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「レベル4」がいよいよ実用化も普及本格化は2030年代に 新添麻衣 SOMPOインスティチュート・プラスシティ・モビリティグループ

新添麻衣 SOMPOインスティチュート

SOMPOグループのシンクタンクであるSOMPOインスティチュート・プラスシティ・モビリティグループ上級研究員の新添麻衣氏は、自動運転アナリストとして講演や寄稿を行っている。本稿では「人の移動」に焦点を当て、日本国内における自動運転車の開発状況と、それを支える政策や法規制の概要を確認していく。(雑誌『経済界』2025年1月号巻頭特集「自動運転のその先」より)

新添麻衣 SOMPOインスティチュート
新添麻衣 SOMPOインスティチュート・プラス シティ・モビリティグループ上級研究員

レベル3では日本が世界初。自家用車は大手メーカー主導

 マイカーの自動運転の領域では、既に市販の乗用車に搭載されているレベル1、2機能からステップアップする流れで、大手自動車メーカーが開発の中心を担っている。

 2020年4月、改正道路運送車両法と改正道路交通法が施行されたことで、日本国内ではレベル3が解禁された。これを受けて、21年3月、リース限定で発売されたホンダ「レジェンド」が世界初のレベル3の量産車となった(現在は販売終了)。 同車のODD(運行設計領域)は、高速道路の同一車線上を、周囲に他車を検知できる渋滞時に時速60キロメートル以下で走行する場合となっていた。

 ホンダの後、メルセデスとBMWからも米独でオプションとしてレベル3の機能が発売された。

 ODDはレジェンドと同様で、メーカー間の足並みが揃った背景には、国際協調の議論がある。自動車は広く世界に流通する商材である。そのため、自動運転車の安全基準に関する議論は国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)で行われ、WP29で採択された規則を各国・地域が自地域の法律に落とし込む流れを踏む。

 その後のWP29の議論の進展を受け、メルセデスは25年初頭、レベル3の新バージョンをドイツで発売すると公表した。渋滞中に限らず、前方に追随できる車両を認識できれば、右車線において時速95キロメートルでスピードを出すことが可能になる(日本と反対で、ドイツは右側通行のため、左車線が追い越し車線)。既に発売済みの車両には、OTA(Over The Air)と呼ばれる無線によるアップデートを実施する。また、ホンダも、26年からグローバル市場への投入予定の「Honda 0(ゼロ)シリーズ」にOTA対応のレベル3機能を搭載すると発表した。機能の詳細は公表されていないが、レジェンドからの進化が期待される。

 レベル3は、システムが対応できない場面になった際、運転を引き継ぐ人間のドライバーを常に必要とする。しかし、システムによる自動運転中には、ドライバーの前方注視義務が免除され、スマホを操作したり液晶で動画を視聴しても違法にはならない。この点がレベル2までとの大きな違いである。

 レベル3の自家用車はまだまだ黎明期であり大手メーカーの中では紹介したもの以外出ていない。トヨタ、日産などの追随もない状況だ。今日現在、日本で購入可能なレベル3の車両はない。

 また、当面は利用場面が高速道路上に限定されるが、今後のレベル3の進化に伴い、車室内をリビングやオフィスとして活用するような、新しい移動時間の価値の創出が期待される。

ドライバー不要のレベル4で実用的なルートの開拓を目指す

Honda 0(ゼロ)シリーズ(筆者がCES2024にて撮影)
Honda 0(ゼロ)シリーズ(筆者がCES2024にて撮影)

 レベル4になると、遂に人間のドライバーは不要となり、皆が乗客として移動サービスを享受できるようになる。日本のレベル4の開発は、少子高齢化や過疎化の進展、ドライバー不足を受けて、地方部の交通網の維持や高齢者の足の確保といった社会課題の解決に主眼を置いて進められてきた。

 レベル4を実現するため、23年4月に道路交通法が再改正された。マイカーは想定されておらず、事業者が提供する移動サービスや配送サービスが想定されている。地域のバス会社やタクシー会社、第三セクターなどの自動運転サービスの提供者(特定自動運行実施者)は、走行ルートの属する都道府県公安委員会に詳細な運行計画を提出し、認可を得ることでサービス提供が可能となる。

