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ハイブリッドペイメント社員証で分散型社会の実現を目指す Kort Valuta 柴田秀樹

Kort Valuta Founder/CEO 柴田秀樹

各種支払いや給与振込、投資、福利厚生の利用・決済といった機能を持つ、日本初のハイブリッドペイメント社員証 「TwooCa(ツウカ)」 を開発したKort Valuta(コートヴァリュタ)。決済機能と心拍数、睡眠、体温などのヘルスケアデータの取得が同時にできるスマートリングも開発中で、革新的なサービスを次々と生み出している。文=垣内栄 写真=西畑孝則(雑誌『経済界』2022年12月号より)

Kort Valuta Founder/CEO 柴田秀樹
Kort Valuta Founder/CEO 柴田秀樹 しばた・ひでき

「TwooCa」の実証計画で国の規制見直しに拍車

 デジタル社員証×福利厚生サービス×Visaプリペイドカード機能が一体化したアプリ「TwooCa」を昨年リリースしたKort Valuta。社名はスウェーデン語で、「カードの価値(Card Value)」を意味する。

 TwooCaを使うと、スマホで社員証を提示でき、導入企業が従業員に福利厚生ポイントを付与したり、Visa プリペイドカードで国内外のオンラインショッピングも可能。

世界最速のプロセッシング技術やブロックチェーンによるプラットフォーム開発などの技術により、わずか3秒間でのストレスフリー決済も日本国内で今後可能になる。

 さらに今年8月には、「新技術等実証制度」(規制のサンドボックス制度)に基づく新技術等実証計画の認定を受け、アプリの普及へと追い風が吹いている。

 規制のサンドボックス制度では、参加者や期間を限定することで、既存の規制の適用を受けることなく、新しい技術の実証を行うことができる。労働者へのデジタルポイント付与の実証計画を国が認定するのは、今回が初めてだという。

 「TwooCaを使っていただくと、福利厚生の実施に伴う事務的コストや手数料負担が少なくなるというメリットがあります。また、企業が従業員の決済データを活用することで、従業員の生活の質の向上への働きかけもしやすくなるでしょう。間もなく解禁される給与のデジタル払いにも活用できるサービスです」と柴田氏は語る。

 これまで給与は銀行口座に振り込まれるものだったが、キャッシュレス決済の普及により、デジタル払いが議論されるようになった。

 Kort Valutaの設立時から、給与のデジタル払いのシステムを推進してきた柴田氏。創業から8年経ち、ようやく時代が追い付いてきた形だ。

自分たちの価値を守る搾取されない分散型の社会へ

 柴田氏は、米国に渡り、仮想通貨Rippleの開発に携わったメンバーだ。日米フィンテック分野の第一人者としても知られる。

 その頃から目指しているのは、中央集権型の社会ではなく、分散型の社会だという。

 「Rippleでやりたかったのは、仮想通貨でやりとりできる小さな社会をたくさんつくって、社会を変えていくことでした。世界の富は3%の人に集中し、あとの97%の人は搾取され続けています。一生懸命努力したけど報われないという世界を減らすために、コインという暗号通貨で価値を交換する社会をつくると、働き方も変わって、豊かで幸せな生活ができると考えたのです。しかし、仮想通貨を金儲けの手段としてのみ考える人が増えたので、私はRippleを離れることになりました」

 Kort Valutaで開発したTwooCaも、企業のコスト削減や従業員の利便性を追求しているだけではない。

 「社員証のIDとフィンテックという『ID TECH』という新市場で、一生懸命働いている人に付加価値をつけたいという思いがあります。大手企業でなくても社割が受けられるなど、導入していただくと、従業員にベネフィットを出せます。また、個人がお金をコントロールしやすくなり、お金との付き合い方、向き合い方を整えるという作用も期待できます」

決済機能とヘルスケア機能を備えるスマートリングも登場

KortVal2

 年末には決済機能とヘルスケア機能を併せ持つスマートリング「TwooCa Ring:T-Ring(仮称)」の提供も予定している。

 決済だけでなく、心拍数、活動状況(消費カロリー、歩数など)、睡眠、体温データ計測の機能で、健康管理も行うことができるウエアラブルデバイスだ。

 「健康は全ての基本であり、リング一つで企業は従業員の健康管理を行うことが可能になります。リングには国際ブランド認定チップを実装予定で、日本のみならず世界中のお店で利用が可能になるでしょう。

またリングを付けているだけでお得に買い物ができる、保険加入に有利になる、銀行での借り入れが優遇されるなど、これまでにない革新的なサービスの提供を目指しています」

 今後、国の規制が見直されれば、「ID TECH」による決済サービスの可能性は無限に広がる。

 「フィンテックは、詰まるところ人の価値と価値の交換をどのようにするのかを考えていくことが本質です。働き方が大きく変わっていく時代に、われわれの決済サービスでお力添えできることがたくさんあると思います。志が同じベンチャー企業とも組んで、新しいサービスを生み出していきたいです」 

会社概要
設  立 2014年8月
資 本 金 11億4,500万円(資本準備金等含む)
本  社 東京都目黒区
従業員数 13人
事業内容 各種カードの発行、企画、管理、運営
https://kortvaluta.com/