経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「業務を効率化する物流改革を通して社会の発展に貢献します」 物流革命 村山 修

村山修 物流革命

企業経営においては商品開発や営業部門が花形部門として脚光を浴びることが多いが、近年は物流戦略が業績を左右する鍵として重要視されるようになった。佐川急便を経て物流のコンサルタント会社「物流革命」を設立した村山修代表は単なる企画、提案だけでなく、実際に青果物販売を担う会社を設立するなど、物流に関するあらゆる課題解決に挑戦している。その戦略を聞いた。聞き手=清水克久(雑誌『経済界』2023年1月号より)

村山修 物流革命
村山 修 物流革命社長
むらやま・おさむ 1962年、大阪府生まれ。佐川急便に入社し、セールスドライバーとしてスタート。運行責任者、支店長を経て、システム会社、3PL事業、国際貨物事業等の新規事業を担当。98年に物流革命を設立して社長に就任。

コンサルティングから運営までトータルでサポート

―― 物流に特化したコンサルティング会社を起ち上げた経緯は。

村山 佐川急便ではセールスドライバーからスタートして約16年間、いろいろな部門で仕事をしてきましたが、独立するきっかけになったのは欧米でのプロジェクトを通じて現地の最先端の物流企業に出会ったことです。大型物流センターを建設するためのプロジェクトだったのですが、そこでお会いした幹部の人たちは大体がエンジニアでMBAホルダーもたくさんいました。グローバル企業のウォルマートやコカ・コーラを相手に最適な物流施設を設計する優秀な頭脳集団で、「こんなすごい人たちがいる国と日本は戦争をしていたのか」と強い衝撃を受けました。欧米ではロジスティクスが既に学問として体系化されており大学院もたくさんありますが、この点で日本は大きく遅れています。

 日本の経営者は、在庫と物流が適切に管理されないと黒字にはならないと理解していますが、どうすればいいのは分かりません。在庫や物流のプロが日本にはいないのです。先生がいないのでみんな自己流。だから欧米の一流通販会社には勝てません。いろいろな課題が山積している中で、物流の効率化は挑戦しがいのあるテーマです。そこでコンサルティング会社を起ち上げました。

―― 1998年に起業しましたが、強みは何ですか。

村山 物流コンサルティングは、設計や内装工事など、各工程のプロと一緒に作っていく仕事でゼネコンと似ています。しかし、建物は竣工してしまえば仕事は終わりですが、物流センターは完成後365日、適正に運営する必要があります。特に小売業界の物流センターは運営が難しく、ドライバーや倉庫従業員の採用、トラックの確保など、問題だらけです。それで当社は、物流センターの運営を行う「オペックス」という会社を設立しました。コンサルティング契約の他に、実際に運営して効率化された金額の何%かをプロフィットシェアとして頂きます。経験を重ねていくと1社で完結することもありますが、複数社でまとめたほうが効率が向上することも少なくありません。

―― 共同配送は環境にやさしい取り組みとして注目されていますね。

村山 ゴルフ業界を例にあげるとクラブやキャリーバッグなどの登録製造業者は約200社あります。それら各メーカーの配送先はゴルフの用品店、スポーツショップ、ゴルフ場、ゴルフ練習場などで、それぞれがバラバラに運送会社を使っているので非効率です。そこで業界団体のトップにお会いしてオペックスとして共同物流を提案して実際に運営しています。既に5年が経過しておりますが20年、日本ゴルフ用品協会と共に国の「グリーン物流優良事業者表彰」を頂きました。

コンビニ3社の共同配送で効率化と環境負荷低減を実現

―― 行政が絡む実装実験にも積極的に参加されていますね。

村山 内閣府が所管する複数の省庁をまたいで問題解決を目指す「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)という施策があるのですが、ここのテーマにロジスティクスが入りました。お役所の方がヒアリングに来られたので、その時にコンビニエンスストアの話をしました。コロナ禍以前の東京オリンピック開催前で、大会期間中は都心への出入りを制限するという話が出ていた頃です。どういう事かというと、多数あるコンビニへの配送を共同でやれば効率化ができ、環境への負荷も減るのでいい事だらけ。SIPチームから提案してほしいとアドバイスしました。そして国が働きかけて公益財団法人流通経済研究所を代表機関としてコンビニ3社が協力することで共同配送が実現し、お台場周辺に走っていたトラックが21台から5台にまで減りました。

―― 業界や地域がまとまれば、いろいろな効率化ができますね。

村山 現在、注目しているのが農業です。20年間やってきたノウハウを野菜、果物にあてはめてサプライチェーンの見直しを考えています。「物流革命」はコンサルティング、「オペックス」は運営会社ですが、昨年、「農業流通支援」というグループ会社を設立しました。ここでは農業全体の生産性向上を目的に収穫隊の派遣、共同物流、販路開発の3本柱です。生産者は青果物をJAを通して市場で販売する方式が主流でしたが、今は市場外流通が全体の4割を占めるほど増えています。でも生産者は物流の専門家ではないので、当社が全面的にサポートします。また、「生活支援物流」という会社は買い物が困難になってきた高齢者などを対象に、店舗で購入した品物を冷凍品・チルド・常温品の3温度帯で、自宅に配送するサービスです。買い物客の負担は一律100円で、3時間以内に届けます。

青果市場の買参権を取得して農家や小売業を支援

―― 農業は課題が多いと思いますが、どのように改善しますか。

村山 農業は一般的に産地からJA、市場、仲卸会社(加工センター)、小売会社の物流センターを経て、店舗に届くまで最低5回配送され、物流費は全体の33%かかります。店舗で大根が100円で売られているとすれば、農家の手取りは2、3割です。儲からないから農業人口が減り、食糧自給率も減るという悪循環になっています。そこで、まずは5回の配送を1回にする方法を考えました。同時に、多品種の品揃え対応として大田市場で買参権(セリに参加できる権利)を取得して、当社が直接仕入れをします。その野菜をカットしたり、パック詰めする加工センターを市場近くに設置、店舗の品出しまで行います。小規模、多店舗展開が成功して伸びている「まいばすけっと」では、鮮度が良く野菜を小分けにしてパックで販売、売り上げが大きく増えました。

 これは16年に起ち上げたプロジェクトで最初は3人でしたが、今は300人まで増え、年商は120億円を超えました。小売業をやりたかったわけではないですが、スーパーのコンサルをしていた中でひらめいたアイデアです。評判が評判を呼んで今は川崎北部市場でも買参権を取得、野菜センターは北海道、仙台、大阪、九州までに広がっています。

 当社は物流の力でお客さまの問題解決に貢献する会社です。昨今は消費者がSDGsやカーボンニュートラルへの対応などエシカル消費に敏感になっています。社会環境が変化すれば物流もどんどん変わっていくと思いますが、その時にお客さまに最適な提案をし、物流を通じて社会に貢献したいと思っています。