経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

行動を縛る「呪い」を解いて自分らしく生きていこう 八木龍平 社会心理学者

八木龍平

ゲストは、「リュウ先生」の愛称で親しまれている社会心理学者で作家の八木龍平さん。著書『成功している人は、なぜ神社に行くのか?』は27万部発行のベストセラーです。今回はコミュニケーションの「呪い」を解き、いかに自分らしく生きるかをテーマに語り合いましたが、いつしか場は有美社長の人生相談の様相に……。似顔絵&聞き手=佐藤有美、構成=大澤義幸、撮影=市川文雄(雑誌『経済界』2023年12月号より)

八木龍平 社会心理学者のプロフィール

八木龍平
八木龍平 社会心理学者
やぎ・りゅうへい 1975年、京都市生まれ。同志社大学経済学部卒業後、SE等を経て、北陸先端科学技術大学院大学修了(博士号取得・知識科学)。神社、人材育成、聞く技術関連の書籍執筆多数。そらみつ工房代表取締役。

SE、大学院、研究職を経て神社の専門家に転身

八木龍平と佐藤有美
八木龍平と佐藤有美

佐藤 リュウ先生(八木氏の愛称)の引率で経済界主催の伊勢神宮ツアーを催したのが2017年の夏。あの時は約40人の大所帯で正式参拝して、お神楽を拝観し、おいしい地ビールと料理を嗜んで、楽しい時間でしたね。伊勢は経済界創業者である父・正忠も私も好きな場所で、年2回以上は参拝しています。

八木 もう6年も前ですか。神社好きの女性たちと経営者たちのユニークな集いでしたね。伊勢は有美社長の崇敬神社のような場所なんですね。秩父の三峯神社にもよく行かれるそうですが、あるNPO法人の実験で、バス移動の30人が三峯神社の境内に降りて深呼吸したら、ストレス数値が下がった報告がありますよ。

佐藤 そうなんですね。確かに三峯神社は高地にあって気持ちが休まります。コロナ禍は参拝が禁止されていたので行きたいなと思っていました。そんな神社の専門家として活動し、著書『成功している人は、なぜ神社に行くのか?』を発行されているリュウ先生ですが、異色のご経歴をお持ちで元SEだそうですね。なぜ神社に興味を持たれたのですか。

八木 簡単に自己紹介をすると、大学卒業後にSEの職に就いたのですが、学びを深めたく仕事を辞め、働きながら大学院で野中郁次郎先生のナレッジマネジメントを学び博士号を取得しました。さらに富士通の研究所で文化人類学の方法論を使ってSEの心理を探ったり、経営者の心理を引き出すための研究開発に携わりました。そこで地方創生と神社の関係性について書かれた論文を読み、神社への興味を深めたのです。

佐藤 私が子どもの頃は神社の境内で遊ぶほど神社仏閣が身近にありましたが、最近はどうなのでしょう。少子化で人口も減っていますが。

八木 神社仏閣も減っていますね。大阪大学で面白い論文があって、子どもの頃に神社仏閣やお地蔵さんのある土地で過ごしていると、地域愛や人を信頼する力が強まり互恵性が育つそうです。

佐藤 お供え物をしたりお参りすることで、信仰心や温かい気持ちが芽生えるのかもしれませんね。

コミュニケーションの「呪い」を解くには

佐藤 リュウ先生は話の聴き方やコミュニケーション関係の本も多数出されています。仕事でもプライベートでもコミュニケーションは不可欠です。コロナ禍でオンラインのやりとりも増えましたが、リアルに勝るものはありませんね。
八木 ネットとリアルのコミュニケーションを比較した心理学の研究もありますよ。お互いの情報が伝わりやすいのはネットですが、信頼関係が高まるのはリアルだそうです。『運気が整いラクになる! あなたにかけられた「呪い」のとき方』もコミュニケーションの本です。多くの人が自分の思い通りに動いてほしいという願望を抱きますが、それを言葉にすると相手への「呪い」となります。これはオカルトの話ではなく、呪いによって行動しづらくなったり、落ち込んだり、悩んだりした時に、それを解決に導く本です。

佐藤 呪いという言葉は衝撃的でした。この本には事例がたくさん出てきますね。元プロ野球の落合博満さんのエピソードも面白かったです。

八木 「ちゃんとしなさい」の例ですね。落合さんが新人だった頃に、トレーナー室に入る時に「失礼します!」と言うと、「うるさい」と怒られ、黙って入ると「あいさつはないのか」と怒られるダブルバインド(二重拘束)で動けなくなるという。この呪いのコミュニケーションを解くには、逆に動けるようにすればいいんです。例えば先輩の先輩から、「お前が後輩にそんな態度を取っていたら、『ちゃんとあいさつしろ』と教えている俺たちの立場がないだろう」と叱ってもらう。これで動きやすくなります。

佐藤 第三者のアドバイスが欲しい時はありますね。私も友達といると愚痴が多くて嫌気が差します。「私の勤めている会社の社長はバカで」と言うので、「でもそのバカ社長のところで給与をもらってるんだよね?」と返すと言葉に詰まっていました。女性は共感してほしい生き物なので、「バカ社長の面倒を見てあげて偉いね」と褒めてもらいたかったのかもしれませんが、私は共感できませんでした。第三者がいたらどんなアドバイスをしたでしょう。

八木 アドバイスは第三者からの客観的な見方もそうですし、物事や事象を俯瞰して伝えると相手も納得してくれますよね。

佐藤 次はそうしてみます。それから、私が社長になりたての頃、周りから意地悪をされながらも期待に応えようと頑張ったことがあります。でも、期待に応え続けることも、呪いと同じで、自分の自由な思考や生き方を縛りますよね。

八木 そうですね。他人の期待に応え過ぎると自分の生き方がずれるし、期待から外れると本来の人生が見つけやすいです。そのために例えば座禅を組んだり1人になれる場所で過ごし、普段の生活のリズムを変えてみることです。もっとも期待に応え続ける人生が悪いわけではありません。それで無理がなければ人生は成り立っているわけですし。そうではなく無理して期待に応え続けるうちに、「これでいいのか」とふと気づく瞬間があるはず。その時に自分のやりたいことを見つめ直して、本来の自分らしい人生を歩んでほしいですね。

佐藤 1度しかない人生ですしね。私も私らしく前向きに生きます。

12月号_八木龍平_似顔絵
八木龍平 似顔絵