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市場規模は拡大しているのに、なぜ?家事代行サービスHomejoy倒産秘話

家事代行スタートアップとして名を馳せたHomejoy

米西海岸のベイエリアでは、サービスアプリを使えばなんでも欲しいものが手に入る。ご飯が食べたければ、DoorDashを、タクシーを呼びたければUberを、物を買いたければAmazonを使えばいい。そして、家事代行サービスを頼みたい― そんな時のために、お手伝いさんを呼べるアプリがあった。Homejoyである。

Homejoyは、2012年から2015年までの3年間で、Google Ventures やPayPalの共同創設者であるMax Levchinなどから約40ミリオンドル(約40億円)もの投資を受けていた。そして、創設から短い期間で「家事代行サービススタートアップ」として名を馳せた企業でもある。CEOはAdora Cheung。カリフォルニア州・マウンテンビューに拠点を構え、Uberのようなアプリで、スマートフォンからお手伝いさんを派遣してもらう。リーズナブルで簡単に頼める家事代行サービスだった。

多額の資金調達にも成功し、一見うまくいってるように見えた同社は、2015年に呆気なくその幕を閉じた。その裏には家事代行サービスならではの失敗理由と、スタートアップ企業ならではのビジネス手法における欠陥があった。

家事代行サービスの現状とサービス手法

「家事代行サービス」とはその名の通り、家主の代わりに炊事・洗濯をはじめとした「一般的な家事」を担当するサービスであり、家政婦やハウスキーパー、お手伝いさんという名でも親しまれている。ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」が社会現象になったこともあり、「家事代行サービス」という言葉に聞き覚えがある人も多いだろう。

「家事は自分でするものだ」と思う人にとっては、「家事代行サービスに需要はあるのか?」と疑問が湧くかもしれない。しかし、実のところ家事代行サービスを含めたクリーニング業の需要は大きく、これからどんどん拡大していくとみられている。Small Business Development Center Network (SBDCNet) によると、1年間でクリーニング業が得る収入は約50ビリオンドル(約500億円)と言われており、アメリカ国内においても成長が期待される領域である。

出典:Allied Market Research

上の表は、2015年から2022年に向かって市場がどの程度拡大するかを表している。 Commercial Cleaningは商業施設やオフィスなど、企業向けのもの。Residential Cleaning は住宅のクリーニングで、 いずれも大きく伸びていくと予想される。住宅向けクリーニングはおよそ1.5倍だ。

2000年代後半から2010年代にかけて、家事代行サービスはラグジュアリーの部類として扱われ、富裕層だけが利用できるサービスとして認識されていた。リーマンショック後の大恐慌の際には市場が落ち込んだが、状況が落ち着き経済が立ち直っていく中で、人々にも経済的余裕が生まれ、クリーニング業の立て直しが始まった。

人々は生活の中で、綺麗で暮らしやすいスペースや家、集中できる仕事場を求める。しかしながら、仕事が忙しかったり、育児で家がちらかっていたり、趣味に時間を費やしたいのになかなか時間がなかったりといった理由で、家事が思うように進まない経験は誰にでもあるだろう。女性が外で働くのが当たり前になった時代、家事代行への需要は以前より増加している。

さらに現在は、健康と環境に意識を向ける人が多く、それがクリーニング業にも影響を及ぼしている。クリーニング業の世界的業界団体であるWorldwide Cleaning Industry Associationによれば、顧客の大きな需要として「環境に優しい商品とサービス」が挙げられるという。

掃除や洗濯で使われる商品の中に入ってる「化学物質などのトキシック(有害物質)がどのように体内に入り人体に悪影響を及ぼすのか」「使っている商品がどう環境に影響を及ぼすのか」といった課題に、顧客からの興味・関心が高まっている。そのため、トキシックフリーな商品やドライクリーニングの人気が高まっており、そこまで考える層にとっては自身で家事を行うよりも、家事代行サービスを活用するメリットは大きい。

家事代行サービスの人気は日本でも高まった。日本の家事代行サービス「DMM Okan(DMM おかん)」は人気が出すぎたがためにサービス終了となった。高齢化が進む世の中で、家事代行サービスには需要があったが、高齢化と同時に少子化と好景気が相まって、人材確保が追い付かなかったのだ。年末や週末に仕事の依頼が殺到しやすいこのサービスにおいて、人材不足は1番の課題である。

Homejoyが失敗した理由

家事代行サービスやクリーニングサービスの需要が高まる世の中で、約40ミリオンドルの資金調達に成功したHomejoyが倒産に追い込まれた理由は3つある。

サービスの継続率の低さ

まず1つ目に、リピーターの少なさが挙げられる。Homejoyがリピーターを確保できなかった理由として、プロモーションの使い方を失敗したことだ。同社は、2時間半のサービスを85ドルで提供していたが、ユーザーをできるだけ多く増やすがために、初期ユーザーには19ドルで提供した。

このプロモーションを使ってしまったユーザーはどうなるか? もちろん、戻ってこない。なぜなら次回からは3倍以上の値段を払わないといけないからだ。その値段を払うなら85ドル払ってもいい思えるサービスとクオリティが求められるが、「この程度か」と思われてしまえばそれまでだ。

