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具体化した大阪カジノ計画で関西経済復活に高まる期待

カジノを中核とする統合型リゾート(IR)の誕生に向け、大阪府と大阪市が具体的な計画を発表した。誕生すれば年間1兆円以上の経済効果があるといわれており、2025年の大阪・関西万博に続くビッグイベントとして期待が高まっている。文=経済ジャーナリスト/小田切 隆(『経済界』2022年3月号より加筆・転載)

大阪が誘致を進めるIR施設

カジノ含む大阪のIR誘致計画に多数社の出資

 大阪府と市などが昨年12月、IRの「区域整備計画」案を公表した。それによると、運営事業者である米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナル、オリックスの2社のほか、パナソニック、JR西日本など関西企業を中心に20社が少数株主として出資して「大阪IR株式会社」を設立し、2029年秋から冬ごろの開業を目指すという。具体的に参加する企業の名前が確定し、計画が現実味を帯びたため、国からのIR設置の認定を受けやすくなるとの期待が関西経済界で高まっている。

 計画案は、MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスからの共同提案を踏まえて作られた。

 開業後は、年間約5200億円の売り上げを想定。このうち、カジノでの「ゲーミング部門」の売り上げが約4200億円で約8割を占める。それ以外の「ノンゲーミング部門」は約1千億円で、約2割だ。

 大阪府と市は整備計画案をふまえて市民への公聴会を開き、今年2月に府と市の議会でそれぞれ議決した上で、4月までに国へ出す計画となっている。国の認定を受けることができれば、23年春ごろから着工する。IRの事業期間は35年間で、さらに30年の延長が可能とされている。

 会場予定地の人工島、夢洲(大阪市此花区)は総面積約390ヘクタールで、25年に開かれる「大阪・関西万博」の会場にもなっている。IRの予定地は、万博会場とは別の北側約49ヘクタール。大阪市が大阪IR株式会社と定期借地契約を結び、開業後は、年間約25億円の賃料が支払われることになっている。

 大阪IR株式会社に少数株主として参加する20社は以下の各社だ。

 岩谷産業▽大阪ガス▽大林組▽関西電力▽近鉄グループホールディングス▽京阪ホールディングス▽サントリーホールディングス▽JTB▽ダイキン工業▽大成建設▽大和ハウス工業▽竹中工務店▽南海電気鉄道▽NTT西日本▽JR西日本▽日本通運▽パナソニック▽丸一鋼管▽三菱電機▽レンゴー

 多くの地元企業が少数株主として参加する方法は、同じくオリックスが中心となって開発を進めた関西国際空港でもとられたスキームだ。

 夢洲でのIRの初期投資額は1兆800億円と計算されている。このうち約半分に当たる5300億円を企業の出資でまかなうことになっており、さらにこのうち20%の約1千億円を、先に挙げた20社が負担する。80%については、中核株主2社(オリックスとMGM)が出資する。初期投資の残り約5500億円は、三菱UFJ銀行や三井住友銀行からの融資でまかなう予定となっている。

 出資する運営事業者以外の企業20社にとっては、IRの建設や運営などに参加する上で有利な立場にあり、直接的な利益を受けることが期待できる。

 例えば鉄道会社は、会場である夢洲までの鉄道や水上バスの整備・運営といった事業で恩恵を受けることができるだろう。電力会社やガス会社は、会場でのエネルギー使用に関係する事業でメリットを得ることができる。建設会社は、会場や周辺施設を建設することで利益を上げられる。

 さらに、MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスや少数株主20社のみならず、ほかのさまざまな企業が大小の恩恵を受けることになるだろう。出資企業も20社から増える可能性がある。

IRの稼ぎ頭となるカジノ

 案によると、IR施設は具体的に1~6号施設とカジノ施設からなる。国内からの誘客ももちろん目指すが、大きなターゲットと考えているのは、中国をはじめとする海外の富裕層。それが、計画案に並んだ施設の概要を見てもよく分かる。

