速な対応を取りましたが、その時点で、これほど世の中が変化すると予測していましたか。

熊谷 1月27日に在宅勤務に移行した時はまだ、DXの加速までは想定していませんでした。当時は、パートナー(従業員)やその家族の命を守ることのみを考えていましたから。

 それでもわれわれが在宅勤務をスタートすると、テレビなどでは「大げさすぎる」といったご意見も頂きました。でもわれわれは、SARSや東日本大震災の経験を経て、事業を継続するため、またパートナーの命を守るために何が必要かを考えてきましたし、在宅勤務も年に1回は訓練をするなど、ずっと備えてきました。ですから実務上は非常にスムーズに在宅勤務へ移行しました。

 その後、コロナ禍が拡大し、政府が「職場への出勤を7割減らしてほしい」との要請が出たこともあり、在宅勤務が一気に拡大していきます。そこで一番必要だったのがインターネットでした。

新設されるデジタル庁の庁舎は渋谷に設置すべし

―― 緊急事態宣言が出たこともあり、企業側もそれに対応するためにDXを加速せざるを得ませんでした。同時に明らかになったのは、かつては「電子立国ニッポン」と言われた日本のデジタル化が、世界の中で遅れているという事実でした。

熊谷 ITそのものに関しては、日本は進んでいると思います。ただし行政については遅れているところがあるのは事実です。なぜそうなったかというと、よく言われていることですが縦割り行政で、それぞれが予算に基づき発注するため、横のつながりがない。つまり原因は「縦割り行政」「予算」「発注(外注)」の3点です。ですからデジタル庁によってデジタル推進を一元的にまとめるのは正しい政策だと思います。

 さらに言えば、これまで進めてきたデジタル化も、例えばマイナンバーカードがそうですが、非常に使いづらい。これを解消するには、高いお金を払って外注するのではなく、政府自らエンジニアさんやクリエイターさんを採用して、基幹システムを開発するべきです。

 そうすれば問題点を解決できるだけでなく、スピードも速くなり、世界の先進的なIT活用国と互角以上に戦えるシステムができると私は思っています。今のシステムというのは出来上がっておしまいではなくて、スタートさせてからも改良をずっと続けなければなりません。そのためには外注ではだめで自分たちで改善を繰り返していく。そのためにも開発人材は自ら抱えなければいけません。

 そして、これからできるデジタル庁の庁舎は、霞が関や虎ノ門に置くのではなく、渋谷に置くのが良いと考えます。そのほうが、勤める人もIT業界の人間も安心できるし、いい人材も集まりやすいはずです。

―― 場所が違えば働く人の意識も変わってきます。ただし優秀なエンジニアを採用するには給与体系も人事政策も一般公務員と変えなければなりません。そうした組織のトップには、熊谷さんのようにITもビジネスも分かる人がふさわしいのではないですか。

熊谷 私は向いていませんし資格もない。力もありません。ただ、参謀にはIT業界の人材がいたほうがいいと思いますし、IT業界の人間として日本が良くなることにお役に立てるのであれば、情報提供など喜んでご協力させていただきます。

熊谷正寿GMO会長

熊谷正寿氏が描く理想の企業グループ像

ビジネスの根幹は数字ではない

―― GMOインターネットグループの業績は好調です。グループの時価総額は今年に入って8割も増えています。DX化は今後さらに進んでいきますが、拡大するDX市場の中でGMOはどのようなポジションを取ろうと考えていますか。

熊谷 日本のDX化の中でどういうポジションを取るかは一切考えていません。そうした野望はありません。われわれがやるべきことは、多くのお客さまが求めていることを喜んでいただけるプロダクトを投入していくだけです。この姿勢は創業の頃から一度も変わっていません。

―― しかし実際には数多くの分野で圧倒的トップに立っていますし、営業利益率も優に10%を超えるなど収益力も高くなっています。

熊谷 お客さまに喜んでいただけることだけ考えていると、結果的にシェアが高くなるんです。各競合商材の中で一番スペックも高くコストもリーズナブルで、お客さまがそれを購入して、利用して後悔しないもの、やっぱりGMOでよかったんだと思ってもらえるものをつくる。すると売り上げや利益が結果としてついてきます。

―― 事業を進めるうえで数値目標は不可欠なのではないですか。

熊谷 GMOインターネットグループには2051年を最終年度とする55カ年計画があって、それをグループ各社に割り振って定量的な目標としています。しかし繰り返しになりますが、数字は結果であって目標ではない。あくまでお客さまに喜んでもらうこと。これがわれわれのビジネスの根幹です。

