経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

設立3年目のソニー・ホンダ連合軍 テーマは「移動で人を感動させる」 川西 泉 ソニー・ホンダモビリティ

川西泉 ソニー・ホンダモビリティ

 ソニー・ホンダモビリティは、2022年9月にソニーグループと本田技研工業がモビリティにおける新たな価値創造を目的に設立した合弁会社だ。社長の川西泉氏は、これからの自動車は移動手段の域を超えた新たな価値を提供するものになると話す。聞き手=萩原梨湖(雑誌『経済界』2025年1月号巻頭特集「自動運転のその先」より)

川西 泉 ソニー・ホンダモビリティ社長のプロフィール

川西泉 ソニー・ホンダモビリティ
川西 泉 ソニー・ホンダモビリティ社長
かわにし・いずみ 1986年ソニー入社。以後、プレイステーションやXperiaなどの商品開発に従事。2016年よりAIロボティクスビジネスを担当。ソニーのモビリティへの取り組みであるVISION-Sを担当。21年6月にソニーグループ常務、AIロボティクスビジネス担当に就任。22年9月より現職。

移動時間や空間に新たな価値を与える

―― 2023年1月にラスベガスで行われた「CES2023」のプレスカンファレンスで、ソニー・ホンダモビリティの新型EVブランド「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプを初公開、翌年の「CES2024」で最新プロトタイプを披露しました。

川西 AFEELAの特徴は3つの「A」です。1つ目は車内外に搭載された多数のセンサーとAIをはじめとするさまざまなインテリジェント技術の活用で実現する自立性(Autonomy)。2つ目は、運転以外の楽しみを通じ、これまでの時間や空間の概念を拡張させるような新たな体験を提供する拡張性(Augmentation)。3つ目は、モビリティにおける新しいエンターテインメントの創出をクリエーターやビジネスパートナーの皆さまと実現し、人との協調・社会との共生を目指すアフィニティー(Affinity)です。車からドライバーや外部に対して情報発信し、人と車のインタラクティブなコミュニケーションを目指したソニーオリジナルの音楽ソフト「Media Bar」はその一例です。

 自動車の進化の過程において、自動運転は重要な要素です。安心安全な走りは不可欠で、それを担保したうえ、移動空間や時間に新たな価値をどう提案していくかに着目しています。自動運転の普及に伴いその価値も高まると考えています。

―― 自動車メーカーのホンダと、エレクトロニクスやセンサーに強みを持つソニーとが合わさった新しい自動車メーカーです。異業種であるソニーが自動車産業に関わることでどのような効果を期待していますか。

川西 自動車ビジネスにおいて安全安心は最も重要な要素です。ここには、製造の難しさにも精通しているホンダの知見や技術が不可欠で、運転性能には、これらのノウハウを生かしていきます。モビリティにおける新しい価値の提供という面ではソニーグループの強みを生かせると考えています。ソニーが長年にわたり培ってきた高度なセンシング技術は、精度の高い自動運転と安全な走りに直結するため欠かせません。

 さらに、ソニーの持っているITテクノロジーやエンターテインメント技術を掛け合わせることで、これまでの車内体験にない価値や楽しみを提供することを目指しています。

―― それぞれの業界で長年やってきた2社が、一つの方向を向いて進んでいくのは大変ではないですか。

川西 両社の強みを生かすことで新しい価値が生み出せると思います。一方で、それぞれの会社のカルチャーによる考え方の違いは当然あります。ソニー・ホンダモビリティとして同じ方向性を目指していくため、会社の立ち上げに関わったメンバーで意識合わせをする場を設け、どんなモビリティを目指していくかや、この会社の存在意義をワークショップ形式で話し合いました。そして役員も参画し、会社の設立趣旨を議論し、 「多様な知で革新を追求し、人を動かす。」というパーパスを定めました。

 これには3つの要素があります。1つ目の 「多様な知」は、私たちだけで新たな道を切り開いていくということだけでなく、ソニーとホンダ以外のパートナーや協力会社の知見を組み合わせながら発展していきたいという思いがあります。2つ目の「革新を追求」は、最先端の技術でモビリティを進化させていくことです。3つ目の「人を動かす=move people」は、人の移動という意味に加え、人々を感動させるという意味も込めています。私たちは、新たな移動の喜びで人々の心を突き動かしたいという理念を掲げ、技術開発を行っています。

スマホが生活に浸透したようにクルマは人の相棒になる

―― 自動車産業の常識が覆る転換期と言えますね。

川西 SDV(Software Defined Vehicle)によって、車の作り方そのものが変わってきていますので、大きな転換期と言えるかもしれません。現時点でも、車と人との間には、音声認識ナビなどを通じて会話が発生するなどよりインタラクティブにやり取りできる関係性になってきていますが、私たちは、人とモビリティの関係性をさらに深めていきたいと考えています。取り組みの一例としてはマイクロソフト社と連携し、対話型パーソナルエージェントを導入していきます。生成AIの活用で使う人に寄り添ってくれる、いわば相棒のような存在になります。                                      

 AIの進化のスピードは著しく、提供するサービス内容や質も徐々に高まっていくと考えています。スマートフォンがソフトウェアで進化するのと同様、車の機能や車内体験もソフトウェアのアップデートで、車が使う人の嗜好性や好みに合わせて進化していくと思います。電話とメールが主な機能だった昔の携帯電話から、スマートフォンの登場で、モバイルがより人に寄り添うデバイスとなりました。人との親和性がより高まったモバイルの進化と同様に、モビリティもこれまでの概念を超えてより社会の中に溶け込んでいくのではと思います。

―― 中国ではいち早く自動運転社会を実現し、現在は自動運転の無人タクシーが普及しています。日本にもそのような未来が来ますか。

川西 さまざまな課題はありますが、将来的には日本もそういった社会になると思います。

 自動運転技術において中国やアメリカ企業の技術レベルは非常に高く、進化のスピードには目を見張るものがあります。一方で、自動運転に関しては、人々の慣れが普及に深く関わってくると思います。機能が搭載されても、乗る側の人間が自動による「走る・曲がる・止まる」の動きに慣れて信頼を得る時間が必要です。また、自動運転が普及しても、車を運転する楽しみは残ります。運転をしないときは、電車や飛行機のように移動しながら自由な時間を楽しむという選択が車でも選べる環境が広がっていくと考えています。

―― 川西社長は、運転する必要のない自動運転車の中でどのように過ごしたいですか。

川西 私は運転も好きなのでその時々で異なると思いますが、移動中は寝て過ごすかもしれません。

 運転から解放された移動空間はAFEELAのエンターテインメント性を存分に楽しめることができる環境です。2025年のPre-Order開始に向け、設計開発を急ピッチで進めています。移動する中での新しい過ごし方を提案し、新たな空間価値の創出を目指します。