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「新型コロナとの戦いは新たなステージに入っている」―高木美智代(衆議院議員)

本インタビューは2021年8月27日に実施されました

「酸素吸入が必要な中等症患者を自宅で診るなんてことはあり得ない。撤回も含めて検討し直していただきたい」。8月4日、衆院厚労委員会で政府に迫ったのは公明党の高木美智代政調会長代理。高木氏は、公明党の中で「厚労政策の第一人者」(党幹部)だ。新型コロナ対策では、既に感染拡大前の昨年初めから党内で対策本部を立ち上げ、その事務局長として政府を動かしてきた。Photo=幸田 森(『経済界』2021年11月号より加筆・転載)

高木美智代氏プロフィール

高木美智代
(たかぎ・みちよ)1952年生まれ。福岡県出身。創価大学文学部卒業。2003年衆議院議員に初当選。現在6期目。経済産業大臣政務官、厚生労働副大臣等を歴任。公明党政調会長代理。厚生労働部会顧問。

新型コロナで露呈した霞ヶ関改革の歪み

―― これまでの新型コロナ対策の問題点はどんなところに?

高木 日本はSARS、MERSを何とか免れてきて、感染症拡大の深刻な影響を受けていませんでした。したがって感染症対策が弱く、諸外国に比べて、国産ワクチンや治療薬の予算がずっと小さく、開発のスタートも遅かった。なおかつ政府に明確な司令塔がなかった。そのため、新型コロナのような緊急性を要するものに耐えられない。そこから出発をしたわけです。特措法も初めて運用してみていろいろな不備が分かった。世界中が手探りで対応する中、わが国はさらに時間がかかってしまいました。

―― ある意味有事であり経験のない事態。手探りになってしまうのは仕方ないと思うが。

高木 厚労省や内閣官房の新型コロナ対策室では大変な状態になっています。昼間は国会答弁に追われ、政策を協議できるのは夕刻から。全国からの問い合わせにも、夜を徹して対応しています。私は身近でハードな仕事ぶりを見ていますが、こうしたところも早く結論を出せない理由です。出向者やOBを呼び戻したりしますが、それでも足りない。霞が関の公務員の人員を削減し続けてきたのもひとつの原因だと思います。

―― これまでの改革や合理化の歪みが新型コロナで露呈している。 

高木 例えば、病院も日本は公立病院が本当に少ない。独立行政法人や公社化していますから。諸外国は国公立の医療機関をキープしていて、指揮命令系統ができている。日本は医療の行革を進めてきた結果、民間医療施設に病床を確保してくださいと言っても、人材不足などで即座に動けません。

―― そんな中で先行してどんな提案をして行ったのか。

高木 公明党では1月には政府よりも早く対策本部を作って、私が事務局長を務めることになりました。そこで私は昨年2月に官邸に専門家会議を設置すべきと提案しました。未曽有のコロナとの戦いで重要なことは、信頼性のある情報発信です。科学的見地に基づいて政策が決定されていることを国民に知っていただき、考え、協力していただくことです。

 そこで、官邸のある方に相談したら、当時の菅官房長官がすぐにやろうと即決されました。公明党が正式に提案したら引き取るという運びになり、2月14日、当時の斉藤鉄夫本部長が正式に提案したその日の夕刻、政府は専門家会議の設置を決定しました。それが今の尾身茂氏の分科会に引き継がれています。

―― 日本の政治には科学の視点が欠けているのではないか。

高木 手探りで状況を切り開かなければならないときに必要なのは科学的データ、エビデンスです。私たちは2009年の東日本大震災で野党を経験しましたが、あの時いかに政権が迷走したか。科学的見地に基づいておらず、専門家の意見もあまり聞いていなかったという印象があります。専門家チームの裏付けがなければ国民は信用しません。政治家と専門家が協力し合いながら、専門家の意見を尊重して、科学的な見地に基づいて政策を判断するやり方が大事ではないでしょうか。

高木美智代

海外ワクチン確保への道はいかに開かれたのか

―― 公明党には全国の地方議員3千人から成る「チーム3000」という情報政策ネットワークがある。新型コロナでの成果は? 

高木 たくさんあります。例えばパルスオキシメーターですが、昨年4月3日、ある青年医師が公明党の地方議員に提案し、すぐに青年局、秋野公造参議院議員、稲津久厚労副大臣(当時)へと伝わりました。3日後の党対策本部会合で、山口那津男代表が現物を紹介して、出席していた厚労省の担当者に対して活用を強く促したのです。その結果、1週間後には事務連絡が発出され、広く配布することが決まりました。

―― 新型コロナを契機に考え直すべき点は。

高木 感染症は、5年に一度は大流行するといわれています。国民の命を守るための国産ワクチンや治療薬の開発についても、予算や人材を政府が後押しして、平時から、日本発の医薬品の研究や製造ラインの確保など、準備しておく必要があります。そのためにも司令塔の確立は急務です。もちろん海外との交渉力も重要です。公明党は海外ワクチンの確保でも動きました。

―― 確かアストラゼネカ?