Homejoyのリピーター率を見ると、成功していたとは言い難い。1カ月以内にリピートする顧客はわずか15〜20%で、競業他社であるHandyの35%と比べるとかなり見劣りしていた。また、6カ月以内にリピートする顧客は10%以下であった。このことを受け、同社は再びプロモーションを打ったり、フルプライスの値段を下げるなど試みたものの、プロモーションの時だけしかユーザーが増えなかったりキャンセルが続出したりするなど、リピーターの保持に苦戦した。

また、契約方法にも問題があった。HOMEJOYに雇われている人たちは、「雇用者」ではなく「個人事業主」であった。そのため、クリーナーとしての質がバラつき、サービスにおける個人差も大きかった。にも関わらず、基本的なトレーニングなどを会社主導で行わず、初心者であっても現場で働かせるような状態だった。当然、サービス評価やカスタマーのリピート率は下がる。自身のプライベートのスペースである自宅に他人を入れるということはとてもセンシティブな問題であるため、一度でも悪い印象を受ければリピート率が下がるのは当然の話だ。

経営的失敗

Homejoyは40ミリオンドルの資金調達に成功したが、その後のシリーズCで十分な投資を受けられずにいた。一度大きな資金調達に成功すると、経営陣はその期待に応えようと必死になる傾向がある。しかしながら、「より大きな事業をより早く広めよう」と焦ったことで、内容が伴わないクオリティーの低いサービスを提供してしまう結果となってしまった。

サービスを早く展開しようとする焦りから、初期ユーザーを多く集めるための初期投資が膨らんだが、事業から得られる収入は少なく経営困難に陥った。それにも関わらず経営陣は、たった6カ月間で30都市において事業を展開するという行動に出て自らの首を絞めた。

質の低いサービスを提供し続けていたが、経営陣はその改善を図るどころか、新しいユーザーとリピーターの取得のみに目が行き、プロモーション提供の継続やFacebook広告の拡大ばかりに注力していた。のちに経営陣は、「どのように質の高いサービスを提供するべきだったのかわからなかった」と述べている。

従業員との問題

そして、同社が一番苦戦し、経営が傾き始めた原因となったのが、従業員が会社相手に訴訟を起こしたことだ。従業員たちは「個人事業主」としての扱いに疑問を持ち、自分たちは「被雇用者」ではないのかと会社を訴えた。

これはフードデリバリーサービスのUberを始め、スタートアップ企業で頻出する問題だ。「個人事業主」であれば、好きな時間に働くことができるため自由が手に入る分、労災や雇用保険の対象にはならない。自由は手に入るが、保証はされない。つまり、副業として働いている人にとってはベネフィットがあっても、本業にしている人からするとキャリアが積めるわけでもなく、給料が自身のスキルによってレベルアップするわけでもないため、モチベーションが下がってもおかしくない。

「個人事業主」という肩書きであれば、法律上トレーニングされていない従業員を守る必要もないが、その分、その「個人事業主」の無責任な言動が原因で自社のサービスの質が損なわれるリスクが高いということだ。

家事代行サービスを成功させるために必要なこと

Homejoyが競合他社に勝ち抜き、ビジネスを成功させるには何が必要であったのだろうか。

まず必要だったのはサービスの質だ。「毎日ご飯を食べて、寝て、家族や大切な人と過ごすプライベートに他人が足を踏み入れる」ということの重要性を、企業側は理解しなければいけない。プライベートな空間に足を踏み入れるからこそ、物を大切に扱ったり、家主とのコミュニケーションを円滑にすることが重視される。信用が一度でも、少しでも崩れてしまえば、顧客からのリピートを期待することはできない。

だからこそ、ある程度質の高いサービスを提供できる従業員の雇用と、質の悪い従業員の解雇も視野に入れる必要があり、定期的にそれらの評価と対応を行うことが必須になる。さらに、マーケット調査では、家事代行サービスの客層は「45歳以上の夫婦で、学位を持っている人」が理想とされており、この客層から「何が求められるのか」を理解する必要がありそうだ。顧客が気に入ったクリーナーに、何度も頼めるといったサービスを取り入れることで、リピート率を上げることができたかもしれない。

学歴や資格が特に求められるわけではない家事代行サービスでは、「たとえどんなに頑張っても同じ評価しか得られない」と思ってしまう従業員も多いことだろう。「一人で黙々とする仕事」だからこそ、モチベーションの持続に関して会社がケアしていかなくてはならない。就労環境の改善も、従業員を増やし、より質の高いサービスを提供していくには必要なことだ。

家事代行サービスの先進国であるアメリカでは、この分野の事業を始めるにおいて心配するべきことは「家事代行サービス事業を始めること」ではなく「どのようにその事業を大きくしていくか」である。競合他社が増える中、クライアントの要求を従順にこなしていくことは想像以上に難しい。だからこそ、より適切な戦略とアプローチが、家事代行サービスでは求められている。