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日本も目を開いて大麻の利活用を -園田 寿

【連載】刑法学者・園田 寿の企業と犯罪 (第7回)

日本では、1980年代からの「ダメ。ゼッタイ。」という違法薬物防止キャンペーンが今も続いています。その強烈な影響もあって、大麻と聞くとマイナスのイメージがあまりにも強すぎますが、世界に目を転じれば、大麻の有害性を科学的に評価し、その高い有用性に着目して、大麻を医療用や産業用に利活用する大きな流れが見られます。今回は大麻の問題について考えていきます。(文=園田 寿)

園田寿氏のプロフィール

 

園田寿
(そのだ・ひさし)1952年生まれ。甲南大学名誉教授、刑法学者、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、被害者のない犯罪などを研究。主著に『情報社会と刑法』(成文堂)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(朝日新書、共著)など。YAHOO!ニュース個人のオーサーとしても活躍中。

世界の大麻についての考えが変わった

 世界的に大麻を医療用や産業用に利活用する大きな流れがある背景の一つに、世界で環境問題が深刻になっていることもあります。

 大麻の二酸化炭素吸収力が一般の樹木の数倍あること、そして大麻繊維が強靱で、ガラス繊維のようにプラスチックの強化剤として使用可能であり、商品化全体を通じての二酸化炭素排出量がガラス繊維の2割程度なのです。これらの点から、大麻繊維を建築素材に利用したり、車体の軽量化という点で自動車メーカーを中心に大麻の利用が高まっています。例えば、BMWやベンツ、アウディが大麻を内装やボディの素材として採用しています。

 現在、医療用や産業用大麻を合法化している国として、カナダ、ブラジル、チリ、メキシコ、イスラエル、タイ、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、クロアチア、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシア、イタリア、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スペイン、スイス、イギリス、デンマーク、ポルトガル、ルクセンブルク、リトアニア、レバノン、パキスタン、ガーナ、ジンバブエ、ザンビアなどがあります。

アメリカの医療用・産業用大麻の動き

 多くの点で日本に影響力があるアメリカですが、そこには次元が異なる連邦法と州法という2階建ての法体系があります。アメリカ全体を規制する連邦法レベルでは、大麻は基本的にヘロインやコカインと同じ扱いになっていますが、州法レベルでは大麻の使用が合法化されているところがかなりあります。2021年10月時点では、50ある州のうち15の州で嗜好用の大麻が合法化されており、医療用・産業用大麻は36の州で認められています。

 そのような中で、連邦法レベルにおける18年の農業法改正は、大きな出来事でした。

 この改正で、大麻に含まれている(陶酔感や多幸感の原因となる)精神活性化合物である「デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール」(THC)の濃度が、乾燥重量ベースで0.3%以下と極めて低い「ヘンプ」と呼ばれる大麻が、規制薬物であるマリファナの定義から除外されたのです(実は、これは日本で昔から「麻」と呼ばれてきた大麻草と同じです)。この方向転換は重大で、これによって大麻を食品やサプリメント、医薬品や化粧品などに使用することが認められました。

 実際、18年6月にFDA(アメリカ食品医薬品局)は、大麻から作られる医薬品であって、重篤なてんかんに劇的な効果をもつ治療薬「エピディオレックス(Epidiolex)」を承認しました。ウォール街のアナリストの分析では、この売り上げは10億ドルを超えるだろうということです。

 バイデン政権は任期中に連邦レベルでの大麻合法化を実現するだろうと言われています。

日本では大麻の研究も栽培も利用も法で制限

 さて、翻ってわが国ではどうでしょう。

 日本では大麻取締法によって、嗜好用はもちろんのこと、大麻の研究も栽培も利用も厳格に制限されています。

 大麻取締法が、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の方針に沿う形で成立したのが終戦直後の1948年。THCが発見されたのが60年代になってからのことですので、法律制定時には精神活性作用の原因物質はまだ分かりませんでした。

 法の規制対象から、「大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品」(第1条)は除かれていますが、これは、日本で古来利用してきた大麻(麻)は経験的に毒性が大変弱く、繊維や食用として重宝されてきたことによります。

 つまり、法の制定時には大麻の有害性に関する議論はほとんどなされておらず、当時のアメリカ国民(政府)が大麻に抱いていた悪いイメージがそのまま日本に移された格好になっています。当時はヘンプを特別扱いするといった考えはなく、したがって日本古来の麻も当然規制対象となっています。あえて言えば、今では品種改良によってTHCをほとんど含まない大麻も開発されていますが、これも許可なく栽培や所持をしていれば法律上は犯罪になります。

 産業用のヘンプ栽培は、政府が認めた一部の業者だけで可能です。茎と種子のみの加工に限定されていて、葉や花穂(かすい)部などは規定の方法で処分することが義務付けられています。

世界に遅れる日本、厚労省の注目すべき動き

 このような中で、21年6月に厚労省から出された「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の報告書が注目されました。医療用大麻の解禁とTHCに着目した規制を打ち出したからです。さらに、大麻栽培者免許の要件緩和も表明されています。すでに国内では、THC含有量が極めて少ない海外産ヘンプから抽出されたCBD製品(オイルやサプリなど)が人気となっていて、国内の市場規模も膨らんでいますが、今後さらに大きくなることでしょう。

 ただ、同報告書は、現在は存在しない「大麻使用罪」を作るべきだとして非合法大麻の厳罰化の方向を打ち出していますし、農林水産省は産業用大麻の流通拡大には消極的だと言われており、市場がどの程度大きくなるのかはまだ不透明です。

 このようにようやく大麻の利活用についての道が開かれようとしているわけですが、世界の流れから見れば、大幅に遅れていることは間違いありません。

 現在、大麻の研究が最も進んでいるのは、イスラエルと中国です。特に中国は大麻に関する特許の半数を所有していると言われています。うかうかすると、日本はこれらの国に莫大なお金を払わなければならないことになります。「ダメ。ゼッタイ。」と言い続けるのではなく、冷静に科学的に大麻の研究が進められることを期待します。