経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

クリーンエネルギーを軸に人や環境に優しい社会を実現 平井辰憲 イクト

イクト 平井辰憲

エネルギー業界で成長著しい優良企業として注目を集めるイクトは、2009年に平井辰憲社長がわずか23歳で創業。これまでの歩みを振り返り、事業拡大に向けたさらなる飛躍を見据えた中長期的取り組みについてのビジョンを聞いた。(雑誌『経済界』2024年11月号「リゲイン中部経済」特集より)

イクト 平井辰憲社長のプロフィール

イクト 平井辰憲
イクト 平井辰憲

電気設備工事の事業を太陽光発電事業に一本化

 イクトの創業は2009年。電気設備工事を請け負うイクト産業として誕生し、12年にイクトとして法人化した。住宅設備関連の工事に始まり、次第に工場、公共施設へと規模を拡大。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の導入を機に太陽光発電設備に関わる依頼が増加し、15年には自社で太陽光発電所の開発・運用に成功した。

 15年から18年にかけ、事業拡大を視野に入れてアジアの開発途上国を視察してきた平井社長は、無電化地域の状況を目の当たりにして「電気をエネルギーとして捉える意識に変わったことが大きな転機でした。太陽光発電は流行にとらわれず、事業として続いていくという確信が持てました」と振り返り、多岐にわたる電気設備工事を太陽光発電事業に一本化することを19年に決定した。その根幹には、人を大切にする会社でありたいという平井社長の信念がある。工事業者として働く環境の改善、人から感謝されることで生まれるやりがい、クリーンエネルギーを通じた社会貢献。太陽光発電事業を、社員の幸せはもとより、地域や経済にも貢献できる事業に育て、すべての人の幸福を目指す会社として成長を続けてきた。

 平井社長の描くビジョンはどこまでいっても「人と地域の幸福を実現する」ことに尽きる。経営の勘所は「書を読み謦咳に接する」の言葉通り、20代の頃から中国の古典や思想家、倫理学者の著作に触れ、さらには偉大な実業家たちの自伝を読み漁り、尊敬する事業家には実際に訪ねて対話を重ねることで少しずつ自分を磨いてきた。

利益だけに捉われず地域に喜ばれる事業を

 同社の基幹事業となった、太陽光発電によるクリーンエネルギー事業。太陽光発電には、建物の屋根の上などに設置するオンサイトと、遠隔地に設置して送配電網により電力を供給するオフサイトがあり、イクトは顧客の要望に沿った高い提案能力と施工能力を生かして多くの実績を積み上げ、今では業界のトップランナーとして確固たる地位を確立した。太陽光発電所を開発する際、多くの場合、土地開発や測量それに行政の許認可取得は外部に発注する。一方、イクトでは企画立案から測量、設置、メンテナンスまですべて内製化。そのため、顧客ニーズを捉えたスピーディな提案が可能となった。

 利益だけに捉われず、電力という地域のインフラを作っている概念で考えた場合、「景観を損なわず、地域の人に迷惑をかけないのは当たり前」と平井社長。しかし、太陽光発電といった再生可能エネルギーの分野において、地域とのつながりがほとんどないまま開発が進んでいくケースは少なくない。そのため、災害時にエネルギーを生かすこともできず、景観を崩すといった不満も出てくる。現地の人々と十分に対話するため、イクトでは開発時には何より現地に足を運んで信頼を得ることを大事にしているという。

 「愛知県設楽町にある工場跡地の公有地を開発するにあたり、町からメリットのある企業を斡旋してほしいという要望が出たことがありました。設楽町はライダーのツーリングスポットで、私たちの地元にあるバイク関連の企業を発電所の所有者としてご紹介したところ、観光協定を結んでお互いに良い影響を生む結果になりました。地域と企業をつなげるきっかけとなった好事例です」

 

エネルギー問題や食料問題。社会的課題の解決に取り組む

 エネルギー業界の現状を、平井社長は「オフサイトに関しては、適地がほぼないという印象です。オンサイトに関しては、今は大手企業に導入が進んでいますが、あと2、3年で一巡するでしょう。その後中小企業へと市場が移っていくかどうかは、やや疑問があります」と分析する。そのうえでこれからのポテンシャルを感じているのが、営農型の太陽光発電所だ。

 「適地がなくなったため、残っている農地に着目しているわけではありません。営農型に可能性を感じている理由は、われわれの強みである再生可能エネルギーと、今後必ず対策が必要とされる食料問題との相性の良さが挙げられます。さらに、昨今の異常気象により日陰を必要としている農家の方も多く、地域の方々に喜ばれることを事業化したいという当社の想いとも合致します」

 営農型を事業展開するにあたり、発電だけに留まらず、静岡県袋井市の本社横に農地を整備。実証実験を行いながらオリジナルの栽培方法などを研究している。露地栽培でも水耕栽培でもなく、ポリエステル培地による高設栽培を採用し、水や肥料を管理。実はかつて参入したことのある農業に、以前とは違った観点から取り組んでいる。

 さらなる飛躍に向けたイクトの次なる事業ターゲットは、グリーン水素。本社では必要なエネルギーをグリーン水素でほぼ賄えるよう計画し、来年度から運用が始まる見込みだ。

 「日本は資源が乏しいので、サプライチェーンの影響を大きく受けます。これに左右されない安定的な経営ができるようなエネルギー供給を広げていきたいと思います。また、クリーンエネルギーを軸に考え、地域社会から喜ばれる事業を企画提案し、地域に人が集り豊かな社会が実現できるような事業になるように挑戦していきます」 

会社概要
設  立 2012年9月(創業2009年4月)
資 本 金 2,000万円
本  社 静岡県袋井市
従業員数 49人(パート含む、2024年9月現在)
事業内容 クリーンエネルギー事業、地域創生事業、農事業、金融事業、蓄電池事業、EV関連事業
https://www.ikuto.co.jp/