経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

消滅危機に瀕する日本の自治体を救う観光客誘致アプリ「SpotTour」

戸村光の「進撃のベンチャー徹底分析」(第2回)『経済界』2021年7月号より加筆・転載)

シリコンバレーで起業し、ベンチャー企業や投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、 独自の視点から 同氏が注目する企業を毎回取り上げ、その事業戦略や資金調達の手法などを解説する。

全国の自治体や交通機関などが導入

日本で1741ある市区町村のうち、2040年までに消滅の可能性があるのは現在の約半数にあたる896にも達すると言われている。

そうした状況に追い討ちをかけるように、COVID-19が猛威を振るっている。この先の外国人観光客の回復を楽観的に予測した場合でも、平常時の水準まで戻るのは2023年1月以降になると見込まれている。

観光客が訪れないという危機が生じている今こそ、地域が主体となって観光施策に力を入れなければならない。しかし、観光施策を行うための予算は多くの観光客が訪れる限られた地域に集中しており、予算がない地域は新たな観光地の発掘や、観光振興に結び付くウェブサイト、あるいはスマホアプリの開発といった施策が実行できない状況にある。

そうした事情を踏まえ、予算が少なくても観光施策を行える無料の観光アプリ「SpotTour」を生み出したのが、スポットツアー代表取締役の鳥居暁氏だ。

SpotTourは既に全国50以上の都道府県や市区町村の行政機関をはじめ、東京メトロ、日本郵便、西日本鉄道などが導入している。わずか1年半でこれだけの実績を積み上げた同アプリの魅力は何どこにあるのだろうか。

スポットツアー代表取締役の鳥居暁氏

Googleも入手できない観光データを取得

SpotTourには、地域に観光客を集めるための仕組みがすべて集約されている。

まず、観光に関する他のアプリと違い、各自治体の主導で地域の観光情報を入力できる。地域に詳しい人物だからこそ発信できる情報を提供したり、新たな観光地を見つけ出して登録したりすることができるため、Googleも手に入らないような観光分野のビックデータを集積しているのが特徴だ。

従来は、観光施策に一定の予算を導入した場合の結果を予想できるデータがなく、企画を立てても実行に踏み切れないケースがあった。しかし、SpotTourを用いると、例えば観光客がA地点からB地点の移動に使用したルートや滞在時間が分かる。そのため、数値化された行動データに基づいた施策を打つことが可能となる。

さらに、MaaS(ITを用いて、交通機関を人々が効率よく使えるようにするシステム)とSpotTourとを連携させることで、今までにない分析が実現する。その分析を基に観光客の滞在時間を延ばすことができれば、自ずと地域に落ちるお金は増える。仮にジュース1本でも観光客の消費を促すことができれば、地域経済の活性化につながる1歩となるだろう。

SpotTourは、英語や中国語、韓国語、フランス語など12の言語に対応し、海外の多くの観光客が利用できるようになっている。また、目的地に迷わず向かうためのナビゲーション機能、訪問日時を記録するスタンプラリー機能、撮影した写真を自動フォトブックに収める機能など、さまざまな使い方を楽しむことができる。

安心、安全を担保する機能が充実しているのも嬉しい点だ。災害が起こった際には、自治体などから観光客への通知が可能となっている他、1日単位での保険契約もアプリ操作で完結する。今年3月には、あいおいニッセイ同和損保と協力して「SpotTour保険」の提供を開始すると発表した。100円の保険料で最大1億円の補償という内容で、一度契約すると次回から数タップで簡単に契約が完了するシステムとなっている。

観光に関するさまざまな機能を集約した「SpotTour」

SpotTourが地域振興の強力なツールに

SpotTourを使って、新しいツアーの企画に成功している地域がある。例えば、長崎県松浦市は、「松浦絶景スポットやアジフライ食べ歩き」というツアーをSpotTourに登録。現地に足を運んで実際に食べたくなる「アジフライの聖地」として地元をPRをすることで、観光客の年齢層を広げている。

また、これまでは訪問者数が把握できなかった絶景スポットを、SpotTour内のスタンプ機能を使うことで人気度合いを鮮明にし、よりPRしやすくした。市の担当者は「松浦市に足を運んでもらうきっかけができた」と話す。

国内外の新たな観光客を呼び込むことが、地域経済の活性化につながるが、特に海外からの訪日観光客を早期に呼び戻すことが必要だ。

観光庁の推計では、日本を訪れる外国人旅行者は滞在期間に平均15万円を消費するため、国内宿泊旅行者と比べると3倍以上のお金を地域に落としている。年間約3188万人のインバウンド総数のうち、中国、韓国、台湾、香港4地域が全体の70%を占め、COVID-19の収束後のインバウンド回復に大きな期待がかかっている。

地域の観光地を観光客にいかに周知していくかが、地域経済活性化の重要な鍵となる。全国の過疎地域にとってSpotTourは復興に向けた強力なツールとなるだろう。

戸村光

戸村 光(とむら・ひかる)――1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。