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「両親の言葉で前向きになれた。他人と違うことは誇りです」―馬瓜エブリン (女子バスケットボール日本代表)

ゲストは、2020東京オリンピック女子バスケットボール日本代表選手として銀メダルを獲得した馬瓜エブリンさん。幼少期に自分の生き方を変えた両親の一言、バスケに懸けた青春の日々について語ります。そしてエブリンさん、実は若き社会起業家の顔も持っています。弾ける笑顔で語った夢とは? 聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 撮影=上山太陽

馬瓜エブリン
(まうり・えぶりん)1995年愛知県生まれ。14歳の時に日本国籍を取得。桜花学園高校で高校3冠達成、U-17日本代表として世界選手権ベスト4。2020年東京オリンピック準優勝メンバー。トヨタ自動車アンテロープス所属。

念願の東京五輪で銀メダル 幼少期の悩みを今は強みに

佐藤 東京オリンピック女子バスケットボール日本代表として銀メダル獲得おめでとうございます。テレビでも引っ張りだこですね。

エブリン ありがとうございます。両親の影響で3歳からバスケを続けてきて、オリンピックに出るのが夢だったので、それが実現し銀メダルを獲れてうれしかったです。テレビのお陰で、インスタのフォロワーが何倍にもなりました(笑)。

佐藤 遡ると高校時代に名古屋市の名門の桜花学園で三冠(インターハイ、国体、ウインターカップ)を達成。練習は厳しかったでしょう。

エブリン はい。合宿中に逃げて捕まりましたし(笑)。でもバスケに本気になりました。井上眞一監督から、どんなスーパープレーをしてもどれだけ身体能力が高くても、基礎なしでは通用しないことを叩き込まれました。今これはスポーツ以外のいろいろなところで生きています。

佐藤 よき師に巡り会えたんですね。14歳でU-16日本代表に選ばれた時に日本国籍を取得されたんですね。バスケエリートの人生ですが、幼少期は周りから肌の色などをからかわれたりもしたそうですね。

エブリン はい。私はガーナ生まれの両親の下、日本で生まれ育ちました。心も日本人なのに、なぜ仲間外れにされるんだろうと。両親に悩みを打ち明けると、こう言われたんです。「皆と同じでいいの? 他人と違うことを悲しむのではなく喜びなさい。あなたは自分の魅力に気付いていないけれど、気付けたら本当に楽しい人生を送れるようになるから」と。この言葉をきっかけに人生に前向きになれました。

佐藤 エブリンさんの笑顔は本当に素敵です。自分らしさを魅力として生きてきた証拠ですね。

エブリン ありがとうございます。同じ悩みを持つ子たちにも、私の姿を見て自信を持ってほしいですね。

佐藤 オリンピックの話に戻ると、トヨタ自動車アンテロープスに所属し、今回代表に選ばれた。

エブリン 前回のリオも、その前のロンドンも最終選考で落とされたので、東京は絶対出たいと思い、特にメンタルの強化を図りました。

佐藤 オリンピックには魔物がいると言われますが、実際の雰囲気はいかがでしたか? トム・ホーバス監督は熱血指導ですね(笑)。

エブリン オリンピックの重圧、コロナ禍の隔離は大変でした。トム監督は丁寧な日本語で「何してるんですか!」と叱り付けてくるので怖い!でも最強の監督です。普段違うチームで活動する私たちは、大会期間中しか集まれません。監督から与えられた自分の役割をいかに徹底できるかが勝利につながります。トム監督は「私たちには欧米の強豪チームのようなスーパースターはいない。でも私たちはスーパーチームだ」とよく話していました。個々人がチームのために何ができるかを考え、役割を果たすスーパーチームだから、世界の強豪国にも勝てたんです。

佐藤 選手たちの力を引き出してまとめ上げ、しっかり結果を出す。素晴らしい監督ですね。

エブリン はい。監督から頭ごなしにダメだと言われれば選手もやる気をなくし、頭で考えなくなります。経営も一緒ですよね。会社から与えられた役割の「余白」の中で、社員自ら何ができるのかを考え創造性を発揮するのは楽しい。そういう経営者には社員も付いていきますよね。

ウェブ動画を活用したスポーツ指導事業を開始

佐藤 エブリンさんも2社を起業された経営者ですね。

エブリン 1社目は経営の勉強も兼ねて立ち上げました。洗濯ネットの代わりになる「スリーブバンド」を国内で製造し、ファンディングサービスの「Makuake」で販売し、売れ行きも好調でした。2社目は、動画を使ってスポーツの指導が受けられる「QUICK COACH」事業を始めています。コロナ禍でバスケの練習ができない子どものために、バスケ中の姿を動画で撮り、私がそれを見てアドバイスするという活動を始めたんです。それがクチコミで広がり過ぎたので、ウェブアプリをつくって事業化しました。

QUICK COACH
「QUICK COACH」ウェブサイト

佐藤 オリンピアンが教えてくれるのはぜいたくで子どもも喜びますね。コーチはどう集めるのですか?

エブリン 実はコロナ禍ではコーチ側も直接教える機会がないので収入になりません。さらに、アスリートがセカンドキャリアを考える時に積み上げてきたものを生かせず、転職せざるを得ない人もいます。そこでアスリートにコーチになってもらうことで、この問題解決を図れると考えて事業拡大しています。

佐藤 この事業は1千万円の投資を受けるなどますます勢いに乗っていますね。今後の目標は?
エブリン 現役のうちに「QUICK COACH」のIPOを目指します。ビジネスに本気なアスリートもいることを世の中に示したい。それから、バスケの試合の応援に来てほしい。スポーツの楽しさを広く知ってもらいたいですね。

馬瓜エブリン
「いつも笑顔のエブリンさん。若き起業家としても応援しています」(佐藤)