一時期、さかんに言われていた「地方創生」だが、最近はその言葉を聞くことも少なくなった。しかし人口密集がコロナを流行らせたのなら、いずれはやってくる次のパンデミックに備える意味でも人口分散が不可欠だ。そのためには新しい観点からの地方創生策が望まれる。文=関 慎夫(『経済界』2021年10月号より加筆・転載)
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増え続ける廃業・解散で地方経済は大ピンチ
倒産は減少するも休廃業・解散が増加
東京オリンピックが近づくにつれ、新型コロナウイルスの感染者は激増し、7月30日にはついに1日1万人を突破した。政府は緊急事態宣言の対象地域と期間を拡大して人流抑制を図るが、少なくとも8月上旬の段階ではその効果は限定的で、コロナ収束にはまだまだ時間が必要だ。そしてコロナ禍は感染者の多い都心以上に地方を傷つけている。
昨年の企業の倒産件数は前年より7・3%減少した。これはコロナ対策による各種支援金により、倒産してもおかしくないゾンビ企業の命脈を永らえさせたからだ。その一方で、休廃業・解散企業は前年より14・6%増えた。コロナ禍で前途に不安を感じ、会社を畳むいい潮時と考えた経営者が多いためで、6割は黒字なのに会社の存続を諦めている。
廃業率の地域差はそれほど大きくないが、開業率は沖縄県を除くと首都圏など大都市圏が上位を占める。つまり、地方では廃業しても、それに代わる新規開業が少ないことを意味している。その結果、企業の休廃業・解散が増えれば増えるほど地方経済は衰退していく。
観光産業の回復はしばらく見込めず
しかも地方にとって産業の大きな柱である観光産業は壊滅的な打撃を受けている。この8月は首都圏の4都道府県や大阪府など6都府県に緊急事態宣言が発出され、夏休みに帰省や旅行などの移動を抑制するよう要請、旅行業者は最大の書き入れ時を失った。第5波が収まっても期待はできない。昨年夏に始まったGoToトラベルは業界にとって干天の慈雨になったが、その後、感染者が急拡大したことでむしろ戦犯扱いとなった。その経験があるため今後は早急にGoToトラベル再開の動きは取りづらい。
これはインバウンドについても同様で、インド発のデルタ株の流行もあり、そう簡単に国際間の人の流れが元に戻るとは思えない。しかもデルタ株に続いてペルー発のラムダ株という変異株も現れている。ワクチンを接種しても変異株に対する有効率は従来株に比べ低いと言われており、そうなると、違う変異株が出るたびに、新たな人流抑制策が取られることになる。
政府が目指したインバウンド4千万人の時代ははるか遠くに逃げていき、同時に観光産業によって地域を盛り上げようという日本中の多くの自治体のもくろみもついえた。
このままコロナ禍が長引けば、地方経済は伸び過ぎたバネのように回復への復元力を失ってしまう危険性がある。
地方創生への新たな視点
テレワーク拡大は地方創生のチャンスか
その一方で「コロナ禍は地方創生にとってチャンス」との見方もある。
ウィズコロナも1年半がたち、新しい生活スタイルも定着し始めた。テレワークもそのひとつで、通勤電車などの人混みや社内での伝染を防ぐことを目的に導入する企業が相次いだ。現在も多くの企業がテレワークを継続しているが、アフターコロナになってもテレワークを続けることを表明しているところも多い。
デジタル化が進んだ現在、通信環境などがきちんと整備されてさえいれば、働く場所は会社である必要はないことを、コロナは証明した。無理して出社する必要がないのなら、居住場所の条件から「通勤時間」がはずれる。この条件さえなければ、自然の多い郊外、あるいは都心からはるかに離れた自分の郷里で暮らしたいと思う人も多いだろう。テレワークはそれを可能にした。
転入と転出が逆転した東京都
事実、昨年4月からの1年間で、都内への転入人口を、都外への転出人口が上回った。これもテレワークが可能になったことで、豊かな住環境を求めた人が多かったためだ。
このようにコロナ禍によって新しい働き方に多くの人が気づいた。またコロナ禍とは直接関係ないが、パソナグループのように、本社機能の一部を淡路島に移転するなど、本社のあり方を見直す企業も出始めた。働く場所が自由であるなら、本社が都心にある必要がないと考えるのは必然だ。
地方経済衰退は人口減少と東京一極集中が原因だ。人口が減ることで市場は縮小し、20代の若手が地元を離れ東京を中心とする都心に転出することで、地方から働き手と活力を奪っていく。一極集中の是正はかねてからの大きな課題で、一時は遷都論や官庁の地方移転が真剣に取りざたされたが、むしろ最近では東京の都市としての国際競争力を向上させるため、今まで以上の集積が必要との考え方が主流となっており、一極集中はむしろ加速、それと反比例するように地方は疲弊していった。
しかし働き方の見直しにより、東京から地方への逆転現象が起きる可能性が出てきた。内閣府が昨年発表したアンケート調査によると東京圏在住者(20~59歳)の49・8%が地方暮らしに関心を持っていること、さらに、若者の方が地方暮らしに関心を持っていることが明らかになった。この調査が行われたのは昨年1~3月のこと。最初の緊急事態宣言発出前で、まだコロナ禍が本格化する前のことだ。ということはコロナ後はその傾向がさらに強まっていることが予想される。
地方創生の鍵は企業誘致から「住みやすさ」へ
地域に若い人が暮らせば、自然と社会は変わっていく。定住者が増え、子どもが生まれれば、新しい文化、新しい産業が生まれる素地が整う。そうなれば集積が集積を呼び、さらに若い人が集まってくる。これまでにも宮崎県日南市油津のように、さびれた商店街をリニューアルして若者を集めIT企業を誘致することで活性化に成功した例があるが、働き方改革の結果、そうした成功例が今後、増える可能性が出てきた。
ただし、日本全体の人口が大幅に減少する中で、すべての地方が活性化することなどありえない。となると、重点地域を定め、その地域に予算を配分することで、地方創生の中核都市を建設することが現実的だ。各都市ごとに地域特性を生かし、人が集まる仕組みをつくることができれば、「活力ある地方都市の建設」はけっして夢物語ではない。
今までの自治体のトップの仕事は工場や企業を誘致することだった。しかしこれからは、移住したくなる住環境をいかに提供できるかが重要になってくる。そうすれば仕事はあとからついてくる。従来とは違う発想が重要になってくる。