ゲストは青木さやかさん。テレビ番組の「どこ見てんのよ!」でブレーク後、マルチタレントとして活躍しています。母親との長年の確執を書いた著書『母』は、同じ境遇にある母娘の共感を呼びました。生きづらさと共にあった人生と、現在の動物愛護活動について語り合いました。似顔絵&聞き手=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=上山太陽(雑誌『経済界』2023年1月号より)
青木さやか氏のプロフィール
母親との長年の確執に感じてきた「生きづらさ」
佐藤 青木さんが昨年出版された『母』は、絶対的な存在であるお母さんとの確執が包み隠さず書かれていて衝撃を受けました。読者の反響はいかがでしたか。
青木 たくさんの手紙やSNSのコメントを頂きました。本の感想だけでなく、母親あるいは娘さんの立場から、母娘関係を修復したいという声が多かったですね。
佐藤 青木さんの人生に共感して、孤独感から解放された人が多かったのかもしれませんね。お母さんとの関係がこじれたきっかけは。
青木 私も子どもの頃は母が大好きでした。両親共に教師で尊敬されており、街を歩けば「青木先生のお子さんですね」と声をかけられました。でも、母は私を全く褒めてくれなかったんです。テストで90点取っても、「なぜあと10点取れないの」と責められました。褒められたくて頑張りましたが、叶いませんでした。
佐藤 それは寂しいですね。
青木 はい、とても。また母は固定観念を押し付けてくる人で、「あの人は大学を出ていないからかわいそう」とか、「あの歌は70点」などと常に評価していました。お陰で私は自己肯定感が低く、褒められても自信が持てないので、きつい言葉をかけてくる人とばかり付き合い、生きづらさを感じていました。両親の離婚を機に母との確執が生まれ、原因は母にあると感じた当時高校生の私は、母が大嫌いになったんです。
佐藤 現代は多様な個、子どもの人権も尊重されますが、当時は「親の言うことを聞いて大事にしなさい」と非難されましたよね。
青木 はい。それでも25歳で上京した時は、いつか仲直りできるだろうと考えていました。しかし、仕事がなくて毎日パチンコや麻雀をして、親に無心するという生活を送っても気持ちは変わらなくて。結婚して出産した時も、退院日に東京まで来てくれた母に対して、「私の大切な赤ちゃんに触らないで」ときつく当たってしまった。あの時の母の軽蔑した目は忘れられません。母と仲良くするべきなのは理解しているのに、心が追い付かない。母との確執を解くのは一生無理だと悟りました。
佐藤 そこから確執を解消しようと考えるに至ったのは。
青木 母が悪性リンパ腫を患い抗がん剤治療を続けていたのですが、3年前にホスピスに入ったんです。友人から、「これが最後のチャンスだよ。親孝行は道理。自分が楽になるからやってごらん」と言われて。離婚して仕事にも健康にも不安があった私は、この状況が変わるなら頑張ってみようと。数年前に父が亡くなり、生前の喧嘩から仲直りできなかったという後悔もありましたし。
佐藤 関係修復に向けて、何からどう話していったのですか。
青木 お見舞いの初日に謝ろうと決意し、ベッドにいる母に、「お母さん、私はいい子じゃなかったね。ごめんね」と言ったら、母が「何言っているの。さやかは誰よりも優しいでしょ」と。私は全然優しくなかったのにと涙があふれました。私との別れを良いものにしようと褒めてくれたのかもしれません。それからは3カ月後に母が亡くなるまで、毎週お見舞いに行きました。良かったのは、母を嫌いだと思わなくなり、今では年々好きになっています。だいぶ生きやすくなりました。
佐藤 他人の嫌な面は自分の鏡。それを許容できるかどうかですよね。
青木 おっしゃるとおりです。今まで娘と向き合う自分の中に母を見つけて嫌になっていましたが、今は母を見つけると懐かしく思います。友人は、「死んでもできる親孝行」という言葉も教えてくれました。親を思って反省して泣くより、笑って楽しく生きることが親孝行になると。人生のつらさばかり味わってきたので、人生を楽しむことは大変ですが、これからは楽しむことを努力し、この親孝行にチャレンジしていきます。
佐藤 『母』は青木さんが前進するための成長の糧なんですね。
動物愛護活動を通して動物を救い、自分を整える
佐藤 今はタレント活動のほか、動物愛護活動もされていますね。
青木 NPO法人TWFの会とご縁があり、10年前から活動を始めています。多頭飼い崩壊や虐待を受けた動物は凶暴になります。それでも愛情を持って接することで、人の手からご飯を食べてくれて、顔つきが変わり、なでさせてくれるようになる。人に傷つけられた動物が、人に癒されて里親の元へ行くわけです。
佐藤 最近はテレビ番組でもタレントの動物保護や譲渡会の様子が放送され、啓発になっています。
青木 ありがたいことですし、もっと世の中の人々の意識を高めたいですね。NPOが目指すのはさっ処分ゼロです。さっ処分の前の動物が扉越しに何が行われているか、恐怖を感じないわけがありません。さっ処分は年々減っていますが、動物が生きる費用を負担するのは保護活動をする人たちです。ここに皆さんの支援が必要です。
佐藤 お金がなければご飯もあげられず、生きる環境も維持できませんしね。国や自治体の支援も必要ですね。今後も活動は続けますか。
青木 もちろん。私は動物愛護活動とは、人が整うことだと思っています。人が経済的、精神的に整っていないと今の犬猫は生きられません。だから私も自分を整えて楽しく生きていきます。私自身がまた有名になって、平和な世の中をつくる影響力のある存在になりたいですね。