経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

スタートアップが大企業と対等に IT次世代の台頭にチャンスあり―PRITS

PRITS代表取締役 高松忠行

IBMやマイクロソフト、富士通など大手IT企業が参加するコンペで、受注を勝ち取ることもあるPRITS(プリッツ)。代表取締役の高松忠行氏は、これまで中小から大手までさまざまな企業向けITサービスに携わり、20年以上もトップ営業として組織を率いてきた。2020年に設立されたばかりのPRITSが「名だたる大企業との競合コンペに入り込める」のはいったいなぜか。

PRITS代表取締役 高松忠行(たかまつ・ただゆき)
PRITS代表取締役 高松忠行(たかまつ・ただゆき)

 高松氏が設立したPRITSは、ビジネスプロセスアウトソーシング企業である。主に大手企業を顧客とし、情報システム関連業務を請け負うことで、IT投資を成功に導くのだ。ここまでは普通のITベンダーと変わらないが、PRITSは20年4月に設立された、わずか12人の「小さなスタートアップ」だ。大手企業の競合コンペに呼ばれるのは、大手メーカーや大手IT企業と相場が決まっており、大企業同士で付き合うのが一般的だ。そこへ「小さなスタートアップ」のPRITSが呼ばれるのには、理由がある。

 高松氏は起業前、あるITサービス会社で営業担当の執行役員としてチームを率いていた。コンペや提案営業を通じて多くの大企業と勝負する中で培ってきた知見やノウハウが、PRITSで大いに役立っているのだ。有名企業と競合する中で、「かゆいところに手が届き、小回りが利く」戦略で生き残ってきたという。

大手企業にはないスピード感 コストダウンと小回り術

 「コロナ禍だった20年4月の起業は悩みましたが、初年度(21年2月期)から黒字を達成できました。大手企業の中にはメニュー化されていない業務が多くあります。そうした『いびつで非定型な隙間業務』は、大手メーカーや大手IT企業が請け負うと見積もり作成や実装までに時間がかかったり、コストが割高になったりしてしまう。私たちのように小回りが利く企業なら、そうしたいびつで非定型な隙間業務をより早く、そしてリーズナブルに解決に導く提案ができます。そこにわれわれの勝機があります」と高松氏は胸を張る。

 大手メーカーが提案する「どの企業にも当てはまる大味なメニュー」よりも、顧客ごとに存在する細かい要件や仕様に最適化した見積もりを作成することで、結果的にコストダウンを図れるそうだ。

 「例えば『明日までにパソコンを50台用意してほしい』と顧客企業から頼まれたとします。競合メーカーは自社サービスや自社製品の範囲内で提案を考えがちです。場合によっては、メーカー側のサービスや製品の都合をクライアント側へ無理に押し付けようとしてしまうケースすら見受けられます。一方、当社にはその縛りがありません。顧客企業にとって最適かつ最小の構成や要件、製品を提案できる。『自社サービスや製品ありき』の呪縛がないので、不要なオプションを付けて提案し、割高になることがありません」

 大手企業はその巨大さ故に、小回りの利かない部分や見通しの悪い死角が必ずある。そこにPRITSが入り込むのだという。

 「当然、『明日までにパソコンを50台用意できる』体制も当社のネットワークが十分に構築されているからこそ実現できます。ただし、『何でも屋』では、大手企業の要望には応えられません。大手企業を熟知し、日頃から相応の体制を組んでおかないと、スピーディーな対応は難しいのです」

営業先でのプレゼンテーション
営業先でのプレゼンテーション

これまでの営業で経験してきた「大企業から求められる条件」

 高松氏によれば、大手企業の特徴は「社員の属人性を排除し、汎用性を高めた上で、より高い専門性を求める」傾向にあるという。そして、それこそが大手企業ならではの難しさだというのだ。

 ある大手企業から、「属人性を排除するために、担当者の業務をシステム化してほしい」と高松氏へ依頼があった。しかし、いざプロジェクトを開始すると、なかなか担当者が情報を開示してくれない。「自分の仕事が奪われる」と担当者が考えてしまうからだ。

