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創業4年3カ月で上場の爆速成長企業がデジタルマーケティングの常識を変える 市原創吾 AViC

市原創吾 avic

拡大を続けるインターネット広告市場。あらゆる産業のDXも追い風となり今後も市場は手堅く伸びることが予想される。2018年3月に創業したAⅤiC(エイビック)は、インターネット広告やSEOといった領域において、コンサルティングや運用面で高品質なサービスを提供することで急成長を遂げ、創業4年3カ月でグロース市場に上場した。急成長企業の強さはどこにあるのか。聞き手=和田一樹 Photo=小野さやか(雑誌『経済界』2023年4月号より)

市原創吾・AViC社長のプロフィール

市原創吾 avic
市原創吾 AViC社長
いちはら・そうご 2009年青山学院大学理工学部卒業。株式会社サイバーエージェントに入社し、インターネット広告事業に従事。18年3月AViCを創業、代表取締役社長に就任。22年6月東証グロース市場に上場。

本物のサービスとは顧客のPLを改善すること

―― 2018年に創業し、4年3カ月で上場を果たしました。取扱高の推移を見れば、20年9月期が6・9億円、21年9月期が13・2億円、22年9月期が34億円という急成長を実現しています。どうしてここまでの成長速度を維持できるのでしょうか。

市原 私たちは、デジタルマーケティングの戦略設計から集客施策、広告運用まで、マーケティング投資対効果の最大化に貢献するサービスを提供することで、顧客の事業を支援しています。

 急成長の要因ですが、まず選んでいるマーケットが大きいことがひとつの要因です。インターネット広告市場において、年間数千万円から数億円規模の広告予算をかけられている企業が属する、ミドルマーケットを主戦場としています。このマーケットは日本の広告費の60%程度を占めていると推定しています。

―― どうしてミドルマーケットに軸を定めたのでしょうか。

市原 ミドルマーケットの特徴として、お客さまがこれまでなかなか質の高いサービスを受けられていない状況がありました。私たちのビジネスというのは、お客さまの広告予算を預かって広告枠を買い付けに行く仕事です。広告枠を買い付ける際にはコンサルティングが発生しますが、その技術やノウハウの質は広告会社ごとに大きな差があります。同じ広告枠を100円で買い付けられるはずなのに、300円で買い付けてしまうなど、お客さまに高く広告枠をつかませてしまっていることがほとんどです。特にミドルマーケットではその傾向が顕著であると感じています。これでは、お客さまにとって本当の価値になっていないんです。

 また、お客さま自身もそこに気付かれていません。すでに取引をされているデジタルマーケ支援やネット広告の会社があると思いますが、その良し悪しを判断するのは簡単ではありません。医療の世界も同じだと思うのですが、自分が通っている病院の先生の技術が高いのか低いのか、判断するのは難しいですよね。

 このギャップを解消し、例えばお客さまの広告費用を30%下げられたとします。それはそのまま営業利益になります。あるいはもっと投資に回せます。そう考えれば、本当はもっと事業をグロースできるはずです。この市場に質の高い本物のサービスをぶつければ大きなビジネスチャンスになると直感し、アクセルを踏みました。

―― 本物の価値やサービスの質など、クオリティに関する言葉が多いですが、「本物」の価値とはどういうことですか。

市原 「本物」とは、お客さまのビジネスの価値になっていることです。もっとはっきりと言えば、PL(損益計算書)に直結していること。やっぱりお客さまのPLを改善させ経営に直結する。そこまで追求できるサービスこそが本物の価値を提供できると考えています。

 インターネット広告業界の歴史を見ると、Web1.0の時代は広告枠を人が予約販売していましたが、ここ10年間ほどは広告出稿側がシステムを通じてリアルタイムで広告枠を買い付ける運用型広告に移り変わりました。当社は経営陣をはじめ、その運用型広告の現場経験値が豊富なメンバーが揃っています。最先端の知見を踏まえて、社内でもDXツールを構築して生産性と再現性を高めていますので、高付加価値、高品質が実現できています。

社員のために絶対に成功させるギアが入った瞬間

―― 創業5年弱で急成長を続け、社員数は50人強。即戦力で人材を集めているのかと思いきや、新卒入社の社員も今年の4月で20人ほどになります。人材育成のコストは後回しにしたいフェーズではありませんか。

市原 私たちのようなアーリーステージのベンチャーは、急激な変化ばかりです。カルチャーもリズムもどんどん移り変わるので、その中でも平気なマインドを持つのは難しい。

 当社は対応力の高い中途入社のメンバーが集まってくれていますが、新卒だからこそなじみやすいという側面もあるので積極的に採用しています。変化を成長の機会と捉えて前向きに働くメンバーが揃っていますので、これからもそのような人材が活躍できる環境を中長期で創っていきたいと思っています。

―― とても順調に見えますが、あえて苦しかったことを挙げるなら。

市原 やっぱり創業して最初の1年間は苦しかったですね。右も左も分かりませんでしたし、認知もブランドの権威も何一つなかった。その中で社員を雇い、オフィスを借りて、すべてが初めての経験の中で自分の給与も半年間は払うことができませんでした。

 とにかく見通しが立たないし、毎日口座残高を確認するんですけど、お金はない。当然キャッシュフローも回りませんし、常に不安でした。明日つぶれてもおかしくないような状況が続きました。

―― それでも折れなかったのはなぜですか。

市原 やっぱりそういった環境でも大企業でのキャリアを捨ててこの困難を一緒に乗り越えてくれている中途社員や、数百万社ある中から当社を最初の一社として選んでくれた新卒社員を見ていると、自分が折れている場合ではないと思うからですね。

―― 22年9月期の決算では売上高が約3億7千万円、営業利益は約9400万円で、それぞれ対前年で87・9%、167・6%の急成長です。どこまでこの成長は続きますか。

市原 市場シェアで見ればまだまだ1%もありません。この前計算したら、このペースの成長を維持してもすべてのシェアを獲得するのに約1千年かかる計算でした。ですから私たちはもっとスピードを上げていく覚悟です。

 オーガニックグロースに加え、M&Aという選択肢も検討しています。ここから1桁規模を大きくするようなイメージもクリアに描けていますので、成長の速度は落とさずに進んでいきます。