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「一番最初に挑戦するのが120年続く第一生命のDNA」―稲垣精二(第一生命ホールディングス社長)

コロナ禍で生命保険各社は営業戦略の見直しを迫られた。保険外交員と顧客の接点の減少を、デジタルによりカバーしようと各社工夫を凝らしている。第一生命ホールディングスもその1社。だが、稲垣精二社長は「営業手法は変わっても役割は変わらない。変わらないために変えていく」と言う。第一生命は何を変え、何を守ろうとしているのだろうか。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年12月号より加筆・転載)

稲垣精二・第一生命ホールディングス社長プロフィール

稲垣精二・第一生命ホールディングス社長
(いながき・せいじ)1963年生まれ。86年慶應義塾大学経済学部を卒業し第一生命保険(現第一生命ホールディングス)入社。株式会社化推進室長として2010年の株式会社への移行を担当。執行役員、常務執行役員を務め16年6月に取締役就任。同年10月の持ち株会社制移行に伴い第一生命ホールディングス取締役常務執行役員。17年4月に社長に就任。

保険会社の役割は保険を超えた存在

―― 今年度から新しい中期計画が始まりました。

稲垣 「Re-connect 2023」という新中計を進めています。第一生命グループでは「一生涯のパートナー」をミッションとしていますが、それを実感いただくために、「一人ひとりのQOL向上につながる新たな価値を提供しその先のwell-being向上に貢献」することを目指しています。「well-being」は今いろいろなところで使われている言葉ですが、われわれは、「幸せ」と定義しています。では幸せとは何かというと、「地球のしあわせ」「みんなのしあわせ」「地域のしあわせ」の3つにわれわれの活動をカテゴライズしています。

 「地球のしあわせ」なら、お預かりする保険料の運用を脱炭素に向けて活用しようというのもそのひとつです。SDGsの一環として、当社のビルなどで使用する電力は再生可能エネルギーで賄うこともそこに含まれます。また、全国にある各支社が、地域の自治体とコラボレーションして地域の課題に取り組むのが「地域のしあわせ」です。

 一例を挙げれば、東北地方は統計上塩分摂取量が多い傾向にあります。そこで塩分が少なめのレシピを日々の活動を通じてご紹介するなど、地域の中でそこに暮らす人の健康やつながりを演出する。そして「みんなのしあわせ」は、われわれの提供する商品・サービスで、皆さまのセーフティネットになっていくということです。
 来年、第一生命は創業120周年を迎えますが、この3つの幸せを全社運動にして、その記念すべき年に向けて磨き上げていこうと、旗振りをしているところです。

―― 地域や地球にも貢献するというように、保険会社に求められる役割が変わってきたわけですね。

稲垣 一生涯のパートナーとして、万が一の時の経済的なサポートは当然ですが、それだけではなく、お客さまの未来に向けてわれわれがパートナーとしてしっかりと機能していくには保険を超えていかなければならないと考えています。それが「安心の先にある幸せ」です。

 ここ数年の間に、日本人の働き方は大きく変わってきました。人生100年時代では、転職をしたり、定年まで一つの企業で働いた後、学び直して新たな専門性を身に付けてもう一度働くという生き方を選ぶ人も増えてきます。その一方で「老後資金2千万円」に代表されるように老後資産の枯渇問題も出てきています。

 その中でわれわれはお客さま一人一人に合ったライフデザインを描いていく必要があります。備えがあれば人生においてリスクテイクができる。これはとても大切なことだと思います。このような個々の施策をさらに積極的に行っていきます。

若者の保険離れ対策でDeNAとタイアップ

―― 将来、年金もどうなるかは分かりません。ですから若い人ほど資産形成に関心を持たなければならないのに、現実には若者の保険離れが進んでいます。

稲垣 そこは大きな課題だと考えており、新たな取り組みを進めています。この4月にはデジホというデジタル完結型の保険を始めました。これまでもデジタルは活用してきましたが、お客さまと営業員が必ずどこかで接点を持っていました。でもデジホでは、完全にデジタル空間のみで契約まで完結します。そのために第一スマート少額短期保険という子会社もつくりました。まだ契約件数は少ないですが、若い人たちへの保険の入り口を広くすることに真剣に取り組んでいます。

 また、9月にはDeNAさんとタイアップして、まずは20代30代の女性をターゲットにDeNAさんのデジタル空間でのつながりを活用するプロジェクトをスタートしました。コロナ禍により職域訪問ができなくなった代わりに、デジタル空間でつながり、ライフスタイルの提案や、その中で保険の大切さを理解していただく。そのような取り組みを行っています。