 「クライアントの真の目的は、属人性を排除しながら、社員にはより専門性を高めてほしいということです。これがIT導入の本来の目的です。例えば、カバン屋さんのIT部門は、本来はカバンを売ることが事業の本質です。ところが、何でもかんでもシステムありきの組織体制にしてしまうと、システムをいじること自体が仕事になり、本末転倒になってしまう。本来の事業の目的は何なのか。その業務のためにITをどう使うか、顧客企業に気付いていただくことも大事です。そうした事例も踏まえて提案を行うことが、顧客との信頼構築につながると考えています」

 営業職の適性も、中小企業に向けてローラー作戦のように「面で攻めるのが得意な人材」と、大手企業1社の信頼を深く勝ち取って「大口受注を得る人材」とでは、資質が大きく違うのだという。それほど、「攻め方」が異なるのだ。

 「大手企業の現場には、提案できる『隙間の課題』が山のようにあります。PRITSでは、まず顧客企業の信頼を得るために常駐したり頻繁に通ったりすることから始めます。そうして単純なサポートなどからつながりを深め、信頼を獲得できたら新たな提案をする。こうして、より深く関わらせていただく業務を徐々に増やしていく。地道に繰り返していくうちにやがて大きなチャンスが来ます。中長期で捉えて信頼を築いていけば、必ず大規模な案件の提案機会も生まれます」

 PRITSは大手企業に求められる条件を熟知しているのだ。大手企業ばかりのコンペの中になぜPRITSが呼ばれるのか、その秘密がここにある。

 「顧客が不満を感じている点は必ずあります。ところが、競合する多くの大手IT企業やメーカーは『この業務は当社のテリトリーではない』と線引きをしてしまう。その境界線上で浮いてしまった案件を引き受けることで私たちの活躍できる場ができるのです」

 誤解を恐れずに言えばPRITSは、独立公平な立場で小回りが利く、コンサルティング会社なのだ。

目指すは100億円規模のインフラアウトソーサー

 大手企業を相手にすることで単価の高い大口受注につながり、利益率の高いビジネスを展開できることも大きな特徴だ。

 「大手企業の中では、ITリテラシーの高い若い人材が育っています。まだ旧態依然とした業務のやり方が残っているものの、今後はIT分野での変革がどんどん進むでしょう。また、昨今のリモートワーク化、クラウド化、ビジネスのサービス化の波で、さらにIT推進の機運が高まっていく。当然、『隙間業務』も必ず生まれます。そこでPRITSがお手伝いできればと考えています」

 PRITSが思い描く未来は、2年後を目標に年商10億円規模で基盤を固め、近い将来に100億円規模の企業を目指し、さらにその先を見据えていくのだという。現在は社員12人だが、4月以降は契約社員を含め50人近い体制に増強する。大手上場企業とのサポート契約がいくつか進んでおり、数年内に急拡大していく青写真を描いている。

 「ありがたいことに、パートナー企業や当社のビジネスモデルへの賛同者が多くいます。社内でコアメンバーを固め、顧客の信頼と実績を積み重ねる。これが向こう3年の目標です」

 想定顧客は社員数1千人以上の上場企業。当初の契約数は少なくても、まずは「声がかかるほどの認知度と信頼」を得ていきたいと語る。

 「昨今、大企業にもサブスクリプションモデルが浸透してきました。そこで当社は『機材のレンタル付きサービス』の提供や、企業の情報システム関連全体をアウトソーシングしてもらうことなどを考えています。特にインフラ回りの会計システムなどは切り離しが可能です。そういった大企業の中にある機能の束を、丸ごと私たちのようなITの専門家に任せていただく。企業側もインフラのアウトソースサービスを受けた方がより効率化を図れますから」
ITリテラシーの高い世代の台頭で、改めてチャレンジできる土壌が整ってきたと高松氏は考えている。

 「10年後はさらに仕事の仕方やコンピューターの使い方がガラリと変わっているはず。その先をどれだけ読み、常にかゆいところに手が届くものを提供できるか、そこにトライしていきたいです。それこそが、私が起業した最大の目的です」

 自信に溢れた高松氏の眼差しは、日本のIT業界に新たな風を吹かせてくれる未来を予感させた。

社内では活発な意見交換が行われている
社内では活発な意見交換が行われている
会社概要
設立 2020年4月
資本金 2,000万円
所在地 東京都港区
従業員数 12人
事業内容 大企業向けのITサービスに特化したビジネスプロセスアウトソーシング事業
https://prits.co.jp/

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