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「アメックス、ビザを経て百貨店カードの伸びしろに賭ける」―二之部守(JFRカード社長)

二之部守・JFRカード

インタビュー

「鶏口となるも牛後となるなかれ」とはよく聞く言葉だが、日本でまだまだ根強いのが「寄らば大樹の陰」という考え方だ。JFRカードの二之部守社長は、世界的カード会社を渡り歩いた末、J.フロントリテイリングのカード部門を引き受けた。今の仕事のやりがいはいかに。聞き手=関 慎夫 Photo=山内信也(『経済界』2021年8月号より加筆・転載)

二之部守・JFRカード社長プロフィール

二之部守・JFRカード
(にのべ・まもる)1961年生まれ。東京大学文学部卒、ニューヨーク大学経営大学院でMBA取得。86年アメリカン・エキスプレス・インターナショナル日本支社入社。2007年リシュモン・ジャパンに転じ、11年にビザ・ワールドワイド・ジャパン入社。18年3月JFRカード社長に就任した。

二之部守氏がJFRカード社長に就任した経緯

―― 二之部さんは、アメリカン・エキスプレスを皮切りに、名だたるカード会社で経歴を積んできました。JFRカード社長に就任したのは3年前のことですが、どういう経緯で引き受けることになったのですか。

二之部 ひとつはご縁ですね。J・フロント・リテイリング社長だった山本さん(良一・現取締役会議長)と食事する機会があって、それで縁ができました。もうひとつは、やりようによっては、伸ばすことができるのではないかと思ったからです。それを自分の手で達成したかった。

これまでJFRグループはJFRカードに対して投資をしてきませんでした。社長は歴代、百貨店出身者で、カード事業については素人でした。でも見方を変えればレガシーがないということです。すべてのことが1から設計できるため、後発者利益を得ることが可能です。しかも組織が小さいため取り回しがいい。そこに可能性を感じました。

―― この3年間、具体的にどんなことを行ってきたのですか。

二之部 まずはテクノロジーの分かる人間を採用しました。JFRカードは大阪・高槻市に本社があり、そこで開発業務なども行っていましたが、そのままでは人が採れません。そこで東京にも拠点を開設、テクノロジー部隊はここに集結しました。

今年1月に、大丸松坂屋カードのリニューアルをしました。業界初の縦型のカードデザインを採用したお洒落なカードですが、このカードはテクノロジー部隊がいなくては実現できませんでした。

―― カードのデザインを変えるぐらい簡単そうですが。

二之部 デザインとともに、ポイント制度も一新しました。従来の大丸・松坂屋のポイントに加え、「QIRA(キラ)」という新ポイントプログラムを追加しました。大丸・松坂屋だけでなく、スーパーやコンビニ、オンラインでの買い物でもポイントが貯まり、そのポイントを大丸・松坂屋で使うことができます。

さらに加盟店事業も始めました。大丸・松坂屋以外にもお得に利用できるお店を増やしています。なぜこのようなことをするかというと、アーバンドミナントエリア戦略のためです。JFRグループでは、大丸・松坂屋の店舗の周辺エリアと一体になった街づくりを進め、既に大阪・心斎橋や京都・烏丸、東京・上野で始めています。カード事業はこの戦略の中核です。

将来的にはお客さまに老後の安心を提供するために、保険の販売なども行っていく予定ですが、昨年10月には心斎橋パルコの中に「QIRA・フィナンシャルラウンジ」をオープンし、保険の無料相談や各種セミナーを行っています。

こうしたことをこの3年でやり遂げました。その意味では非常に満足感がありますが、緊急事態宣言などもあり、百貨店に来るお客さんの数が大きく減っています。お店はカードやポイントPRする一番の場所ですので、その影響は出ています。でも嘆いていても仕方ない。やるべきことをしっかりやって逆風に耐えていきたいと思います。

―― ところで二之部さんが仕事を選ぶときのポイントは何ですか。

二之部 面白いかどうかですね。

最初はアメリカン・エクスプレス・インターナショナル日本支社に入り、21年間勤めました。アメックスはとてもいい会社です。今でも感謝しています。でも、そのまま同じところにいるのではなく、違う世界を見てみたい。そう考えてカルティエなどを扱うリシュモン・ジャパンに転職しました。その頃はまだ、金融・決済で生きていこうという思いはそれほど強くなく、むしろ物販という全く違う世界のほうが自分の幅を広げられると選びました。これも非常に楽しかったですね。

世界的大企業より仕事の醍醐味は上

―― その後、ビザ・ワールドワイド・ジャパンに転じ、カードの世界に戻ってきます。

二之部 ビザとアメックスは、同じカード会社でも全く違いました。

アメックスは自らカード会員や加盟店と直接契約していますが、ビザは銀行などにライセンスして、そこに会員や加盟店を獲得してもらう。ビジネスモデルが全く違います。しかもカルチャーもまるで違う。ビザは2007年まで会社ではなくアソシエーションでした。株式会社になったのはつい最近。そうしたところも企業文化の違いにつながっています。

―― アメックスもビザも世界的企業です。それに対してJFRカードは、JFRグループ内のハウスカードで、規模は全く違います。物足りなく感じたりしませんか。

二之部 いえ、こっちの方が全然面白い。アメックスもビザも、グローバルなマーケットの中で、日本はその一部にすぎません。戦略やブランディングも本社で行っています。ですからキラポイントのように、1から自分たちで全部立ち上げたり、自分たちの好きなデザインを採用することなどできません。別にアメックスやビザを否定するわけではありませんが、どちらにやりがいがあるかといえば言うまでもありません。

社員にしても同様だと思います。ここにきて、最初に人集めから始めましたが、その時は、自分のビジョンを示して、新しいことをゼロから始めることに賛同した人に来てもらいました。その醍醐味を味わっていると思います。