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圧倒的実績を持つ小児心臓外科医が説く「最強チームの作り方」

35年間で7千人以上の小児心臓外科手術を手掛け、成功率98.7%を誇る榊原記念病院の高橋幸宏医師。驚異的な実績の背景には、執刀医としての高橋氏個人のスキルはもちろんのこと、完成度の高い手術チームの存在がある。子供の命を預かる緊張感あふれる現場で、実力を発揮できる人材をいかに育て、チームとして機能させるのか。高橋医師に聞いた。聞き手・文=吉田浩

高橋幸宏氏プロフィール

(たかはし・ゆきひろ)1956年生まれ。宮崎県出身。熊本大学医学部卒業後、心臓外科の世界的権威である榊原記念病院に入職を希望するも断られ、熊本の日赤病院で2年間初期研修に従事する。27歳の時に再び榊原記念病院に希望を出し研修医として採用。小児心臓外科医として年間約300例の手術を手掛け、35年間で7千人以上の子供の命を救う。2003年心臓血管外科主任部長、06年副院長に就任。19年に専門書『榊原記念病院低侵襲手術書』(榊原記念病院)、20年に『7000人の子の命を救った心臓外科医が教える仕事の流儀』(致知出版社)を上梓する。

最強チームをつくる条件とは

 医療の中でも特別な領域である外科医の世界において、小児心臓外科手術はさらに特殊の環境と条件下で行われる。
 高橋医師がこだわるのは、とにかく短時間で手術を終わらせること。小児心臓外科手術では上下の大静脈から血液を人工心肺装置へ誘導し、人工肺で酸素を加え、二酸化炭素を除去して、大動脈から全身に送る体外循環が行われる。その間、心臓を停止させるため、全身の臓器に重い負担がかかる。この心臓以外の臓器に悪影響を及ぼす「手術侵襲」をできるだけ低くするには、手術時間を徹底的に短縮する必要があるという。  
 時間短縮のためには、執刀医以外にも体外循環技士、麻酔医、看護師など、チームメンバー全員がスムーズに作業を行うための連携プレイが求められる。一人一人が高度なプロフェッショナルであるだけでなく、いかに組織として機能させるかが手術成功の重要なファクターとなるのだ。自身の担当分野を極めるだけでなく、組織にとって必要な人材となるためには何が必要なのか。

周囲に助けてもらえる人間になること

―― まず手術の基本手技を身に付けるのは当然として、小児心臓外科医として他に必要な要素はありますか?

高橋 特に子どもの場合は体が小さいので、大人の手術とは違って手がかかります。だから、一人の力だけではなく、「これをやらせていい」と周りに思ってもらうことが大事になります。つまり「人に好かれる」ということですね。「こういうことができるからやらせる」のではなくて、やることに対して周りが助けてくれるような人でなければなりません。

 日本の外科医は手術だけして終わりではなく、手術前後にも小児科医や看護師と一緒に患者を診ないといけません。その流れをスムーズに行うためにも、要は人気がないとダメということです。

―― チームメンバーは高橋先生が選べるんですか?

高橋 欧米と違って、日本ではそれはできません。だからチームに新人が入ってきても、それまでの流れを崩さないようにやらないといけなくなります。

―― 技術があっても人間性に問題があってチームに入れたくないような人もいたのでしょうか。

高橋 基本的にはそういうことはありません。来る者拒まずです。僕の下に入って命を助けるという使命感がありさえすれば、仮に人格が破綻していたとしても、ブレないチームの使命感さえ見せつけていれば、そのうちよくなります。手術の流れが悪くなったり、思いがけないことが起きたりして、医者が自分だけで対処できないような場合に周囲が助けられるチームづくりが大切になります。

著書『7000人の子の命を救った心臓外科医が教える仕事の流儀』(致知出版社)

他のチームメンバーの仕事を正確に評価できるか

―― 本当のプロフェッショナル集団でないと高度な手術のチームはできないと思うんですが、個々の能力を組織の力として発揮させる秘訣は何でしょうか。

高橋 スキルは自分で磨くしかないですが、それ以外のノンテクニカルスキルの部分については、単にチームワークがいいとかコミュニケーションがスムーズに取れるといったことだけが大事なのではありません。良いチームと言うのは、他のメンバーがやっていることを正確に評価できるものです。

 心臓外科手術には外科医、麻酔医、体外循環技士、機械出しの看護師さんなど、7~8人が携わるわけですが、お互いが全体の流れを理解して評価し合えるかという部分が重要になります。たとえば看護師さんは自分で手術したことはないけれど、僕や他の医者の手術を見て、いいか悪いかの判断ができるようになる。そうしたことができるようになると、チームとしての力は一段上がります。何も知らない人がチームに入って来たとしても、そのチームの姿が当たり前だと認識して成長していきます。

―― 自分の専門領域だけでなく、他人の仕事を判断できるレベルにならないといいチームにならないと。

高橋 それが小児心臓外科の特長です。医者が非常にうまければなんとかなる外科もありますが、小児心臓外科ではどうやって良好な循環動態を小さな心臓に作り上げていくかを考えないといけませんし、もちろん心臓以外の臓器のことなども考えないといけない。これにはチーム各員それぞれの力が必要です。

 手術が一定時間を過ぎると、当然危険性は増加します。したがって、そうなる要因をなくすようにチームを作らなければいけないんです。手術の流れを良くして、結果的に手術時間を短くして侵襲を少なくするには、自分のことだけでなく他のメンバーを批評できるレベルになる必要があります。

