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世界の労働様式変革をパーパスに「人と仕事の縁結び」をし続ける エントリー 寺本 潤

寺本潤 エントリー

人材派遣事業とシェアリングエコノミー事業が主業務。特徴は、隙間時間を使ってスキルが不要で誰でもできる短期の仕事に特化しているところ。取引完了後は24時間365日報酬が受け取れる。誰でも簡単、安全に日常のちょっとした手間を〝スキマ時間にシェアできる場〟としてのプラットフォーム「シェアジョブ」も立ち上げている。文=榎本正義(雑誌『経済界』2023年1月号より)

寺本潤 エントリー
寺本 潤 エントリー社長
てらもと・じゅん 1971年大阪府生まれ。デザインの専門学校を卒業後、ディスプレー会社や広告代理店を経て、派遣スタッフの後、その人材派遣会社に入社。14年で社長に就任するが1年で退任。2014年人材派遣会社の株を買い取り、エントリー設立。

人材派遣とシェアリングエコノミー事業が2本柱

 1~2日の短期で、倉庫などでの仕分けや梱包といった軽作業に特化した人材派遣会社のエントリー。登録から勤務開始まで来社不要、24時間365日即日給与全額振り込みといった利便性を高めたサービスを次々打ち出し、業界をリードしている。

 「学生やフリーター、主婦(夫)、ダブルワークの方などが、自分のスケジュールに合わせて、好きな時間に好きな場所で働ける派遣事業を行っています。もう一つ注力しているのが、シェアリングエコノミー事業として展開している『シェアジョブ』。家の掃除や家具の組み立てなど、CtoC(個人と個人の業務委託)で、スキルが不要で誰でもできる点が特長です。このシェアジョブでも24時間365日即日報酬全額振り込みのサービスを搭載しています」と寺本潤社長は説明する。

 寺本氏は、大阪のディスプレー会社や広告代理店に勤務するが、阪神淡路大震災をきっかけに転職する。その後、大手企業の内定を得たが、急成長中だった人材派遣会社に派遣スタッフとして登録。後に正社員となり、エリアマネジャー、執行役員を経て2009年、入社14年目で社長にまで上り詰めるも、わずか1年で退任してしまう。

 「ある時、創業社長と食事をする機会があり、創業時のエピソード、トラブル、武勇伝などさまざまな話を聞くうちに胸が熱くなり、ベンチャースピリットに溢れるその姿がとても格好良く見えました。いずれ自分もこの会社の社長になろうと決意し、がむしゃらに働きました。入社14年で手腕を買われ、中核の事業会社の社長に抜擢されました。しかし、ちょうどリーマンショックの直後で会社も厳しい状況となり、数字と利益と株主配当だけのために働いているのが嫌になったのです。それならもう一度自分で一からやり直して、理想の仲間と理想の会社をつくろうと思いました」

 13年にエントリーの母体となった会社の経営に参画し、翌年その会社の株式を買い取り自ら代表に就任。その後、エントリーへ社名変更した。17年、業界初の「24時間即払いサービス」を開始し、19年には「シェアジョブ」をリリースする。

 同社が行っているサービスにはいくつもの特徴がある。自社のスマホアプリ「スマジョブ」から24時間365日、いつでもどこでもウェブ登録が可能。登録後は青森県にある登録センターでウェブカメラを使った面談を行う。登録説明会はウェブだけでなく、各支店でも開催している。

 また、社名を伏せた上で、すべての求人情報を開示している。派遣会社は通常、登録スタッフの希望や条件に合った求人情報を紹介していく。これだと社員の残業時間が多くなる。そこで登録スタッフが自ら仕事を探せるように仕組みを変えた。この結果、社員の残業時間は月70時間から18時間に減り、離職率も大幅に下がったという。

 特徴的な制度に、フィールドディレクターがある。10~20人が派遣される大型現場での登録スタッフのサポート役として、エントリーの社員が一緒に働くのだ。これによりクライアントからの継続的な案件依頼につながるとともに、スタッフの継続勤務率向上が見込めるというメリットがある。

 さらに、派遣スタッフが業務を終えた後、セブン銀行のATMで曜日や時間帯を気にすることなく、2時間以内に給料を全額送金するシステムを作り上げている(現在は都市銀行、ゆうちょ銀行など主な銀行でも可能)。

並び・買い物代行、場所取りの分野に特化して業績も伸長

エントリー
エントリー

 エントリーは東京と大阪の2拠点からスタートし、現在は北海道から沖縄まで33拠点に広がった。寺本氏をはじめ役員が皆、人材派遣会社出身のため、どのエリアにどれくらいのニーズがあるかを把握しており、この長年の経験を生かした拠点戦略が功を奏している。

 19年に立ち上げた「シェアジョブ」は、当初、「個人の困ったを解決します」という抽象的なキャッチだったため、クライアントは何を依頼できるかが分からず、個人依頼の獲得に苦労したが、多種多様なアプローチを重ね、他のサービスとの差別化、働く側のニーズも加味し、並び・買い物代行、場所取りの分野に的を絞ることで、少しずつ実績が伸びていった。人材派遣×シェアリングエコノミー事業により、売り上げは毎年上がり続け、20年には売り上げ100億円を達成するまでになっている。

 一方で、シェアジョブは家具組み立てや並び代行など、都心での需要が多く、地方での普及が課題だった。

 「日本は人口減少社会に突入していますが、特に農業は高齢化と人手不足が深刻です。この解決のため、シェアジョブが活用できるのです。20年に青森県でシェアリングエコノミーによる労働力不足対策実証業務の法人を募集していることを知り、応募しました。これが採用され、22年8月に『シェアジョブ農家さん相談弘前支店』を開設しました。コロナ禍で先延ばしになっていた海外進出も加速させていきます。手始めにこの10月にベトナムに現地法人を設立、富裕層の自宅に向けて掃除サービスを展開します。現地の大学生に研修を実施し、日本ならではのきめ細かな働き方を行っていきます」

 今後は東南アジア諸国やインド、30年にはアフリカにもシェアリングエコノミーのサービスを展開する予定だ。「世界の労働様式を変える」というパーパスを胸に、人材派遣で培った経験と、シェアジョブでのノウハウを生かした海外展開をしていくという。

 エントリーでは、独自の人事制度として、世の中のためになるサービスをテーマにした社内のビジネスコンテスト「イントレプレナーコンテスト」を実施している。21年度は2つのアイデアが採用され、新規事業として誕生した。21年は、新卒1年目の営業マンが入賞した。

 「社名のENTRYには、新しいことへの挑戦をやめない会社として、EN+TRY=人と仕事の縁結び(EN)に挑戦(TRY)し続けます、という想いが込められています」

 熱い志を秘め、寺本氏は突き進む。