経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

DXプロジェクトが失敗する理由と本当に変わらないといけない人

窪田望

連載 窪田望の「DX経営戦略論」(第2回)

DXプロジェクトはなぜ失敗するのか?

DXプロジェクトの多くは失敗する。そんな話を前回はさせてもらった。では、なぜそんなことが起きるのか。そもそも、DX推進は国家的課題であり、昇りのエスカレーターである。さらに多くの場合、社長からの同意も取れる。リーダーとして優秀な技術担当が信任され、専門コンサルタントがサポートに入る。明らかに周りが総出で応援してくれている状態だ。そんな状況があっても多くのプロジェクトは失敗してしまう。これはなぜなのか?

そもそも論だが、DXで立ち向かわないといけないのは、デジタルそのものではなく、組織の中で脈々と続いてきた「壮大なもつれ」を解く作業だったりするのだ。

「多くの企業が自分たちはデジタルビジネス・トランスフォーメーションを実行していると思っているが、実際にはたんにデジタル化・もしくはデジタル最適化を行っているだけで、文化やリーダーシップ、経営モデル、人材、資金調達といった核となる根本的な問題には対処していません」とA・P・モラー・マースクの元CDOイブラヒム・ゴクセンは語っている。[1]

「徹底的なDXを頼む・・・!」のはずだった

例え話をしよう。「徹底的なDXを頼む!」と命令されたDX責任者は、まず企業の中のあらゆる情報管理をチェックする。その時に、例えばまずはサイロ化して散らばっている情報を一元管理していくためにまずはとりあえずSlackを入れようと考えたとする。

しかし、その承認作業には課長のハンコが必要で、その上の部長のハンコを取り、1ヶ月に1回行われる役員会議で稟議をあげないといけないとしたら、Slackプロジェクトは数ヶ月を経て、審議されることになる。そして、最終的にコスト的に難しい、という回答が帰ってきたときのDX責任者の絶望感は、いかなるものだろうか。「おい、DXするのもっと別の場所で必要だろ!」と思うのではないだろうか。

そもそも論で、DXをするためには、既存の組織文化に手をつけなくてはいけない。では、DX責任者に権限を付与したらいいのか?ハンコは馬鹿げていると認めたとしよう。予算と権限を責任者に渡したとする。では、Slackを導入するために関連部署に説明をする。形だけ導入されたとする。

いやいや導入した部署の部長は、その重要性をキチンと理解していないかもしれない。別の部署の部長がその部下に「なんで重要なことを対面で説明しないんだ?Slack?そんなよくわからないもので報告するんじゃない!せめてメールにしろ!私はSlackなんて見ていない!」と怒鳴ったらどうなるのか。

Slackで頑張って定期的に自分の活動を報告していたメンバーはそれをしても評価が上がらないことを知り、小さな絶望といつもの展開に諦めのため息をつくことだろう。形だけSlackを導入した会社は、1年後全く使われていないツールに、大金をかけた責任をDX責任者に取らせ、次の人事を決める。そして、その人にこんな号令が飛ぶのだ。「徹底的なDXを頼む!」

本当に変わらないといけないのは誰だったのか?

このシチュエーションにおいて本当に変わらないといけなかったのは誰だったのか?実は経営者である。経済産業省のまとめている「DXレポート」の中でも「経営トップのコミットメント」が重要だと言うことがキチンと指摘されている。

さらに「DX が、自社の経営戦略を実現するためのものとして位置づけられているか。」ということが明確に記載されている。よく誤解されがちな「なんちゃってデジタル」がDXであるというような誤解は明確に払拭しておかなくてはならない。

どこかのITツールを入れれば、DXになるわけではない。ビジョンや経営戦略があり、その実現のために必要なDXを組織全体に適用する必要がある。そのためには、明確な痛みが生じる。例えばだが、先ほどのような「俺には対面で説明しろ!Slackなんて知らねえ」という部長に意識改革してもらう必要がある。

その意識改革ができるのは誰だろうか。ITが使えるらしいという理由でDX推進本部に任命された人間だろうか。いや、違う。社長自らがやらなければならない。

「そういう気持ちもわかる。俺もそう思ったよ。でもね、時代は変わった。俺たちこそがこういうことに前向きに積極的に関与して、若手を引っ張っていかないといけないんじゃないかな」と膝を突き合わせて本気で語る必要があるのだ。

「おー、どんどんやってくれ!任せた!」じゃダメなのだ。経営者よ、やると決めたのなら、お題目だけを唱えて、ふわふわと任せるのではなく、必ずここまでいくとコミットしよう。そこから変革は始まるのだ。

[1]DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる

筆者プロフィール:

(くぼた・のぞむ)株式会社Creator’s NEXT、CEO & Founder。米国NY州生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。15歳の時に初めてプログラミング開発を行い、ユーザージェネレーテッドメディアを構築。スペイン・香港・シンガポール・ルクセンブルクでデジタルマーケティングについての登壇、ハッカソン優勝等実績多数。グッドデザイン賞受賞、KVeCS 2018 Grand Finaleで優勝しニューヨーク招聘、IE-KMD MEDIATECH VENTURE DAY TOKYOで優勝しスペイン招聘される。2019年、2020年には3万7000名の中から日本一のウェブ解析士(Best of Best)として2年連続で選出。東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻グローバル消費インテリジェンス寄附講座/松尾研究室(GCI 2019 Winter)を修了。マサチューセッツ工科大学の「MIT Sloan & MIT CSAIL Artificial Intelligence: Implications for Business Strategy Program」修了。グローバルマーケティングにおけるスケーラビリティーの実装に強みがあり、マーケティングやA/Bテストに関する教科書の執筆や、のべ3000名以上のマーケティング担当者の前での登壇・育成に携わる。
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