 「1号施設」は、6千人以上が入ることができる国際会議場施設。「2号施設」は、見本市やフェスティバルなどを開くことができる展示等施設。「3号施設」は、劇場やレストラン、美術館などがある魅力増進施設。「4号施設」はバスターミナル、フェリーターミナルなどの送客施設。「5号施設」は、総客室数2500室に上る宿泊施設。「6号施設」は、世界的なアーティストらがコンサートを開いたり、映画・音楽の授賞式を行ったりすることを想定した「夢洲シアター」(約3500席)などエンターテインメント施設と、飲食・物販・サービス等施設となる。

 そして、IRを最大限特徴づけている「カジノ施設」。

 カジノ施設は6・5万平方メートルで、このうちカジノ行為を行う区域は、IR施設全体の総床面積の3%以内となっている。

 しかし、カジノの収益は初めに説明した通り、売り上げ全体の約8割を占めており、まさしくIRの「稼ぎの柱」といえる。

 「マス」「プレミアム」「VIP」のそれぞれの顧客層の属性と嗜好に合わせたフロア配置を行い、飲食店をあちこちに開設する。ゲームに関しては、国内外の最新の知見や最先端技術などを集めた〝ベストプラクティス〟を実現するとしている。

年間2千万人が利用し1兆円超の経済効果

 さらに期待されるのは、経済波及効果の大きさだ。

 IR区域への来訪者は年約2千万人(国内から約1400万人、国外から約600万人)と見込まれている。経済波及効果は建設時に約1兆5800億円、運営で年約1兆1400億円と予想される。雇用創出効果は建設時に約11・6万人、運営で年約9・3万人だ。

 もっとも、シナリオ通りにIR開業まで行きつくかは予断を許さない。

 開業のハードルとなりうる課題の一つは、夢洲の土壌の問題だ。

 IR予定地の周辺の土壌で汚染が見つかったのは21年1月、大阪市が、交通手段となる大阪メトロの新駅予定地を調べたときのことで、基準値の2~3倍となるヒ素と、1・5倍のフッ素がみつかった。夢洲は人工島で、今の環境基準となる以前に、海底の土で埋め立てたことなどが背景にあるとみられており、IR予定地も汚染された可能性があるという。この処理費は大阪市が算出したところ、約360億円に達するという。

 また、IR予定地の地盤の多くは地震のときに「液状化」する恐れが指摘されており、対策費は約410億円になる。

 土壌の汚染と液状化の対策費用などを合わせた約790億円は、大阪市が負担する予定だ。財源は、借金である市債を発行して賄う。

 これらの対策工事の規模が想定以上に膨らめば、工期も長引くことになる。大阪府市側は「IR開業が1~3年は遅れる可能性もある」としている。

IR施設誘致のライバル和歌山、長崎の現状

 以上見てきたように、大阪のIR誘致計画は、課題を抱えつつも、かなり具体性をもって進みつつある。では、国内のほかの候補地はどうなっているのだろうか。

 和歌山県は昨年6月、カナダに本社を置く「クレアベスト・グループ」を事業者に選び、11月、IR区域整備計画の原案を県議会の特別委員会に示している。計画では、開業予定の27年から6年間で、入場料収入が約600億円、IRを運営する特定目的会社からの納付金が約1100億円に達すると見積もっている。

 しかし、実際に出資する企業や融資する金融機関を選ぶための交渉が遅れており、県議会に示された計画には、具体的な出資企業の名前などは盛り込まれなかった。資金調達のめどがなかなか立たないため、思い通りに誘致の計画が進んでいない状況だ。国への計画提出は今年4月下旬を目指しているが、IR開業の是非を問う住民投票を求める動きもあり、先行きの不透明感は強い。

 一方、同じくIRの誘致を目指している長崎県も、同じような状況だ。

 IRを大型リゾート施設「ハウステンボス」の敷地に整備することを計画している長崎県は12月、事業者の「カジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン」とともに整備計画案を作成。劇場や国際会議場、ホテルなども設置する方針で、総事業費は3500億円、来場者は年間で840万人を見込む。

 しかし、整備計画案には総事業費の詳細な調達方法や出資企業名が記されておらず、期待通りに誘致が進むのか疑問視されている。

 出資企業のめどが立っているという点では、大阪が和歌山、長崎の一歩先を行っているといえる。先ほど述べたような課題を克服し、もくろみ通り計画を進められるのか、注意してみていきたい。