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大阪・関西万博から見る 環境・健康長寿社会の展望 横山英幸 大阪市長

横山英幸 大阪市長

開催まで300日を切った大阪・関西万博に向けて準備を進める大阪市。世界中から注目を集める万博の成功は、日本全体にとって大きな意味を持つ。大阪市長で、2025年日本国際博覧会協会の副会長の一人を務める横山英幸氏に現在の進捗状況や万博の意義、そして直面している課題について話を聞いた。聞き手=佐藤元樹 Photo=藤岡修平(雑誌『経済界』2024年9月号より)

横山英幸 大阪市長、大阪維新の会幹事長のプロフィール

横山英幸 大阪市長
横山英幸 大阪市長、大阪維新の会幹事長
よこやま・ひでゆき 1981年5月13日生まれ。2000年関西学院大学経済学部入学、04年大阪府庁入庁、11年大阪府議会議員初当選、20年大阪維新の会幹事長就任、23年第22代大阪市長就任。

万博準備の進捗と課題

―― 開催に向けて準備の進捗はいかがでしょうか。

横山 現在、パビリオンのデザインは発表されているものの、展示物や内容についてはまだまだこれからです。具体的には、各パビリオンの展示内容やイベントプログラムを今後数カ月で詳細に発表する予定です。しかし、情報発信が遅れているため、全国的な機運醸成には課題が残ります。一番の課題はやはりスケジュールの厳しさです。工期の関係で、展示物やパビリオンの準備が遅れることは許されません。

―― 確かに情報発信力の弱さは否めません。今後、改善や情報発信の具体的な施策はありますか。

横山 情報発信には多くの手法を考えています。例えば、インターネットやSNSを活用するのはもちろん、各地方局のテレビ番組に出演して直接情報を伝えることも行っています。さらに、各地のイベントやお祭りでも万博のブースを設け、空飛ぶクルマのVR体験などを通じて万博を身近に感じてもらう努力をしています。

 課題としては、タイミングと内容の調整が難しい点があります。例えば、内容やイベントプログラムを早く発表しすぎると、開催までの関心が続かない可能性があります。また、地域ごとに関心や受け取り方が異なるため、全国的に統一されたメッセージを伝えることが難しいです。

 一方で関西地域一丸となって万博への機運を盛り上げるために、さまざまな取り組みを行っています。例えば、大阪24区役所で開催される「24区万博」や、商店街での「フライング万博」など、地域イベントと連携して万博の展示物を紹介する活動を行っています。これにより、万博の魅力を広く伝えると同時にシビックプライドの醸成にもつなげていきます。また、SNSキャンペーンやインフルエンサーマーケティングを活用して、若い世代の視点から情報を発信することで、幅広い層に万博の魅力を発信しています。

 そういった施策に一定の効果もあってか、万博のボランティア応募数は目標の2万人を大きく超えて5万5千人の募集がありました。特に20代、30代の若い世代の参加が目立ち、私にとっても非常にうれしい驚きです。万博は一生に一度の経験となる可能性が高く、多くの若者がこの機会に積極的に関わりたいと考えているそうです。

―― 世間からは万博を開催する必要があるのかという声も聞こえます。そもそも万博を開催する意義はなんでしょうか。

横山 万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、環境技術と健康長寿社会の2つの柱が重要となります。環境技術で言えば、世界的な課題である2050年に向けたカーボンニュートラルの取り組みなどが注目されます。特に海外は日本の環境政策に非常に高い関心を持っています。万博会場では再生可能エネルギーを活用したスマートシティのモデル展示も予定しており、太陽光発電や風力発電を組み合わせたエネルギーマネジメントシステムや、エネルギー効率を高めるための最新の建築技術なども紹介します。

 もう1つの柱である、健康長寿社会では、最新の医療技術などを展示することで、持続可能な未来社会実現のビジョンを共有します。健康で長寿を全うできる社会実現は、少子高齢化社会の日本において極めて重要な課題です。健康で暮らすことができれば社会的なコストも抑えられ、若い世代への負担も軽減されます。

 大阪ヘルスケアパビリオンでは、入口で来場者の血管年齢や肌年齢などをセンシング技術で計測します。すると来場者の25年後の姿がアバターとなって表示されます。私と大阪府の吉村洋文知事も実際に体験しました。私が今43歳なので68歳、吉村知事は48歳なので73歳。その姿を見た時、正直ショックを受けましたが(笑)。来場者の方にはショックを与えるためではなく、そのアバターと一緒にパビリオン内を回ってもらい、健康を意識することで25年後の未来は変えられるということを体験していただきます。

―― 万博期間中、多くの観光客が来阪され交通インフラをはじめ、かなりの混雑が予想されると思います。

横山 万博のチケットはネット上での完全予約制で、チケットコントロールを行います。事前予約にすることで、来場者の分散を図り、「平日の何時にどの程度」といった概ねの交通量の予測が可能になります。同時に、在阪企業に対して、「万博TDM(交通需要マネジメント)パートナー」への登録をお願いしております。これは万博開催期間中の交通混雑を緩和するための施策で、先述の来場者数予測に基づき、出勤タイミング調整や迂回ルートの利用を促し、一般交通と万博交通の円滑な移動を実現することを目指しています。

持続可能な未来へ向けた万博のレガシー

―― 万博後のレガシーはどのように残っていくのでしょうか。

横山 ソフトレガシーとハードレガシー、2つの観点があります。

 まず、ソフトレガシーは展示された技術やプロジェクトを事業化し、次世代につなぐための取り組みを進めています。具体的には、大阪府・市が連携し、経済界とも協力して、技術やプロジェクトを次の社会につなげていく機関を設立する予定です。例えば、大阪ヘルスケアパビリオンで展示されたiPS細胞の動く心臓モデルなどを地域の病院で実装するプロジェクトが進行中です。これにより、先進的な医療技術が地域社会にもたらされ、健康長寿社会の実現に貢献します。また、万博を通じて得た知見やネットワークを活用し、新しいビジネスモデルやイノベーションを生み出すエコシステムの構築も検討しています。。これにより、大阪が世界に誇る技術と知識の発信拠点となり、持続可能な未来社会のモデルケースとしての役割を果たすことを目指しています。

 ハードレガシーは、万博終了後の2030年にIR(統合型リゾート)の開業を予定しています。万博会場跡地の利用計画は既に進行中で、民間企業から跡地に対して開発可能なアイデアの募集も始めます。会場の大屋根リングも万博終了後には順次解体して、一部は残して、一部は再利用していきます。こうして残すものと生まれ変わるものをレガシーとして残していきたいと思います。

 課題は多くありますが、これらを解決し、万全の状態で来年の4月13日を迎えたいです。

 大阪・関西万博は環境技術や医療技術の最先端を展示することで世界全体で未来社会のビジョンを共有する場です。これが大阪で開催できるということは大きなチャンスです。これからも大阪・関西万博に関する情報をお届けしていくので、どうぞご期待ください。