“スキマバイト”で日本最大級のプラットフォームを運営するネクストレベルホールディングス。累計200万人を超える会員ワーカーを独自の分析ルールで求人企業とマッチング、利用者は急拡大している。国の重点施策の一つである「働き方改革」で副業が増え、業界には追い風が吹く。さらなる成長戦略を河原由次代表に聞いた。聞き手=清水克久(雑誌『経済界』2023年1月号より)
日本最大級のスキマバイトプラットフォームを形成
―― スキマバイトの需要が旺盛で、事業が拡大していますが、現状はいかがですか。
河原 当社のスキマバイトは必要な時間に必要な人員を手配することができるサービスで、1日3時間から受け付けています。天候悪化で突発的にイベント設営に何十人が必要となった場合でも、現場を仕切れるリーダー格や高いスペックを持った人を手配することが可能です。短期の人材サービスに着目して2008年に創業しましたが、「働き方改革」で世の中が変わり、大企業でも副業が解禁されるようになり、自分の能力や趣味を生かして単発で働く「ギグワーカー」も増えています。
新規登録者は月間で3万人を超え、累計では200万人を突破して今も増え続けていますが、多くの方に使っていただけているのは、マッチング率の高さとミスマッチにならない工夫、自分のスキルに合わせて高い報酬を得られるレベル分けの仕組みがあるからです。現在は求人の方が圧倒的に多く、スキマバイトのマーケットはさらに広がっていくと思います。
―― 人材関連の企業は数多くありますが、あえてこの分野で起業した理由は。
河原 若い頃から起業を目指して営業やイベント施工の仕事をしていましたが、ある時、企業には繁忙期と閑散期があることに気が付きました。企業は繁閑期に合わせた人員の調整に苦労していることを知ったので、これはビジネスチャンスだと思ったのです。普通、派遣会社は短期をやりたがりません。理由は手間とコストです。長期派遣なら募集、面接、採用から求人企業とのやり取りは1回で済み、その後は何もしなくてもいいですが、短期ではそうはいきません。
当社も最初はアナログでやっていましたが、早期にウェブ登録に切り換え、グループ会社を2社つくって別々に募集したら登録者がどんどん集まりました。でも複数の会社のままでは無駄なので、それぞれが集めた人材データベースをシェアリングすること考えました。システム対応や各種法規制もあるので、できるかどうか最初は半信半疑でしたが、うまく活用できるようになりました。
現在ではその仕組みを進化させて他の短期人材会社、約50社と提携、登録者数で日本トップのスキマバイトの共有プラットフォームが出来上がりました。
―― スキマバイトサービスの需要は今後拡大していくでしょうか。
河原 私はアルバイトという存在がなくなっていくのではないかと思っています。働き手は同じ場所でずっと勤めるのではなく、好きな時間に自分のスキルを生かせる働き方を望んでいます。企業も国の「働き方改革」の一環で副業を解禁する方向に舵を切っており、“副業禁止の禁止”が主流になっていくでしょう。アルバイトや副業は労働力のシェアリングともいえるので、スキマバイトサービスの需要は広がっていくと思います。
また当社はミスマッチが起きないように過去の職歴、経験のデータを蓄積して、さらにランク付けしています。例えばイベント設営の仕事をどこで何回したことがあるのかをデータとして蓄積しているので、求人企業はその経験値を元に採用できます。ランク付けはワーカーにとっても給与を上げる根拠になります。飲食店で働いた豊富な経験があっても、次の店では普通、未経験からのスタートになってしまいます。そこで当社がその経験値を「S」から「A・B・C・D」でランク付けして、経験値やスキルを給与に反映させるようにしています。
“社長募集プロジェクト”でグループ会社を拡大へ
―― 飲食業や軽作業の分野の需要が大きいと思いますが、コロナ禍で状況は変わりましたか。
河原 ニーズは時期によって変動が多く予測は難しいのですが、コロナ関係ではワクチン接種会場の設営、撤去、来場者のアテンドなどはほとんどうちのワーカーですし、PCR検査場もそうです。国や自治体関係からのニーズも増えており、取引先は4万社を超え、今は求人の方が多い現状です。
―― 利用者の年齢や男女比はどうなっていますか。
河原 10代から30代が全体の80%で、男性が6割です。学生やフリーターもいれば、副業で週2回と決めて働いている人もいて、人それぞれです。正社員がいて、一方でアルバイトや非正規という分け方がありますが、私は正社員という呼び方はおかしいと思います。当社は業務請負、派遣業の認可をもって自社で雇用し社会保険にも入っています。違うのは働き方なのです。経験を積めば、ランク制度があるのでランク上位の人が正社員より給料が高いことも珍しくありません。
―― 正社員採用を後押しする制度もあるそうですね。
河原 企業が求める人材をうちのプラットフォームの中から探して、5日間程度の職場体験をさせて採用を支援する制度です。企業にとっては求人広告を出すコストや時間、手間が省けます。また職場体験をしているので、すぐに辞めてしまうリスクも軽減されます。
転職はずっと働いていた会社での経験や人脈を捨てて、求人広告を頼りに飛び込むのでとても怖いと思います。職場体験は情報漏洩リスクなどがあって、企業も最近までやりたがらなかったですが、お互いにミスマッチを防ぐ意味でも絶対にやった方がいいですね。6月から試験的に始めた新規事業ですが、半年で黒字化しました。
―― 起業家を支援するために、社長を誕生させるユニークな制度もあるそうですね。
河原 やる気のある人を応援する“社長募集プロジェクト”です。学歴、年齢に関係なく、人材関連の分野で社長になりたい人に当社で半年間の研修を受けさせ、将来性が見込めれば最大2千万円まで出資します。直近まで40社つくりました。最年少はわずか21歳です。広告とは別で、私のインスタグラムに反応してSNSから「社長になりたいです」と毎月200人くらい応募が来るので、担当者につないでいます。未経験でも、真剣に取り組む気持ちがあれば、成功します。
このプロジェクトでどんどん社長をつくってグループ会社を100社、200社、そして1千社に増やせればいいですね。またHR業界で存在感のある会社にしたいと思っているので、売上高も今の約150億円から1千億円そして1兆円の大企業へと自分の世代で達成を目指して努力したいと思っています。