「『走る歓び』で移動体験の感動を量産するクルマ好きの会社になる」というビジョンを掲げるマツダ。ドライバーが運転し続けることを前提に、高度運転支援技術で安心・安全なドライブを提供していく。その背景にある考え方とは。マツダが見据える自動運転の将来像をキーパーソン、マツダR&D戦略企画本部開発戦略企画部主査の栃岡孝宏氏に聞いた。構成=萩原梨湖(雑誌『経済界』2025年1月号巻頭特集「自動運転のその先」より)
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副操縦士としての自動運転技術
私はマツダの中で、ソフトウェアディファインドビークルなどのコネクテッド領域と、安全領域の戦略企画に携わっています。当社は「マツダプロアクティブセーフティ」という独自の安全思想のもと安全技術を開発しています。プロアクティブという言葉には、危険な状況に陥ってから対処するのではなく、危険自体を回避するという意味を持たせています。ドライバーが安全に運転できる環境をつくった上で、車がぶつからないように支援する、万が一事故が起こった時に乗っている人の命を保護する、というものです。
現在日本では高齢化が進み、一人一人の健康状態や生活の質が低下することで、コミュニティの活力も低下する傾向にあります。われわれは、これをモビリティの進化で変えたい。
運転をいつまでも楽しんでもらうためにはべースにしっかりとした安全性能があることが必須だと考えています。そのためには、クルマが人を制御するのではなく、あくまで人が主体となり運転し、万が一の時にシステムが安全をサポートする。人とシステムバランスがちょうどいい、人のための自動運転を目指しています。
そこでわれわれは、自動運転技術の戦略として「マツダ・コ・パイロット・コンセプト」を掲げています。コ・パイロットは副操縦士という意味で、人が運転することを前提に、高度運転支援技術を活用してドライバーを見守ります。
当社は10月に、ドライバー異常時対応システム (DEA)を搭載した新型車「マツダCX-80」を発表しました。DEAは、ドライバーの体調急変などの異常を検知した際、ドライバーの様子に合わせて運転支援を行い、運転が継続できないと判断される場合には速やかに減速して車を停め、自動で緊急通報まで行うシステムです。
運転をすることや移動を楽しむことは人の心身を活性化させます。移動を通じて活力を付けた人が増える事でコミュニティの活力を高め、人とのつながりが深くなる世界をつくっていきたい。
2025年以降のクルマには、体調が急変する予兆、主に大脳の機能低下を捉える技術を搭載していきたい。
大脳の機能は、認知機能につながっています。大脳の認知機能低下を捉えることができれば、事故の抑制に限らず、日常生活での健康維持や健康管理のためのツールとしても活用することができます。車が一つの診断機になって、予防医療として人の健康を守っていくことができる可能性も秘めています。人の健康とモビリティを結びつけることで、より生活に密接したモビリティというフェーズが見えてくるのではないでしょうか。(談)