今夏はウナギがよく売れそうだ。ラニーニャ現象で全国的な猛暑が予想されている。夏バテにはウナギがいい。日本人は夏になるとウナギで元気をつけてきた。近年、シラスウナギの不漁などでウナギは高騰を続ける。お安くウナギを味わいたい人に向けて「もどき」商品も増えてきた。今年の丑の日商戦の行方は。文=和田一樹(雑誌『経済界』2022年9月号より)
夏バテにはウナギ今年は土用の丑が2日ある
7世紀から8世紀に編纂された「万葉集」にも、ウナギを詠んだ歌がある。
「石麻呂に吾れもの申す夏痩せによしといふものぞむなぎとり召せ」/大伴家持
夏痩せにはむなぎ(ウナギ)を食べるといいと勧めている歌である。夏にウナギを食べ栄養を補給することは、昔から日本人が持っていた知恵なのかもしれない。
夏バテ予防のウナギをいつ食べるのかと言えば、「土用の丑の日」という人が多いだろう。土用とは、四季の四立(立春、立夏、立秋、立冬)の直前の約18日間を指す。五行思想に基づく考え方で、季節の変わり目を意味する雑節にあたる。この四立前の約18日間の中で、暦を十二支で数えた時に丑にあたる日が、土用の丑の日となる。
今年は、夏の土用の丑の日が2日ある。一の丑が7月23日。二の丑が8月4日。ウナギ商戦にとっては、第2回戦がある。これも今年のウナギがよく売れそうな理由のひとつだ。
イオンは、7月1日から「イオン」、「イオンスタイル」の約350店舗とネットスーパーで土用の丑の日商戦を展開している。6月に行った「イオンリテール土用の丑の日2022」において、イオンリテールの松本金蔵水産部長は、今年のウナギ需要に大きな自信を見せた。
「最大のポイントは、昨年の土用の丑の日は平日だったが今年は土曜日であること。加えてラニーニャ現象で暑い夏が予想される。さらに二の丑もある。販売機会は昨年にも増して拡大すると見込んでいる」。今年のウナギ需要に応えるために、イオンは鹿児島県産ウナギ蒲焼き特大サイズを過去最高の5万尾用意して臨む。
ただ、需要増の一方で全国的な品薄も懸念されている。水産庁によれば、21年11月から22年3月末までの日本国内における養殖池への稚魚の投入は前年同時期に比べ18%少ない13・8トンであった。
市場で取引される成魚の価格は、昨年と比べて3割程値上がりしているところもあるといい、東京都杉並区の老舗ウナギ料理店の店主は、「丑の日が2日あるのはうれしいことだけど、仕入れ値が上がっているから商売としては厳しい」と語る。
ウナギの高騰は今年に限った話ではなく、近年毎年のように話題になってきた。背景にあるのは、ウナギの稚魚であるシラスウナギの不漁である。水産庁の調べによれば、シラスウナギの採魚量は、1963年には232トンを記録していた。しかし、2017年には15・5トン、18年には8・9トンにまで落ち込んでいる。19年はさらに厳しくわずか3・7トンで過去最悪を更新してしまった。これは1963年の1・6%にすぎない。
ウナギの価格高騰を受けて、自分で食べるもの以外に、贈答用としての需要も増しつつある。このため、百貨店では贈答用のウナギ商品を充実させている。例えば、京王百貨店は丑の日商戦にあたって「夏の贅沢、うなぎを堪能。」という、ウナギ専門特集を企画した。
贈答用ニーズとしては、既に6月23日の父の日ギフトとしても、ウナギ商品は人気を博していた。昨年も父の日ギフトでウナギは人気商品であったため、三越伊勢丹は今年の父の日向け商品でウナギの品ぞろえを強化。オンラインショップでは前年よりも8種類多い19種類を用意した。また、あるインターネット通販サイトの父の日ギフトでは、売り上げ上位5品のうち、4商品をウナギ関連商品が占めた。コロナ禍による生活様式の変化で、これまで定番だったネクタイやハンカチなどの衣料品の人気が落ち着き、価格が高騰してより贅沢な食材になったウナギが選ばれるようになったようだ。
ほぼウナギ!もどき商品のクオリティが高い
夏バテ予防にウナギを食べたい。けれど、相次ぐ日用品や食品の値上げで家計は厳しい。仕方なく今年は我慢しようかと悩んでいる人におすすめなのが、「ウナギもどき」商品だ。近年、カニの代替商品であるカニカマが世界でも人気となり、需要が増して話題になったように、代替品といえども侮るなかれ、食べてみると意外とおいしい。
例えば、カニやホタテの代替食品を発売し人気となっているカネテツデリカフーズの「ほぼ〇〇シリーズ」。このシリーズの「ほぼウナギ」はウナギ代替商品ファンからも人気で、売り切れになることもしばしば。魚肉やヤマイモのペーストを主な原材料としており、冷凍保存して販売されている。電子レンジで約5分加熱すれば、いつでもウナギを味わえる。
あるいは、カニカマを生み出したメーカー・スギヨの「うな蒲ちゃん」も人気だ。魚肉をベースとしたウナギ風のかまぼこで、こちらも冷凍販売。電子レンジで約2分40秒加熱すれば完成する。
前述したイオンも、ウナギの代替商品に力を入れている。イオンはこれまでも、「パンガシウス」という白身魚を使ったかば焼きや、サバ、サケをつかったかば焼きなどを発売してきた。今年の代替商品は、「アイスランド産子持ち からふとししゃも」を原料としたフライを甘辛のたれで味付けしかば焼き風風に仕上げたカツである。原料は持続可能な漁業で獲られた水産物の証しであるMSC認証を取得しており、水産資源の持続可能性にも配慮した商品となっている。
ユニークなところでは、ミツカンが今年の7月1日から8月末頃までの期間限定で、「金のつぶ うな重納豆」を発売する。これは、ご飯にかけるとまるでうな重のような味わいが楽しめるという納豆である。ミツカンによると、うな重のような味がする驚きと、ご飯によく合うおいしさで、「いつもよりちょっとだけワクワクする夕食が楽しめる」。ウナギの代替食品とは言えないが、それでもウナギ気分を味わえる商品なのは間違いない。
これだけ多様なウナギ味の商品が登場するのは、それだけウナギの食文化が愛され、好まれてきた証しであろう。暑い夏ほど、ウナギがうまい。猛暑が続き、節電要請にも応えなければならない今年こそ、ウナギを食べて乗り切りたい。