 改正法のもと、日本初の認可を取得したのは、23年5月にレベル4運行を開始した福井県永平寺町の事例である。ゴルフカートをベースにした低速の車両が、永平寺に至る山間の一区間を走行する。廃線跡を自動運転のルートに転用したため、他の自動車との交錯のないリスクの低いODDとなっている。

 岸田政権下において、日本政府はレベル4の移動サービスの普及目標を漸次、前倒しにしてきた。24年6月に公表された「骨太の方針2024」では、27年度に本格的な事業化開始を目指すと記された。その実現のために、24年度中に約100カ所で運行を計画・実施し、25年度には全都道府県で通年運行の計画・実施を目指す。24年度は99件のプロジェクトが国土交通省の補助金を得て、レベル4の実現に向けた実証実験に取り組んでいる。

 この99件の中には、路線バスやBRT、空港からのシャトルバスなどの実用的な路線を、時速30~60キロメートル程度で走行するプロジェクトが多く含まれている。また、米中に後れを取っていた都市部でのロボットタクシーの実用化に挑戦するプロジェクトも出始めた。今後、この中からレベル4の認可を取得する事例が増えていくことが期待される。

日本初のレベル4/福井県永平寺町のカート(筆者撮影)
日本初のレベル4/福井県永平寺町のカート(筆者撮影)

 ただし、人間の目の代わりに、カメラやレーダー、LiDARといったセンサーが周辺環境を認識する自動運転車では、悪天候や夜間のほか、登り坂や路上駐車への対応、など見通しが悪く苦手とする場面が多々ある。通信状況が悪化するトンネルでは位置情報の捕捉が難しくなり、歩道橋の下をくぐる距離であっても支障が出ることもある。システムが対向車の動きを予測したうえで動作の判断を行う右折も難所である。このほか、夏場に伸びてしまった沿道の街路樹や雑草を障害物と認識して、自動運転車が停車してしまうといった事例も多々ある。

 こうした難所は、日常のルート上に散見されるため、一度に全ルートで認可を取得することは難しく、まずは特定の区間で認可を取得し、徐々にレベル4で運行できる距離やエリアを拡大していく進め方が想定される。

 同じレベル4に分類されるサービスでも、永平寺町のように限定された場所を往復するルートなのか、複雑な市街地を縦横無尽に走るサービスなのかには大きな差がある。政府もレベル4のODDにはかなりの幅があることは認識しており、比較的単純なODDから社会実装を進め、複雑な環境下での実用化に向けて、段階を追って進化させていくスタンスである。

 なお、レベル4になっても、人の目がなくなるわけではない。改正道交法により、交通事業者等(特定自動運行実施者)には、自動運転車の運行をリアルタイムで監視する遠隔監視者(特定自動運行主任者)の配置が義務付けられている。この遠隔監視者は、車内の乗客への呼びかけや案内のほか、万が一の事故が起きた時には警察や救急に通報を行う義務を負っている。米中のロボットタクシーにも遠隔監視者がおり、同様の役割を担っている。人手不足への対応や運行コスト削減の観点から、将来的には1カ所の遠隔監視センターでさまざまなエリアの自動運転車を同時監視することも期待されるが、現状では安全面に配慮し、世界的に見ても1人が3台程度を見守るのが限界となっている。

レベル4分の3の開発が並行。本格普及は30年代以降へ

 以上のように、自動運転車の開発状況は、レベル3から4にステップアップするのではなく、用途・車種に応じてレベル3と4が並行して進んでいる状況にある。2000年代中頃から米国を起点に始まった現在の自動運転ブームだが、当初は20年代が普及期と見込まれていた。しかし、実証実験を重ねる中で、センサーが葉っぱや枝を障害物と認識して急ブレーキをかけてしまったり、信号や標識が隠れたせいで正しく認識できなくなってしまうなど、走行環境の整備も課題になってくる。

 また、資金面では普及が遅れたことで、リターンを得るのに時間がかかる分野だと認識されている。それにより投資環境が冷え込み、自動運転の開発に資金が集まりにくくなる時期もあった。

 より広範な活用が望めるAIや、反対に特定分野で早期の実用化が見込める産業用ロボットに資産が流れたこともあり、現実世界でさまざまな難所があることが判明した。現状の普及見込みは10~15年後ろ倒しになっている。一度ふるいに掛けられたマーケットで30年代に向け、生き残ったプレーヤーたちの自動運転技術がもたらす社会的な効能に期待したい。