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宇宙の視点を入れた戦略でビジネスの可能性を拡大する デジタルブラスト 堀口真吾

デジタルブラスト 堀口真吾

多くの企業にとって、ビジネスを行う上で「宇宙」を意識するシーンはほとんどない。しかし一見関係ないような領域でも、宇宙の視点を導入することで既存事業に役立てたり新規事業を興したりできる可能性が高まっている。日本で唯一の宇宙ビジネス×デジタルコンサルベンチャーを標榜するデジタルブラストとはどんな会社なのか。文=吉田浩 写真=西畑孝則(雑誌『経済界』2022年12月号より)

デジタルブラスト 堀口真吾
デジタルブラスト 代表取締役CEO 堀口真吾 ほりぐち・しんご

宇宙ビジネスへの参入は既存事業の延長線上にある

 「宇宙ビジネス」と聞くと、ロケットを打ち上げる、あるいはそれに必要な機材を製造するといった話を想起するかもしれない。参入には莫大な資金が必要で、国益や科学的意義が重視されるイメージだ。だが、堀口真吾氏はこんなふうに語る。

 「宇宙ビジネスの敷居はそれほど高くなく、各産業が地球でやっていたことの延長線上にあると捉えています。無重力だったり放射線があったりと条件は地球と異なりますが、基本的には既存ビジネスの延長線に宇宙があるということをお客さまには伝えています」

 2030年以降には、国際宇宙ステーション(ISS)が商業ステーションとして民営化されるなど、宇宙ビジネスに参画できる環境がますます整っていく。ただ、具体的にどう事業に活用できるのか分からない。そのような顧客企業に対して、さまざまな提案を行えるのがデジタルブラストの強みだ。

 実際に、宇宙の要素を絡めて提案できる領域は広がっているという。例えば、農業分野だ。広域農場において害虫の発生をいち早く把握し、大きな被害が発生するのを防ぐために宇宙からの衛星データが活用できる。

 また、土地価格の算定基準が曖昧な発展途上国においては、人の動きや災害発生状況などを衛星で把握し、それらのデータをもとに不動産価値を算出、金融商品に応用するといった展開も可能だ。災害時における保険会社のオペレーションに役立てることもできるだろう。

 現在、デジタルブラストがコンサルティングを手掛ける顧客の多くは、DX化などデジタル領域の課題解決を主な関心事としている。特に宇宙を意識していないこうした顧客に対しても宇宙の視点を掛け合わせて、新たな可能性を提示していると堀口氏は話す。

 「新規事業を起こすにしても、デジタル化だけでやれることには限界があります。そこで宇宙の視点を加え、これまで見てこなかったデータを組み込むことで新たな発想が生まれてきます」

重力発生装置「AMAZ」
重力発生装置「AMAZ」

 手掛ける範囲はコンサルティングに留まらない。24年にISSへの設置を目指して、多様な重力環境を再現できる重力発生装置「AMAZ(アマツ)」を自社開発。企業や研究機関向けの実験装置として提供を始めた。

 直近の事例としては、今年7月にクラフトビールの醸造を行っているシクロ社と業務提携し、さまざまな重力環境下でビール酵母の比較培養実験を、ISSにて実施すると発表した。

 「AMAZは、将来宇宙に人が住めるようになるためのファーストステップとして開発しました。JAXA(宇宙航空研究機構)の方々などとディスカッションする中で、月面と同じ地球の6分の1の重力の中で植物がどう成長し、遺伝子がどのような働きをするかなどをモニタリングしていきます。植物は重力に遺伝子が反応して成長するのですが、その遺伝子が特定できれば植物の成長をコントロールできるようになります」と堀口氏は説明する。

ビジネスとの接点を増やし宇宙をもっと身近に

 堀口氏はもともと野村総合研究所でシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。その後転職した日本総合研究所やコンサルティング会社で、衛星データを活用した新ビジネスのリサーチなどを手掛けたのが宇宙に関わるきっかけとなった。

 ITやデジタル領域のエキスパートでもある堀口氏が宇宙の可能性に期待する理由の一つは、コンテンツとしての魅力だ。多くの人々にとって宇宙は未知の領域であると同時に、関心度も高い。

 「SpaceLINK(スペースリンク)」という宇宙に関わるビジネスやキャリアの交流を目的とした総合宇宙イベントを今年8月に開催したところ、短期間の募集だったにも関わらず、700人もの申し込みがあったという。

 今後は、例えばNFT(非代替性トークン)技術によって衛星データの信頼性を保証し、企業だけでなく優秀な個人もデータを分析、編集できるような世界の構築を視野に入れている。

 衛星データの流動性が高まれば、既存ビジネスの補完だけでなく、新たなビジネスが生まれる可能性も高まる。一般の人々にとっても宇宙がもっと身近なものとなるだろう。

 「当社にはコンサルタント、ITエンジニア、メディア制作など、専門性を持ったさまざまな人材がいますが、『宇宙に価値を』というミッションを実現するために、社員が流動的に動ける組織を目指していきます」と堀口氏は力を込める。 

会社概要
設  立 2018年12月
資 本 金 4億849万5,046円(資本準備金含む)
売 上 高 3億2,600万円
本  社 東京都千代田区
従業員数 76人
事業内容 宇宙ビジネス開発の戦略構築、実行に関するコンサルティング、宇宙情報の発信等
https://digitalblast.co.jp/