なぜ、スピリットベンチャー宣言を唱和するのか

―― 創業から30年で社員数は6千人を超えるほどになりました。その社員全員に、顧客第一を徹底させるのは大変でしょう。

熊谷 55カ年計画は定量目標ですが、それとは別に定性目標として「スピリットベンチャー宣言」があり、私たちの夢や社会に果たす役割などのミッション、それを成し遂げるための事業戦略が示されています。ことあるごとにこれをパートナー全員で唱和して、グループの考えとして全員が理解して行動していくようにしています。在宅勤務の時でもZoomを通じて唱和していました。

―― 唱和とは、随分アナログで昭和的ですね。

熊谷 長く続く組織はそういうことをやっています。僕はよく言うんですが、会社というのは続いたところで100年200年です。だけど宗教というのは1千年単位で続いています。

 宗教は人々が集まると経典を読むことで精神的統一感をもたらしている。人が心をひとつにするには、同じものを読み、同じものを歌い、同じポーズをするというようなことが大事だと思います。スピリットベンチャー宣言の唱和も、パートナーの心をひとつにするためのものです。

―― 創業から30年を迎え、ここからどんな会社を目指していきますか。

熊谷 事業を始めた時はまだ、あってもなくてもどうでもいい会社で、吹けば飛ぶような存在でした。そして今は、あると便利な会社から、なくてはならない会社、なくてはならない企業グループに成長、変化をしている最中だと思います。

 そろそろなくてはならないと言われるようになりたい。でもそこで終わりではない。僕らはやっぱり人の命を救えるような、あるいは地球を救えるようなところまで、事業を伸ばしていかなければならないと思っています。将来は人々を救った、地球を救ったと言われる企業グループになるべきだというのが今の僕の考えです。

地球規模の問題を解決する企業グループに

―― 具体的にはどんな事業を想定しているのですか。

熊谷 僕は参入すべき事業領域は空だと思っていて、その延長線上にジオエンジニアリング(気候工学)がある。そこのイメージを整理し言語化して、パートナーや社会に伝えられるようになりたいと考えています。

 誰もが知っているように、地上は既に満杯です。海中はものすごくコストがかかる。ところが空は、見て分かるようにがらがらです。そこでITを使って空を活用する。代表事例はドローンですが、近々、空飛ぶクルマも出てきます。空が産業的には最後のフロンティアです。

 最近やろうと思っているのは、空の安全をわれわれのSSLテクノロジー(暗号化)で守る。ハッキングすればドローンで撮った写真のデータを盗んだり、空飛ぶクルマを妨害して落とすこともできます。実際、中国のショーで、競合相手が無線を妨害してドローンを落としたケースもある。そこを守るのがわれわれのテクノロジーです。

 代表的なところでいうと、菅総理、安倍前総理のウェブサイトはわれわれがSSLで守っています。このテクノロジーは空にも応用が可能なので、提供していこうと思っています。

 そしてその先に宇宙がある。今地球で一番問題になっているのは、地球温暖化です。温暖化によってありとあらゆるものが影響を受けています。しかし地球温暖化も、テクノロジーを使うことで解決の糸口が見えてきます。ジオエンジニアリングの領域にITを使ってわれわれが参入することは十分に可能です。

 例えば地球を冷やすには、宇宙船を飛ばして太陽と地球の間にミラーを置いて太陽光の調節をする。物理的には可能ですが、仮に気温が1度下がった時に世の中に何が起きるのか、スーパーコンピューターで解析しないとリスクがある。もしかして地球を救うつもりが逆の結果になるかもしれない。だからこそITの力で解析をして、実行していいのか、やったら何が起きるのか判断をする。

―― ミラーを設置する側より解析する側になるということですか。

熊谷 どこに自分たちが行くべきなのかまだ分かりません。一生懸命考えています。そういうようなことができる、未来のために地球規模の課題を解決できるような企業グループになっていきたい。そこまでグループを成長させたいと思っています。今は資本力も技術力も、ありとあらゆるところが不足していますが、最終的にはそこに行きたい。

―― 今の企業規模ではまだまだ足りないのですね。

熊谷 もっと事業をスケールさせて、びくともしないところまでいかないと。まだまだすべてが100分の1です。

―― 気宇壮大な話ですね。イメージする企業や経営者はいますか。

熊谷 地球を救おうと思っている起業家が何人いるのかよく分かりませんが、ぶっとび具合ではイーロン・マスクに負けている場合じゃないなと思っています。ぶっとぶという言葉が新年号にふさわしいかどうか分かりませんが、もっとぶっとんだ経営をしていきたいですね。