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設立3年9カ月で上場したM&A仲介のニューウェーブ 佐上峻作 M&A総合研究所

M&A 佐上峻作 M&A総合研究所

昨年6月に上場したM&A総合研究所が誕生したのは2018年。創業者で社長を務める佐上峻作氏は1991年生まれの現在31歳。同社の最大の特徴は、エンジニア出身の佐上社長のもと、徹底的にITを活用していることに加え、徹底した無駄の排除で高い生産性を誇っていることだ。M&A仲介に新しい風が吹いてきた。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2023年4月号より)

佐上峻作・M&A総合研究所社長のプロフィール

M&A 佐上峻作 M&A総合研究所
佐上峻作 M&A総合研究所社長
さがみ・しゅんさく 1991年生まれ。2013年神戸大学卒業後、サイバーエージェント傘下のマイクロアドで広告配信のアルゴリズム設計に従事し、15年にEC・メディア事業を行うメディコマを創業。17年に同社をベクトルに売却後、子会社社長に就任してから十数回の企業・事業買収と売却を実施。18年にM&A総合研究所を設立した。

仲介会社を利用した経験をもとに起業

―― M&A総合研究所は昨年6月、創業3年9カ月で上場を果たしました。この間、コロナ禍もありましたが、影響はありませんでしたか。

佐上 コロナ初年度、20年3~5月はかなり厳しいものがありました。われわれの営業活動は、経営者にお会いするところから始まります。ところがそれが全くできなくなりました。また譲受企業様にしても、買うべきかどうかの判断がすべて止まってしまいました。それでも、6~7月から少しずつ良くなって、10月にはコロナ前の85%程度まで回復し、それから1年かけて100%に戻ったという感じです。ただ上場に関してはコロナの影響は感じていません。会社設立から最速で上場できたと思います。

―― 上場によって何か変わりましたか。

佐上 やはり信頼度が上がったことがひとつ。それと急速に株価が伸びたので(上場初値が2510円、1月31日終値は1万340円)、お客さまからも「株価すごいね」と言っていただくなど、注目されることが多くなりました。

―― M&Aには事業承継型や成長型などがありますが、M&A総合研究所の案件はどのようなものが多いですか。

佐上 事業承継型が8割です。でも最近、50代の経営者が売却する事例が増えています。推測ですが、これにはコロナの影響もあると思っています。世の中何が起きるか分からない、不測の事態が起きうることを知って、事業継続のために大手の傘下に入って安心したいのだと思います。僕自身、以前自分が立ち上げた会社を売った経験があるので分かるのですが、自力で会社を成長させるには限界もあるし、経営者としてのリスクも背負わなければならない。それよりも売却し資本と経営を分離したほうが、むしろ会社を自由に経営できると考える人が増えているのかもしれません。

―― 佐上さんは、設立した会社をベクトルに売却、その後、ベクトルでM&Aを繰り返したのち、M&A仲介会社を立ち上げています。自ら売買した経験は、今にどうつながっていますか。

佐上 M&Aをするにあたっては、仲介会社も利用しましたが、料金体系も含め、理不尽と思うことがいくつもありました。そこを改善すれば、生産性の高いM&A仲介ができると考え、起業を決意しました。

 その上で当社の特徴を3つ挙げれば、まず第1に譲渡企業様に対しては完全報酬制の料金体系です。仲介会社の多くは、着手金を受け取ったり、譲渡企業様と譲受企業様が基本合意した段階で中間報酬を請求します。その点当社は、M&Aが完全に成立するまで、お金は一切頂きません。このような上場仲介会社は当社だけです。僕も以前、仲介会社を使っていた時、着手金などを支払ったことがあります。でも何のために払うのかよく分からなかった。そこで起業した時から、一切受け取らないことを決めていました。第2に、成約期間の短さです。通常、9カ月から12カ月程度かかると言われていますが、われわれの平均は6・6カ月です。そして3番目はマッチングの強さです。これは国内最高レベルに強いと自負しています。

高い生産性の実現はエンジニア出身ならでは

―― 着手金、中間金の排除は自分たちで決めることができますが、残り2つはそうではありません。どんなやり方をしているのですか。

佐上 すべて自社開発している独自のテクノロジーを活用しているのがわれわれの最大の強みであり、他のM&A仲介会社と比べて圧倒的に効率化されていることが大きく異なる点です。マッチングではビッグデータとAIを活用することで、人間には考えつかない組み合わせが可能になるとともにスピードもアップしました。その分社員には、人間でなければできない仕事をやってもらっています。

―― そのためにキーエンスの社員を大量に採用しているだけでなく、キーエンス的な手法を取り入れているようですね。

佐上 営業電話の本数や人との接触回数、アポイントからの契約率など、社員の行動やパフォーマンスを可視化し、データ管理しています。それと無駄は徹底的に排除します。例えば、他の仲介会社では、譲受企業様の担当者が自分の担当企業に通い飲食を含むコミュニケーションを取って仲良くなる、ということも多いようですが、何億円もの買い物を決断する時には、仲がいいかどうかは関係なく、買いたい会社かどうかがすべてです。ですから深いコミュニケーションは不要です。その分、他社では1人当たりせいぜい数十社の担当なのに対し、当社では3千社を担当します。その一方でDMの発送などの単純作業などでは、省力化できるところを徹底的に省力化しています。また他社ではマッチングの社員でも電話営業するケースが多いですが、当社の社員はマッチングだけをやるから効率がとても良い。

 ですから社員の勤務時間は他社より全然短いと思います。先日も午後9時半には誰も社内に残っていませんでした。それでいて給料は他社並みですから、採用に対して多くの人が応募してくれるし、退社率も低い。昨年の上場時には82人だった社員数が昨年末には128人。今後もどんどん増やしていきます。

―― それだけ生産性が高いのなら、他社も追随しそうです。

佐上 それは難しいと思います。われわれのシステムは全部自社製です。それが可能なのは僕自身がエンジニアだからです。ですからエンジニアがどのようなモチベーションで仕事をしているかも分かるし、技術についてもどういう仕組みでどう構築されているか理解できます。複雑なロジックで開発難易度が高いシステムが随所に散りばめられており、これはまねしようと思ってもできることではありません。

―― 佐上さんの話を聞いていると、M&A仲介も新しい時代を迎えつつあることが分かります。

佐上 僕がやりたいのは、社会貢献をテクノロジーによってレバレッジをかけるということです。日本の国力を低下させないためにも、M&Aは絶対に必要です。でも今までのやり方では効率が悪く、それによって救えるはずなのに救えない企業も出てきます。そこにテクノロジーを導入することで、レガシーな産業でも効率化できることが証明できたと考えています。ですから今後は、この手法を他のレガシーな産業にも広げていき、1兆円規模の企業に育てたいと考えています。