国内最大の車両台数を擁するタクシー会社の第一交通産業が、同業他社との連携「ナンバーワンタクシーネットワーク」で業界の互助会をつくり上げようとしている。起点となるのは地域を助けたいという思いだ。
日本全国でMaaSを推進
北九州市に本社を置き、グループ会社180社、国内最大の約9千台を擁し、34都道府県でタクシー事業を展開する第一交通産業が国内各地でMaaSに取り組む。
MaaSは、複数の公共交通や移動サービスを最適に組み合わせ、検索、予約、決済等を一括で提供するサービス。同社は2021年10月にJR九州、西日本鉄道との3社間でデジタルを活用したモビリティサービス構築に関する覚書を締結した。トヨタ系のMaaSアプリ「my route」の普及、展開に向けて3社で連携。北九州市でタクシー、列車、路線バスをシームレスにつなぐ利便性の高い交通ネットワークの実現を目指す。
また、同社がタクシーのほか路線バス、観光バス、船舶を運行し、バスターミナルも運営する沖縄県において、22年1月から「my route」を用いたMaaSの社会実装もスタートする。沖縄トヨタグループのOTM、損保ジャパン、NTTドコモ九州の3社と協働し、目的地までの移動をシームレス化させるために各交通を連携させる。第一交通産業の配車アプリ「モタク」も合わせて使えるようにする。
また、同社は各地のグループ会社においてUberやDiDiの配車アプリなどの導入も進めてきた。20年10月には、クラウド型タクシー配車システムベンチャー・電脳交通と資本業務提携し、業界から注目を集めた。三重県のグループ会社などが電脳交通のシステムを導入しており、バージョンアップ等についての提案も受けているという。加えて、これらのアプリを一つの端末で使用する「ワンタブレット化」構想も掲げる。田中亮一郎社長は「地方によってタクシーの運賃も乗客ニーズも違う。その地域にマッチしたアプリを活用したい」と語る。
業界ネットワークを将来は10万台に
ICTによる次世代サービスの試みとともに、田中社長が「われわれの在り方を変える」と肝入りで進めるのが、同業他社と結ぶ業務提携「ナンバーワンタクシーネットワーク」だ。
国内のタクシー営業区域は約630に分かれているが、同社が営業しているのは100ほど。同ネットワークでは、同社が営業していない区域のタクシー会社と積極的に提携することで、区域外のために自社で対応できない顧客からの予約を提携先に振るなどしている。同社は顧客要望に応えることができ、提携先は仕事が入ってくるメリットがある。同ネットワークに参加するには会費はかからず、予約を融通した際の手数料のみ発生する仕組みだ。
もともとは同社が区域外のタクシー会社とのチケット相互利用を目的として16年にスタートしたものだが、以降、提携先が増加。21年3月末時点で452社が参加し全国の営業区域全域をカバー。合計車両台数は同社を含め約3万8千台の規模になる。この規模の大きさが多方面でメリットをもたらしている。
例えば資材の共同購入や燃料調達、車両のリースなどだ。「国内のタクシー会社の9割は30台以下の中小零細。1社1社で行うよりも、ネットワークが窓口になれば交渉力も付き、コストダウンにもなる」。9月にはネットワーク名で運転手の求人サイト「WAY」も新設した。
今後は国内のタクシー車両約20万台の半数に当たる約10万台にまでネットワークを広げる考えで、そのスケールメリットは「タクシーに関わる全ての要素で効果が見込まれる」とする。同社はこれまでM&Aで事業地域を拡大してきたが、同ネットワークによって、自社区域外の地域で営業する同業他社との共存を図る。田中社長は「言わば、互助会をつくり上げたい」と意気込む。
乗り合いタクシー拡大で地域を支援
同社は自治体との連携も積極化している。その象徴が、交通インフラが縮小する過疎地域の住民をサポートしようと力を入れる乗り合いタクシー「おでかけ交通」だ。約20年前から取り組んでおり、今では全国70市町村の約250路線で走らせている。この1年半で約100路線増えた。
地域の同業他社、そして地域自体のサポートにも乗り出す同社。「地域に人がいるから移動が発生してわれわれも仕事が頂ける。だからこそ地域の人の生活を、ひいては地域そのものを助けたいんだ」。その使命感が田中社長を突き動かしている。
会社概要 創業 1960年6月 設立 1964年9月 資本金 20億2,755万円 売上高 787億円(連結) 所在地 福岡県北九州市 従業員数 約1万4,000人 事業内容 タクシー・バス・船舶事業、不動産分譲・賃貸・再生事業ほか https://www.daiichi-koutsu.co.jp/ |