自分の市場価値はどのくらいだろうか。転職活動をしていなくても、そんな疑問を持つ人は多い。市場価値を意識するために常にエージェントと接点を持つべきという考え方もある。しかし、正直とても面倒くさい。手軽に自分の市場価値を知るサービスが20代、30代を中心に広がっている。それがミイダスだ。文=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』巻頭特集「会社の選び方」2024年6月号より)
後藤喜悦 ミイダス社長のプロフィール
市場価値、人間性、思考の癖。全て無料で診断できる
転職支援サービス・ミイダスの「市場価値診断」は、経歴やスキルを入力すると、300万人の転職データを参照して市場価値を診断することができる。さらに診断結果を企業へ公開することで、条件に合致した求人を持つ企業から、直接面接のオファーが届く。基本はスマホでタップしていくだけでよく、無料なことから試しに使ってみる人も多い。
ミイダスには、他にも自分の可能性を診断してくれるサービスがある。たとえば「コンピテンシー診断」は、いくつかの質問に答えるだけで自身のパーソナリティやストレス耐性、向いている仕事、相性の良い上司・部下まで分析してくれる。転職活動に臨む前に自己分析をする重要性が強調されるが、それがスマホ一つで完了し、手軽にA4用紙1枚相当のレポートを入手できる。この他、世界初の「バイアス診断ゲーム」も人気で、自身の思考パターンを知ることができ、22項目の認知バイアス(自分の思考の癖)が分析できる。
ミイダスでは、これらの診断内容に基づき自分が活躍できる可能性が高い企業の求人を見つけることができる。これは〝アセスメント・リクルーティング〟と呼ばれる手法で、職種、年収、勤務地などの一般的な要件ではなく、各人の特徴や強みに基づき、入社後の活躍可能性なども鑑みてマッチングが行われることに特徴がある。逆に、ミイダス上で企業からスカウトを受け取る場合も、企業側が自社の従業員に対して可能性診断を実施し、その結果から自社で活躍できる人材の特徴を見極めアプローチしている。結果、ミイダスで受け取るスカウトは、自分が活躍できる可能性が高い企業から届く構造になっている。これらの仕組みは、アセスメント・リクルーティングの手法が進んでいる欧州のモデルを参考にしており、一定のエビデンスに基づくものだ。
ミイダスの代表を務める後藤喜悦氏は、サービスの狙いをこう語る。
「転職市場を俯瞰してみると、企業と求職者双方の情報精度が低いこともあってミスマッチが多すぎます。こうした機会損失を防ぎ、適材適所を実現するためミイダスを立ち上げました」
転職・中途採用は、会社に入ってみないと分からない要素が大きい。〝採用ガチャ〟という言葉があるように一か八かの賭けになっている側面もある。求人では「実務経験3年以上。業界経験者歓迎」という文言がもはやテンプレになっているが、本来は企業ごとにフィットする人材は違うはず。面接の時間も限られ、面接官と合うか合わないかだけで結果が決まってしまうこともある。ミイダスは、こうした勘や先入観に依存している現状を、分析データに基づく判断へ変えようとしている。
また、求人サイトにせよ人材紹介にせよ、一般的なリクルーティングサービスは個人が具体的な転職行動を開始してから使用されることになる。その点、ミイダスは明確に転職を検討していない層にもリーチする。ここにも後藤氏はこだわりを見せる。
「言い方が難しいですが、転職したいと思った時に慌ててするのはおすすめできません。不動産でも株でも、買うべきタイミングで買うから利益が出るのです。しかし実情としては、99・9%の人は自分が動きたいときに転職活動をしています。理想はいい求人が出てきたら動くことです」(同氏)
ミイダスを用いて定期的に自分の可能性を診断しておけば、わざわざ時間をつくってエージェントと面談したり転職市場に出たりしなくとも、自分の〝売り時〟をつかみやすい。加えて、自分の市場価値や活躍できそうな企業があることを具体的に知ることができれば、人生の担保になり目の前の仕事に打ち込みやすくもなる。
「転職市場でアピール上手な人ばかりが得をするのは不健全だと思います。ミイダスは、キョロキョロせずに仕事に打ち込んでいる人の経験を全て資産にし、きちんと評価されるサービスにしたかった。ただ、自分の市場価値を全く知らずに目の前の仕事にだけ打ち込むと会社と一蓮托生になります。ミイダスでバランスを取ることに貢献できたらうれしいです」(同氏)。
正体はSaaSのサービス。ただの転職ツールではない
実はミイダス、単なるリクルーティングツールではない。企業向けの定額利用SaaS型プロダクトであり、採用に限らず、人材育成やタレントマネジメントのコンテンツ、社員や組織のコンディションを可視化する各種サーベイも充実。入社後の活躍までをトータルでサポートしている。
「多くの人材サービスの良し悪しは、結局、何人採用できたかに偏っています。売り上げもそこで発生するわけなので。私は人材業界で経験を積む中で、ここに根本的な疑問を持ってきました。採用しても定着しない、社員のスキルを伸ばせない。そんな入社後の課題までワンストップで解決したいと考えてSaaSモデルを取り入れ、幅広い機能を実装しています」(同氏)
今後も、採用・転職の領域だけにとどまらず、人と企業の可能性を引き出すサポートや、新たな挑戦をしたい時に足りないリソースを提供するサービスを幅広く展開していくという。ミイダスを活用する個人が増えれば、自分にどんな才能があり、どんな職業で活躍できる可能性があるのか見いだす人が増える。導入する企業が増えれば、無駄のない採用と育成が実現でき、生産性の向上につながる。結果的に、日本のジョブマーケットから非効率な部分が排除され全体最適が実現されるだろう。