最強チームをつくるための人材教育とは

 高橋医師は最初から小児心臓外科医を目指していたわけではなく、大学で勉強したり、さまざまな現場を見て回ったりする中で、最終的に嫌にならなかったという理由で選んだのだという。手術同様、余計なものをそぎ落としていった結果として残ったものに打ち込んできたとも言えるが、若手時代の心構えや身に付けておくべきこと、さらに部下の教育法についての考えも聞いてみた。

周囲に違いを見せつける

―― 若手時代に影響を受けた上司はいますか。

高橋 今の立場に就くにはいろんな方の後押しがありましたし、手術が上手い外科医はもちろん師匠と思って尊敬しています。しかし、それらの先輩方は私にとっては師匠というよりむしろライバルで、その人の手技以上のことをしなければいけないと思ってやってきました。全て乗り越えようと思っていましたから。ですからいわゆる師匠とはすこし違います。

 たとえばシンプルな手術を任せられた時にも、できるだけ上司より上手く見せるようにやってきました。人の名前が付いた術式もたくさんありますが、そのオリジナル手術を生み出した人よりも上手くやるという気持ちでした。

 すると、ベテランの医者や看護師さんたちに「こいつは良いな」と思ってもらえます。無理に仲良くやろうとするのではなく、「この手術に関しては高橋の方が上手い」と認めさせることができれば、後押ししてもらえます。非常に日本的なやり方かもしれませんが、それをやらないことには認められないんです。

―― 違うように見せるというのは、同じことでも凄く早く行うとか、そういう部分でしょうか。

高橋 そうですね。高橋の手術は他とは違うと思わせないといけません。手術の早さだけでなく、術後に子どもがいかに早期に回復していくかも含めて見せつけるわけです。

若手が成長するために身に付けておくべきこと

―― 高橋先生がご自身のスタイルを確立したのはいつ頃ですか?

高橋 1990年代の後半ですかね。そのころには人工心肺や体外循環の新しい機械が出てきて、それまでとはずいぶん変わりました。より高い質をもって子供を助けるということを考えていくと、機器の進歩とともに手術の中で無駄な部分を削ぎ落していかなければいけません。

―― 当時はスピードに関して、高橋先生ほど意識しているお医者さんはいなかったんですか?

高橋 学会で白い目で見られました(笑)。「なんだ、あいつかっこつけてるな」と。いまだにこれほど時間を意識しているのはうちだけかもしれません。

 手術は早く終われば終わるほど、医者も患者もみんな楽になるんです。でも、「医療従事者が自分が楽になるというような話をするな」と言われることは今でもありますが。

―― 将来リーダーを目指す若手が意識すべきことは何ですか。

高橋 「これのためには何を犠牲にしてもやってやる」という使命感ですね。それを持たせるためには、さっきも言ったようにこちらの技を見せてこと、そして知るべきことを前もって教えるのが手っ取り早いんです。そういうことをいつも考えています。使命感を持ちさえすれば、その後成長できるかどうかは、その人のセンスやスキルの問題になってきます。でも、使命感を持たずにどんどん進んでしまうと、後になって何らかの問題が起きることが多い気がします。

―― 高橋先生が使命感を感じたのはいつ頃でしょうか?

高橋 親戚なども含めて小さい時から周りに医者が沢山いたので、自然と身につくのが当たり前の環境でした。だから、医者の息子が医者になるのはそんなに悪いことではないと思います。医者を目指すなら、本来は高校時代くらいに使命感を感じなければいけないと思いますが、大学に入ってもそんな話は全くしないのが現状です。だから私は、自分が手術をするのをやめた後に、大学などでそうしたことを教えられたら良いと考えています。

―― 使命感を他者に教えるのは本当に難しいと思います。

高橋 使命感は他者を思いやる心の問題なので、できれば職業に就く前に身に付けてほしいですね。いくらよい機械ができても、また、いくらよい教育システムでも、相手を思いやる心がなければ日本の医療はつぶれてしまいます。少なくとも医療従事者になる人には、学生時代に使命感を身に付けてほしいですね。

部下の指導でも「凄さ」を見せつける

―― 部下の指導法で意識していることはありますか? 最近では「●●ハラスメント」とすぐに言われてしまうリスクも増えていますが。

高橋 その辺は難しいですよね。ただ大事なことは、どんなにまともなことをこちら側が言っているとしても、相手の心を折らないようにしないといけません。たとえ怒ったとしても、とどめを刺さないようにしないと。

 新人に対しても、誰もがビックリするような手術を見せると、驚いて考え方が変わったりします。仕事というのは上司が凄さを見せつけてやらないとなかなか進んでいきません。理屈でどうこうではなく、見せてあげればまた変わります。

 最近では一番できない人に合わせて仕事をしなさいなどとも言われますが、これは少し困った話です。むしろそういう人がいたら、たとえ最初はついてこられなくても、上司は凄さを見せ続けなければいけない。当然その人はへこむでしょうが、そこでへこんだ人を助ける人が居るのが良いチームです。

―― 医療現場でできない人に合わせていたら患者は大変ですからね。

高橋 チームワークや情報の共有などを意識しすぎて、会議と称して何度も集まらなければならないなど、無駄な時間を使っている気がして仕方ないですね。

―― 仕事に没頭したい若手にとっては、今の時代は可哀想な気がしますね。

高橋 やる気のある人とない人、このことについて上司はどうしてそうなったのかを考える必要があります。医療の世界でも外科医は絶滅危惧種などと言われる中で、いろんな考えと目的をもった人たちが来るわけですから、この病院における当たり前の姿を見せていくしかありません。そうやって指導しても、どうしても合わない人が居れば、これはもう、前世からの因縁だと思って諦めるしかないですね(笑)。