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オーケーがもくろむ関西スーパーのTOBが象徴する流通業界再編

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流通業界に再編の波が押し寄せている。関西進出を狙う首都圏地盤のオーケーが、関西を地盤とする関西スーパーマーケットのTOBに踏み切ろうとしている。だが、それを疎む関西スーパーはH2Oに助けを求めている。その行方はいかに。文=経済ジャーナリスト/小田切隆(『経済界』2021年12月号より加筆・転載)

オーケーの株式取得に反発した関西スーパー

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 関西を地盤とする関西スーパーマーケット(兵庫県伊丹市)をめぐり争奪戦が過熱している。阪急阪神百貨店を展開するエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングとの統合を望む関西スーパーに対し、首都圏地盤のオーケー(横浜市)がTOB(株式公開買い付け)に踏み切ろうとしているのだ。

 今回の争奪戦の発端は、5年前の2016年にある。当時、オーケーが関西スーパー株を買い進め、保有比率が約8%強になったことが明らかになった。反発した関西スーパーは、傘下に中堅食品スーパー2社を持つH2Oに助けを求め、資本提携した。H2Oは約10%の関西スーパー株を持つ筆頭株主となった。

 その後、経営統合をめぐる特段の進展はなかったが、今年6月、水面下で、オーケーが関西スーパーに対し、TOBによる買収を提案。またもや関西スーパーは筆頭株主であるH2Oに〝救済〟を求めた。

 協議の結果、H2Oが関西スーパーを子会社化することで合意。H2Oの関西スーパーへの出資比率を約10%から58%に引き上げ、来年2月、H2O傘下のスーパー2社と経営統合させるとした。

関西スーパーに食指を伸ばしたオーケーの思惑とは

 しかしオーケーはH2Oと関西スーパーの合意内容に反発。関西スーパーが今年10月29日の臨時株主総会で提案するH2O傘下入りの案に反対して否決に持ち込み、関西スーパーの取締役会の賛同を得て、1株2250円(9月29日の終値は1991円)でTOBを行う方針だ。

 この記事を書いている10月初め現在、両者の溝は埋まっていない。

 オーケーは「飯田3兄弟」といわれる有名な経営者兄弟の一人、飯田勧氏が創業者で、現在会長を務めている。勧氏の兄の保氏は、居酒屋チェーン「天狗」を展開するテンアイランドの、弟の亮氏は警備大手セコムの創業者だ。

 オーケーの戦略は「エブリデーロープライス」。これまでのスーパーのように、特売日を設け、その日だけ安く売るのではなく、1年中を通しての低価格を実現し、消費者の支持を得てきた。

 今回、関西スーパーの買収に乗り出したのは、首都圏のスーパーが〝飽和状態〟で、もはや新規出店して成長する余地がないからだ。関西圏で約65店舗を展開する関西スーパーを手に入れ、一気に地盤を拡大したい狙いがあるとみられる。

 もっとも、首都圏でオーケーは有名だが、関西での知名度はあまり高くない。オーケーの名で関西に進出したとしても、消費者の馴染みがないだけに、うまく浸透しない可能性がある。

 オーケーの二宮涼太郎社長はメディアのインタビューで、TOBに成功しても、屋号は変えないとの考えを示した。もちろん関西スーパー側の反発を抑える狙いもあり、店舗の統廃合や従業員らのリストラを行わない考えを示している。

食い違う関西スーパーとオーケーの主張

 ここで改めて両者の主張の違いをみておこう。

 関西スーパーは9月に意見書を出し、これに対してオーケーが質問状を送るなどの動きがあったが、両者の違いは鮮明だ。

 まずは、関西スーパーが9月24日に公表した意見書だ。

 ここでは、H2Oの傘下に入ることがもっとも良いとの考えを示し、統合後の理論株価が、オーケーの提案するTOBの1株当たり2250円を上回るとの試算を公表している。

 具体的には、コンサルティング会社2社の試算を示し、それぞれ2400~3018円、1787~3128円になるとした。根拠として、統合5年目の売上高は4028億円、営業利益は135億円まで高まるとの事業計画の見通しを示した。

 また、低価格戦略をとるオーケーとは商品構成が異なり、仕入れや物流でシナジーが出ないとの考えも示した。さらに関西スーパーのブランド価値が棄損されるともした。

 これに対してオーケーは28日、関西スーパーに質問状を送付したと発表。質問状でオーケーは、理論株価について、関西スーパーと、H2O傘下である阪急オアシス、イズミヤそれぞれの業績によって変わりうると指摘。各スーパーの事業計画を開示することを要求した。事業計画が達成できなかった場合、少数株主がどんなリスクを負うことになるかについても説明を求めた。

 また、関西スーパーが協議に応じようとしないことに関しても、協議すれば友好的な統合を実現できるとの考えを示した。

株主利益を高めるのはどっち?