高木 実は「ワクチン・治療薬開発推進プロジェクトチーム」を最初に作ったのは公明党で、私は座長を務めています。当時、政府はまだ、国産ワクチン開発に主眼を置いており、海外ワクチンの確保に対して本腰を入れていませんでした。でも国産だと開発までどうしても時間がかかる。諸外国では、既にファイザーなど海外ワクチンの争奪戦が始まっていました。

―― 私の取材でも厚労省のワクチン確保は迷走していた。

高木 そのころ、厚労省は海外ワクチン確保に動きたくても動かせる予算がなく、政府の意思決定もなされていませんでした。そこで、秋野参議院議員が国会質問で訴え、稲津副大臣が「予備費の活用も含めて果断に進める」と答弁し、この時から、ワクチン確保の道が開かれました。北海道医療大学・浅香正博学長は、「二人の質疑応答が日本を救った」と述べておられます。

 同時に国産ワクチン開発も後押しをしてきました。日本固有の変異株が発生した場合や輸入が滞る場合への対応、また、財政上の観点からです。しかし、先行するワクチン接種が進む今の状況では、治験に必要な、免疫を持っていない方を数万人規模で集めることは難しく、国産ワクチン開発の壁となっています。そこで、厚労省に対してICMRA(イクムラ・薬事規制当局を集めた国際連携組織)で安全性・有効性を評価する新たな基準を作るべきだと、議論をリードするよう進言しました。その結果、接種後にできる抗体の量を、先行するワクチンと比べる方法で、ほぼ合意ができたと聞いています。来年の国産ワクチンの実用化をめざしています。

―― この1年半以上、国民は相当頑張ってきている。補償にしても制度支援にしても政府がやるべきことはまだたくさんあるはず。

高木 国民の皆様には、言葉では言い尽くせないご協力を頂いており、心から御礼を申し上げます。困っている方、苦しんでいる方に寄り添い、痛みを受け止めて、希望をつくっていくのが政治の役割だと思います。

 一方で、新型コロナは人を分断します。そこで必要なのは「つながる力」「市民力」だと思います。私が親しくしている福岡県・久留米市のある社会福祉法人の理事長は、地域共生社会づくりのトップランナーです。新型コロナに対しても、「いま、わたしたちにできること」と題して、感染した方の体験談に学ぶことや個人・福祉事業者・個人事業者ができる実践のアイデアや工夫などを募集し交換し合っています。まさに地域で、自分たちでやれることをやるという「市民力」です。政治や行政は、こうしたエンパワーメントする活動をしっかり支援して行くことが重要です。

新型コロナで露呈したデジタル化の遅れ

―― デジタル化が進んだ国では給付金の振り込みなどが早かった。

高木 私もずっと関わってきたグリーン化とデジタル化がこれからの経済再生のキーワードですが、今回の新型コロナでは、特にデジタル化の遅れが行政サービスや医療分野においてさまざまな形で露呈しました。みなさまが身近な問題として感じられたのではないでしょうか。

 デジタル化の遅れはマイナンバー制度普及の遅れでもあります。マイナンバーは個人情報保護と関わりますので、法案を通すために、法律で定められた目的以外に他人に提供してはいけないとしてしまったわけです。でも、番号を誰かに見られても個人情報システムまで入れないし、そんなに弱いセキュリティではないんです。極端な話、Tシャツにマイナンバーを書いて歩いても心配ありません。ですから、個人の口座番号をぜひ政府に登録しておいていただきたい。国民のみなさまには、今後、金融機関や確定申告でこの口座番号を登録しますかというチェック項目を作りますので、ぜひチェックを入れていただきたい。災害やなにかあったときの給付金の支給などがスムーズになります。

―― 給付金以外のデジタル化の効用は?

高木 行政のワンストップ・ワンスオンリー化によって、行政手続きが効率化され、引っ越しや申請手続き、死後の事務など、役所の窓口を何日もかけて回る必要がなくなります。死後の事務の手続きは20数項目あるんです。ご高齢でとても対応できないというお声も聞いてきました。既に子育てワンストップサービスは実施され、順次計画的に進めています。 医療・健診情報に関しては被保険者番号にまとめていく仕組みが検討されていますが、マイナンバーでいいのではないかと思います。今回のワクチン接種の接種券番号もマイナンバーで良かったのではないかと。マイナンバーカードさえ提示すれば、予約だけでできるようになるし、行政コストが削減できます。

―― マイナンバーやビッグデータには国民の不安がある。高木さんはどう答えるか。

高木 例えばすべての預金通帳の口座番号をマイナンバーに紐づければ、リアルタイムで個人の所得の増減が分かるので、コロナでどのくらい減収したのか、支援が必要な人を正確に把握できます。申請しなくても必要な人に必要な支援が届く。私はそれを公平公正な行政の実現とずっと言ってきました。こうした将来の姿やメリットをもっと国民の皆様に知っていただき、メリットとデメリットを比べていただくことが必要です。

―― 新型コロナは秋から冬に第6波を予測する専門家もいる。今後の活動は?

高木 公明党はこれまでに既に政府などに対して60回以上の提言をしてきました。しかし、感染力の強いデルタ株が蔓延し、コロナとの戦いは新たなステージに入っています。医療提供体制は、災害級の事態が続いています。助かるべきいのちを守るために、全国3千人の地方議員とのネットワークの総力を挙げて、緊急調査・緊急提言を行うことを決め、政府への緊急要請を重ねています。ワクチン接種の加速化や医療提供体制、特に自宅療養者を支えるための体制整備を急いでいます。

―― ポストコロナ、ウイズコロナの経済対策について。

高木 もちろん社会経済活動も同時に考えなくてはなりません。ワクチン接種が進めば、かつての日常をどこまで取り戻せるのかを示す段階に入りつつあります。特に飲食店、観光関連、交通、イベント産業などに対してバランスよく上昇に転じるよう支援策を作りながら、展望と希望を示すことが重要です。そのための財源を確保したいと思います。

政府は11月には希望者の8割がワクチン接種を終える見通しを示しているが、供給量の不足や異物混入、若い世代が後回しになっている状況などを見ると、果たして予定通りに行くのだろうか。海外に比べて大幅に遅れを取ったワクチン確保だが、高木氏らの活動で「本来は2周遅れだったのが、1週で済んだ」(専門家会議メンバーの1人)という実態もあった。収束が見通せない中で、高木氏には今後も連立与党内で政府に物申す役目を果たしてほしい。(鈴木哲夫)