受け継がれてきた第一生命のDNA

―― 稲垣さんは就任以来、ずっとデジタルの重要性を指摘していました。コロナによって、世の中が一気にデジタル化に舵を切りました。他社の追い上げは気になりませんか。

稲垣 私が就任当時からデジタルにこだわっていたのはビッグデータを解析することで、魅力ある商品やサービスを開発できると考えたからです。就任2年目の2018年に「健康診断割引」という、健康診断結果をご提出いただくだけで保険料を割り引く商品を発売しましたが、それも社内のビッグデータから、健康診断を毎年受けている方と受けていない方では疾病の発生率が違うなどのことが分かってきたことで、開発することができました。

 また、以前は糖尿病や高血圧などの持病を持っている方からは、持病のない方よりも多めに保険料を頂いたり、保険加入をお断りさせていただくことがありました。しかし、持病の状態が軽度できちんとお医者さんに通っている方はあまり重症化しないこともデータにより分かってきたので、審査の基準を見直し、割増の保険料を頂かないケースや、保険にご加入いただける範囲の拡大等を行いました。

 お客さまにとってダイレクトにメリットがある対応で、現場がものすごく喜んでくれました。他社でも同様の取り組みを行っているとは思いますが、当社としていち早く取り組んだ積み重ねは大きいと思います。

 第一生命の120年間は、その時代ごとに「第一」に新しいことに取り組んできた歴史です。生命保険会社が日本にできた当初は、株式会社ばかりでした。その時代に相互会社にメリットがあると考え、一番最初の相互会社として創業したのが当社でした。その後多くの生命保険会社が相互会社になりました。しかし時代が変わり、海外展開や事業を透明化していくためにも株式会社のほうがメリットがあると判断し、10年に大手と言われる生命保険会社では初めて株式会社化を果たしました。

 そういう一番に新しいことに挑戦するDNAはわれわれの中に脈々と流れています。例えば、当社グループの第一フロンティア生命は貯蓄性商品を銀行や証券で窓販する目的で誕生しましたが、生命保険会社による全額出資の生保子会社の設立は業界初でした。医療保険に特化したネオファースト生命も同様に新しいチャレンジでした。それぞれ苦労しましたが、現在は多くの方にご利用いただいています。こうしたDNAがあるからこそ、デジタル化にも真っ先に取り組めたと思います。

 もちろん挑戦すれば、たくさん失敗もします。でもそこから学ぶものが多くあります。この挑戦と学習を繰り返していくことで、ラーニングカーブ(経験曲線)を指数関数的に伸ばしていけば、他社に先行し続けることができると考えています。

成果につなげるために退路を断って挑戦する

―― 挑戦を続け、成果に結び付けるには何が必要ですか。

稲垣 退路を断つ、というのも方法です。具体的には新しい事業を行う場合、新たに会社を立ち上げるのもそのひとつと言えます。もし、同じ会社の中で新規事業を立ち上げたとしても、大半の新規事業は最初は赤字ですので、利益に結び付きやすい既存の事業が優先されがちです。ですから新規事業にあまり力が入らない。でも別会社にすれば、会社として存続するために必死になるし、ガラス張りでミッションも明確です。これはすごく重要です。

 第一フロンティア生命の場合は、07年に設立したものの、翌年リーマンショックに見舞われました。これにより契約が進まず大きな赤字を出しましたが、その後の一丸となったリバウンドは非常に力強いものがありました。そして、ネオファースト生命、第一スマートと挑戦と学習を繰り返しています。

―― ワクチン接種の効果もあり、ようやくコロナ禍の収束が見えてきました。とはいえ社会がコロナ前の状態になることはあり得ません。ウィズコロナ、アフターコロナ時代の第一生命はどうなっていますか。

稲垣 われわれの仕事のやり方が元に戻るとは思っていません。特に営業の仕方は大きく変わります。今までのように、すべてのお客さまを訪問でご対応することは難しいでしょうから、今後もリモートでの対応は重要だと思います。

 ただその一方で、われわれが提供する価値は変わりません。今年の新契約販売件数は、着実に回復しており、ビフォーコロナの19年度に迫る水準です。今年1月に発売した「総合医療一時金保険」という入院時にまとまった一時金をお支払いする商品が、コロナ時代のニーズにぴったり合ったのも要因の一つです。つまり、お客さまのニーズにあった商品・サービスをご提供できれば、直接はお会いできない環境でもお客さまは評価してくださるわけです。また地域の活動を続けることでお客さまの幸せに何らかの形で貢献していけば、お客さまはそれを見てくださります。

 こうした商品・サービスの提供や地域での活動は永続的なもので、お客さまのライフプランを支援するという、これまでの続けてきた取り組みは、アフターコロナになっても変わりません。その一方で、リモート営業やデジタル化など、方法は変えていく。つまり新しい時代でも変わらない役割を果たすために仕事のやり方を変えていく。コロナはそれを再認識させてくれたと思います。