 次のヤマ場は、10月29日に開かれる関西スーパーの臨時株主総会だ。ここの場でH2Oは、関西スーパーとH2Oを統合させる案を提示する。

 もし出席株主の議決権ベースで3分の2以上の賛同があれば、案は可決される。H2Oは関西スーパーへの出資比率を58%へ引き上げ、関西圏での集中出店戦略を強化する考えだ。新型コロナウイルスの感染拡大で人の流れが抑えられ、百貨店も苦しい。巣ごもり需要の追い風で好調なスーパーを傘下に組み入れられれば、財務基盤を強化できる。

 一方、H2O案への賛成が出席株主の議決権ベースで3分の2に達しなければ、否決される。オーケーは総会でH2O案に反対する考えだ。

 こうなればオーケーはまず、TOB案について、関西スーパーの取締役会の賛同を得る。その上でTOBを実施する考えだ。関西スーパー側の意に反して行う「敵対的TOB」にはしない方針だ。

 〝票〟の行方を握るのは、伊藤忠食品、国分グループ本社など大株主や個人株主。オーケーは株主の取り込み・切り崩しに懸命になっているとみられる。個人株主にとっては、現在の株価より高い1株当たり2250円という価格は魅力的なはずだ。TOBが実施されれば、応じる株主は多いとみられる。

 一方で〝浮動票〟はそれほど多くなく、臨時株主総会でH2O案が否決される可能性は少ないとの分析もある。重要なのは、関西スーパー、オーケーどちらの案が株主の利益を高められるかだ。両者がそれぞれ数字で明確に根拠を示し、株主の納得を得る必要がある。

関西スーパー争奪戦は流通業界再編の象徴

 今回の争奪戦は、既に起き始めている流通業界の再編の波の象徴ともいえる。再編の動きは今後ますます加速する可能性がある。

 イオンは9月1日、傘下のマックスバリュ西日本(広島市)と、愛媛県地盤のスーパー、フジ(松山市)が合併すると発表した。合併は24年3月をめどとする。まずは来年3月1日に共同持ち株会社を作り、イオンの連結子会社とする計画だ。

 イオンには中・四国での営業エリアを拡大する狙いがある。一方、フジの尾崎英雄会長は1日の記者会見で「人口減少が確実に進んでおり、競争は激しさを増している」と危機感を口にした。

 フジは21年2月期の連結決算でも増収となっており、コロナ禍に対応した商品展開で業績は堅調に推移しているという。それでも大手との合併を選んだ背景には、インターネット通販やドラッグストアも台頭しており、今後、競争が激しさを増すとみられるからだ。とくに地方では、人口減少という大きな環境変化を避けることができない。イオンとフジは合併によって、商品調達や物流の効率化、店舗網を活用したデジタル戦略を進めていく考えだ。

流通業界再編の背景にある事情

 関東では9月、埼玉県を地盤とするスーパー、ヤオコーが、千葉県市原市を中心に展開するスーパー、せんどう(同市)との資本業務提携を発表した。提携の理由については、やはり「少子高齢化、Eコマースの脅威など、食品スーパーマーケット業界を取り巻く事業環境がますます厳しくなること」を想定したため、としている。

 このほかにも、スーパーを運営するアークス(札幌市)が今年4月、同業のオータニ(宇都宮市)を完全子会社化した。

 アークスは新型コロナ禍によって「お客さまの購買行動のみならずライフスタイルそのものが変容させられるほどの大きな影響が生じており、今後の経営環境についても見通すことが極めて困難な時代」を迎えるとする。

 足元で起きている流通業界の再編について言えることは、関係する企業の業績の多くが堅調であることだ。新型コロナ禍での巣ごもり需要などを取り込み、しっかり黒字を確保している。

 再編劇でよくあるような、悪い業績の企業を救済する性質のものではない。今後も進む厳しい環境変化を勝ち抜くための、ある意味、前向きな動きといえる。新型コロナの影響の長期化が予想されることなどを考えると、今後も流通業界の再編は進む可能性がありそうだ。