経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

社員教育とイノベーションで守るリーディングカンパニーの座 三宅 卓 日本M&Aセンターホールディングス

M&A 三宅卓 日本M&Aセンター

1991年の設立以来、日本の中小企業のM&A仲介をリードしてきた日本M&Aセンター。成約件数は年間約1千件と他を圧倒するだけでなく、成立後のサポートなどM&Aに関するすべてのサービスを提供する。しかし後続も追い上げる。その中にあっていかにしてリーディングカンパニーであり続けるのか。三宅卓社長に聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年4月号より)

三宅 卓・日本M&Aセンターホールディングス社長のプロフィール

M&A 三宅卓 日本M&Aセンター
三宅 卓 日本M&Aセンターホールディングス社長
日本M&Aセンター社長
みやけ・すぐる 1952年神戸市生まれ。大阪工業大学を卒業し77年日本オリベッティ入社。会計事務所へのプロジェクトや金融機関に「融資支援」や「国際業務」のシステムの企画・販売を担当。91年オリベッティ時代の上司だった分林保弘氏(現会長)とともに日本M&Aセンターを設立、取締役、常務、専務、副社長を経て2008年社長に就任した。昨年持ち株会社日本M&Aセンターホールディングスを設立、両社の社長を兼務する。

コロナ禍で進んだイノベーション

―― コロナ前とコロナ後でM&Aを巡る環境に変化はありましたか。

三宅 本当に先行きの見えない3年間でした。特に中小企業経営者にとっては、お客さんが来なくなる、注文が途絶える、社員が感染するなど、経営を継続することが困難で、高齢の経営者の中には心が折れてしまった方も多かったようです。その一方で、これをチャンスと捉え、さらなる成長を目指そうと考えた経営者も多くいらっしゃいます。今まで1本足経営だったから、2本足、3本足にしていこう。例えば今までリアル飲食店だけで営業していたものを、宅配をやろうとかEコマースで全国に販売するといったケースです。そこでM&Aを活用する。

 一方、われわれはイノベーションが大きく進みました。コロナ初期には、東京からは来ないでくれという地方の方が数多くいらっしゃいました。そこでわれわれは全国にサテライトオフィスをつくり、そこから人を送りこみ、公認会計士や弁護士など専門職の方にはウェブで参加していただく。こうしたハイブリッド面談を導入したことでものすごく生産性も質も上がりました。ハイブリッド面談は今も続けています。

―― 日常生活が戻ったことで、M&A市場はどう推移していきますか。

三宅 中小企業の後継者不足という基調はコロナ前もコロナ後も変わらず、127万社が廃業予備軍と言われています。そのうち60万社は黒字なのに、このままでは廃業するしかない。それに加え、コロナでゼロゼロ融資などを受けた企業は、これから返済時期を迎えます。コロナが収束して売り上げが元に戻ると思っていたのにそうなっていない会社も多くあります。そんな新しい悩みを抱えている方も増えているので、これからの2、3年はさらにM&Aのニーズが高まると見ています。

―― 日本の中小企業のM&A市場は日本M&Aセンターが開拓してきました。その根底には、後継者不足に悩む会社をM&Aによって救いたいという三宅さんや分林(保弘)会長の思いがありました。しかしそれによって市場ができると、その成長性を見込んで新規参入が相次ぎました。その中には理念も何もない業者もあります。その状況をパイオニアとしてどう見ていますか。

三宅 2つの点で良いことだと思っています。ひとつは、われわれがどんなに頑張ったところで、60万社すべてを救うことはできません。むしろいろんな企業が参入してきて、インターネットマッチングをやったり、ITを最大限活用するなど、さまざまな方法でアプローチすることで、1社でも多くの会社が救われるなら、それは素晴らしいことです。

 2つ目は、そういう競争があるからこそ、われわれのレベルも上がり、業界全体のレベルも上がります。競争があるから、必死に努力するし、イノベーションも起きてくる。創業してから20年間は、中小企業のM&Aは当社の独占状態でした。その20年間のわれわれの進化と、競合が出てきたこの10年間の進化を比べれば、ここ10年の進化の方がはるかに大きいと思います。後発はわれわれに追いつけ追い越せと努力する。われわれも負けないようさらに前進していく。それが業界の大きなレベルアップにつながり、救える会社も増えていく。ですから競争環境の激化を歓迎しています。

ネットワークがあるからできるベストのマッチング

―― 優位性を保つには何が必要ですか。

三宅 教育とDXの2つだと思います。60万社を救うには、やはり規模を大きくしなければなりません。そのために新しい人を採用し育てていく。彼らや彼女らの成長がなければ、会社の成長もないし、本人たちも人生を無駄にしてしまう。そこで教育にはものすごく力を入れています。具体的には3年未満、3~6年未満というレイヤーごとに研修プログラムを策定し、体系的に教育を行っています。

 DXは、プレデューデリジェンスなどにおいても活用しています。当社は仲介をするにあたり着手金を頂いています。それはよりよいM&Aのためには必要だからです。売却先を探すにしても、相手のことをできるかぎり調べてマッチングする。この時の企業評価やマッチングそのものにもAIを活用しています。

 さらに今進めているのは、譲渡企業の社長さんの言語解析です。会社を手放す経営者は、複雑な思いを持っています。当社のコンサルタントが面談しても本音で話すとは限りません。特に人生経験の少ない若手のコンサルタントの場合、年配の経営者は心を開きにくい。そこで言語解析して、経営者の価値観や生き様を洗い出していく。それによって経営者が一番大切にしていることが分かれば、最適の相手とマッチングすることも可能となると考え、現在、テストしているところです。

 こうした教育とDXで、M&Aの品質を高めると同時に生産性も上げていこうと考えています。

―― 30年前の企業経営者は、自分の会社を売ることを恥と考えていました。そのため売り情報が全く入ってこなかった。そこで日本M&Aセンターでは経営者の相談相手である全国の会計事務所や地方の金融機関をネットワーク化し、売り情報を集め、マッチングするシステムをつくり上げました。ところがM&Aが一般化したことで、電話などでも売り手を見つけることが可能になりました。そうなると築き上げたネットワークは、紹介料が発生するなどコスト要因になりませんか。

三宅 全くありません。というのも、ネットワークを通じて入ってくる案件というのは成約率が極めて高い。経営者は会計事務所や金融機関と長年付き合っています。彼らに会社の悩みを相談し、その解決法としてM&Aを選択する。ですから相談の過程で、会社を譲渡しようという経営者の気持ちが固まっていきます。また、会計事務所や金融機関は、その会社のいいところ、悪いところ、企業文化に至るまで知り尽くしています。それをわれわれは教えてもらい、そのうえマッチングをするので、ベストの買い手を見つけることができるわけです。

 売り手にとって一番不幸なのは、依頼をしたのに成約できなかったというケースです。会社を売るにはいろんな理由があります。悩み抜いて最後の選択肢として会社を手放す人もいれば、病気のため経営を続けられなくなる人もいます。その人たちにとってM&Aは希望です。それなのに成約できなければ、希望は絶望に変わります。ですから成約率を上げることが私たちにとって最も大切なことだと考えています。その点、ネットワークから入ってくる案件は、先ほど言ったように、非常に成約率が高い。これはわれわれにとっても大きなメリットです。