経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

365日休むことなくドローンでアフリカの病院に血液を届ける「Zipline」

Zipline CEO

新型コロナウイルス感染拡大を機に、人と接する機会を減らせるドローン配送への需要が増えた。高速配送や二酸化炭素排出量の削減に対する需要が高まり、ドローンは物流サービス市場の成長を促進する要因として欠かせないものになっている。

配送用ドローンは、ヘルスケア分野などでも活用されている。現在、医薬品入手が困難な内陸国に、ドローン製造から物流ソフトウェア、発射と着陸システムの設計をすべて自社で行なうことで、医薬品入手が困難な内陸国が抱える課題解決に取り組む企業がある。

アフリカで最先端の医療サービスを行う

Ziplineは、自律走行型電動ドローンを使って、アフリカに輸血用血液パックなどの医療物資をオンデマンドで配送する米国の救命ベンチャーである。

同社の仕組みはこうだ。病院から依頼がくると、倉庫スタッフが血液パックや医薬品を専用のケースに入れ、飛行場に運ぶ。飛行場スタッフが約20kgの飛行型ドローンに受け取ったケースを収納し、スマートフォンで機体のQRコードを読み取り、ドローンと血液の情報を紐づける。

その後、ドローンを発射台に乗せて主翼とバッテリーを取り付け、ルワンダのキガリ国際空港から飛行許可が下りると病院に向けてドローンを発射する。飛行機型のドローンが発射台から飛び立ち、病院の上空に到着すると投下パラシュートによってゆっくりとケースが病院の近くに落ちる。医薬品は2kgまで載せることができる。

病院周辺でパラシュートを使ってケースを落下させるが、耐久性が高いため、地面に落ちた衝撃で血液パックが割れてしまうといったことはない。

Zipline
Ziplineの自律走行型電動ドローン(出典:https://youtu.be/jEbRVNxL44c )

ドローンで血液をたったの15分で病院まで運ぶ

配送対象となっている病院数は現在540ほどあり、365日休むことなく、毎日平均30回ほどドローンを飛ばして血液を運んでいる。

飛行機型で安定したフライトが可能なこともあり、雨風などで配送を休むことはないとのこと。機体トラブルは3カ月に1度程度あり、もし故障した場合には、内蔵のパラシュートを使って機体をできるだけ安全に着陸させるという。

このシステムにより、従来2時間かかっていた病院への血液の配送時間をわずか15分に短縮することに成功した。また、1度のフライトで最大90分ほど飛ぶことができる。同社は現在一国をカバーする規模でドローン物流の商業化に成功しており、すでに評価額が1000億円を超えるユニコーン企業入りも果たしている。

フライト中のルートなどは専用のタブレットから確認することが可能で、最高時速130キロで80キロ先の病院に届ける。また、2021年3月から同社は、ガーナで新型コロナウイルスワクチンをドローンで配送し始めた。セ氏+2~+8度の冷蔵で取り扱い可能なアストラゼネカ製を配送している。

ビジネスモデルはこうだ。病院側がZiplineに対して支払う料金は無料で、ルワンダ政府と包括契約を結んでいるため、配送にともなう費用は保健省が負担する仕組みである。それほど、ルワンダにとってもZiplineは欠かせない存在となっているのだろう。

米国企業がルワンダで医療サービスを行う理由

 ルワンダは主要な道路は整備されているものの、農村部などでは未舗装な道が多く、山や丘が多く高低差も激しいため、そもそも荷物を運ぶこと自体が容易でない。そこで、道路の状態に左右されないドローン配送が重宝されている。

ルワンダはアフリカの中でも特に治安が良く、1年を通して気候も安定している。そのため、タンザニアやウガンダなどの周辺国にビジネス展開する際のハブ拠点としても期待されており、海外企業には積極的に社会実験の場を提供している。ルワンダは内陸国のため輸送費が高いという問題を抱えており、これらを克服するために経済特区の整備やIT産業に力を入れている。

こうした背景もあり、Ziplineはドローンへの厳しい規制を気にせず、事業を展開できるルワンダを選んだ。

また、同社は、日本市場でも戦略業務提携を行っている。今年3月にトヨタと日本市場でのドローン物流サービスの社会実装を目的とした戦略業務提携契約を締結。日本では、物流分野において新たな産業・サービスの創出や生活の利便性向上を目的としたドローンの社会実装が期待されている。ドローンの利活用拡大を図るための環境整備も進んでいる。

トヨタ自動車は、2018年6月にシリーズC資金調達ラウンドにて同社に出資している。トヨタは、同社からの技術提携を受け、日本でのドローン物流サービス事業構築を推進することで、過疎地・離島における物流課題、医療アクセスの格差といった社会課題の解決に貢献し、人々の生活をより快適に豊かにすることを目指す。

Ziplineはこれまでに150万回分以上のワクチンや血液製剤などの重要医薬品を2500以上の医療施設、2500万人以上の人々に届けている。モビリティ分野での技術革新や新ビジネスで新たな「付加価値」の提供を目指す両者の提携により、新たな空のモビリティとして期待されるドローン物流事業がより推進されるだろう。

Ziplineは今日も、ルワンダ各地の病院に血液パックを届けて、国民の命を救っている。