経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

フレームワークでシステム開発 「法令工学」のパイオニア企業 安光正則 アトリス

アトリス 安光正則 代表

基幹系システム構築やアプリケーション開発フレームワークの製造・販売を手掛けるアトリス。業務システム開発基盤の「PEXA」は大企業や官公庁など業種を問わず幅広く導入されている。安光代表は「2025年の崖」を迎えるIT業界に警鐘を鳴らし、システム刷新に取り組む。(雑誌『経済界』2024年2月号「テック企業特集」より)

アトリス 安光正則 代表
アトリス 代表取締役 安光正則 やすみつ・まさのり

工学博士や公認会計士を招聘。行政業務関連法をシステム化

 アトリスの設立は2004年。米国サン・マイクロシステムズの日本法人を母体に独立し、ユーザー視点で業務をシステム化する「PEXA(ペクサ)」をリリースした。

 「まだ基幹システムにメインフレーム型(汎用機)が多い中で、PEXAは業務系のフレームワークシステムとして開発しました。簡単なローコードで迅速に対応できるので、システム業務をベンダーに丸投げすることなく、内製化しやすい。業務アプリケーションは内製化した方が自社にもノウハウが残る上、コスト削減にもなります。PEXAは発売以来、20年近く進化し続けているロングセラーで、小売・流通・製造・金融・医療・官公庁・大学など業種を問わず活用できます。PEXAを導入した婚礼会社は100店舗超のドレスの在庫管理などに利用し、コロナ禍でも収益を維持しました」

 開発力の源泉は工学博士や米国公認会計士など専門家の招聘だ。東京工業大学出身の片山卓也氏や寺町康昌氏が顧問を務めるなど5人の博士がアトリスをサポートしている。中でも北陸先端科学技術大学大学院大学名誉教授の片山氏は法律をシステム化する「法令工学」を確立したことで知られる。法令を数式化して処理するとともに矛盾を自動で抽出。行政サービスや行政業務に関する法令やそのための情報システムをつくるための工学的手法であり、年金や介護保険などの行政手続きの内容をそのまま仕様書として要件定義し、システムに応用、テスト工数も大幅に減らすことができる。

 「あるシステムを構築するには利用者からヒアリングして要件定義を行い、仕様書をまとめるなど膨大な時間と作業が必要になりますが、行政手続きの仕様は法令で確定しています。まずは『公務員給与法』をベースにした人事給与システムとして『AHRS』をリリースしました。国立大学や団体などで導入が進んでいますが、各法律に適用できるので、今後も実績を積み上げてカバーできる範囲を広げたい」

 また、元銀行員で米国公認会計士の資格を持つ横大路誠一氏がエグゼクティブコンサルタントを担う。横大路氏は会計システムの「PEXAフィナンシャルシステム」開発に従事。特許を取得し、大手証券会社をはじめ製造業、建設業、Eコマース業等に導入された。会計士自身が会計システムの開発に携わるのは珍しく、エンジニアによるコーディングを必要とせず、会計ルールの変更・調整に対して柔軟に対応できるマスタードリブン構造を取り入れた。

 「当社ができることは限られており、複雑なルールや分厚い法律書を新しいシステムに実装するには専門家の力が必要です。一部の大手ITベンダーは古いシステムの保守で手一杯でこうした取り組みは不十分です。エンジニアをかき集める『手配師』になっています」

「2025年の崖」の対策を旧システムは保守費用を浪費

左から、横大路誠一エグゼクティブコンサルタント、片山卓也顧問、寺町康昌顧問
左から、横大路誠一エグゼクティブコンサルタント、片山卓也顧問、寺町康昌顧問

 経済産業省は「2025年の崖」として、古いままのシステムが稼働する経済損失は25年以降、年間で最大12兆円にも及ぶと試算しており、IT業界では旧来のメインフレーム型をオープン型に刷新する動きが加速。メインフレーム型から撤退を表明する大手ITベンダーもいるが、安光氏はシステム刷新が進まないIT業界に危機感を覚える。

 「銀行をはじめ、昨今の大規模システムの障害に見られるようにメインフレーム型やコボルなど古いままの基幹システムやプログラミング言語で運用を続ければ日本は滅びます。変更や改修したくてもエンジニアの工数がかかりできない。昔のシステムをグレードアップさせるのは難しく、システムが古いままクラウド化しても意味がない。長年のシステムベンダーを変えづらい『ベンダーロック』がかかることも要因の一つですが、何百億円もの保守費用がかかるばかりでコストを浪費しています」

 アトリスはPEXAやAHRSなどで業容を拡大しているものの、知名度が低く営業に苦心することも。「会社の規模が小さいので、『頼んで大丈夫か?』と言われることもあります。知名度が低いと納期や価格で勝負することになるのが残念。従業員は60人程度ですが、フレームワークとローコードで開発を行うため生産性は10倍以上です。プログラムコードはほとんど記述していません」

 IT業界の改善に腐心する安光氏の目標はもちろんアトリスのサービス・製品の拡大にあるが、過剰な利益は追い求めていない。

 「フレームワークシステムが広がるのが理想です。利益だけを目的としていたら、できることもできなくなる。法令工学を応用したシステムは年金、介護、保険など国の中央官庁にも役立つ仕組みです。すぐに基幹システムを変えたり、参入するのは無理ですが、将来は大規模システムへの導入も目指したい」 

会社概要
設  立 2004年4月
資 本 金 4,674万円
本  社 東京都世田谷区
従業員数 55人
事業内容 業務分析コンサルティング、基幹業務システム開発、アプリケーション開発フレームワークシステムの販売・開発、サポート等
https://www.atrris.com