体内で溶ける微細な針を並べたシートを貼り、美容成分を角質層の奥まで届ける「マイクロニードル」化粧品。この画期的な技術を開発し、世界で初めて製品化したベンチャー企業がコスメディ製薬だ。近年では医療分野にもその可能性を広げている。(雑誌『経済界』2025年3月号「関西経済、新時代!」特集より)
注射針の代わりになるマイクロニードル技術
医薬品業界で今、大きな注目を集めているのが、コスメディ製薬が開発したマイクロニードル技術だ。
「マイクロニードルとは、いわば『貼る注射』。注射針の代わりに、長さ数百ミクロンの微細な針に有効成分を含ませて、皮膚に貼り付けることでその成分を体内に送ります」と権英淑社長は説明する。
注射は子どもだけでなく大人でも怖いもの。これが「刺す」のではなく「貼る」ものになるとは夢のような話だ。
同社では2023年に初の医療機器「アネスパッチ」の販売を開始。マイクロニードル技術を応用したもので、歯肉表面に貼ると最速1分で麻酔成分が浸透する。子どもを含む患者の負担を軽減し、乳歯の抜歯、口内炎の処置など幅広く活用できる。歯科医サイドにも「処置がスムーズになる」というメリットがある。
24年には京都府立医科大学と連携し、マイクロニードル技術を活用したCGM(次世代持続血糖測定器)の開発にも着手。実現すれば世界中の糖尿病患者のQOL向上に寄与できる。また、10年以上前から大学との産学連携による「貼るワクチン」の研究も続けている。
マイクロニードル技術を世界初の化粧品として製品化
医療業界ではまだ実用例は少ないが、化粧品業界ではマイクロニードルの認知度は高い。大手化粧品メーカーをはじめ多くの企業から、シートやパッチとしてマイクロニードル化粧品が販売されている。
溶解型マイクロニードル技術誕生のきっかけは06年にさかのぼる。01年に創業した同社は京都薬科大学発のベンチャーで、医療におけるTTS技術(経皮吸収治療)の研究開発を行っていた。
「薬剤を微細な針で注入するマイクロニードルの研究は米国で既に始まっていましたが、針が金属製などで安全面の問題がありました」
そこで思いついたのが、ヒアルロン酸のような水溶性高分子素材を「微細な針」にすることだった。「前例がないから全て手探り状態」だったが、先端は微細でも肌の弾力に耐え、折れずにしっかり刺さって目的の深さまで届く富士山型のマイクロニードル設計を実現した。
この技術の早期製品化を重視し、権社長は医療ではなく美容分野への参入を決めた。08年、世界初のマイクロニードル化粧品の製品化に成功した。ただ、新技術ゆえ、すぐには化粧品業界に受け入れられなかった。転機が訪れたのは11年。大手化粧品メーカーの資生堂とのOEM契約だ。その効果が実証されると、他社も製品化に乗り出した。業績は右肩上がりで工場は3拠点に増えた。
化粧品はグローバル化を推進。医薬品は今後の可能性に期待
同社は毎年成長を続けていたが、コロナ禍は他社と同様に売り上げを落とした。しかし、「生産が落ち着いた今こそ会社の組織体制や経営理念、開発内容などを見直すべき」と明確なビジョンを打ち出し、企業としての基礎固めに努めた。目標は売り上げ100億円とIPOだ。
「今まで世の中になかったものをいかにイノベーション技術で実現できるかを考え、想像以上の感動を届けたい」と会社の理念も明確にした。また、新技術も驚くスピードで実現した。その理由について「当社は研究者集団で、医薬品との技術連携も武器。さらには基礎研究から開発、評価、生産まで全て一貫して自社でできることが強みです」と語る。
新技術の一つが権社長の夢だった「三重らせんコラーゲンのマイクロニードル化」だ。もう一つはタウリンを微細な針状に結晶化した「タウリン結晶マイクロニードル」で、ヒアルロン酸などの水溶性高分子成分を内包させることに成功。この技術は「塗る」ことができるため、「溶ける針」の入った「全顔」用のジェルやクリーム等の化粧品に活用できる。
「コラーゲンニードル」はODMを請け負っているが、「タウリン結晶マイクロニードル」製品は自社ブランドのみ。マイクロニードル化粧品の市場が拡大する中、競合との差別化を図るためだ。加えてECサイトだけでなく実店舗での販売も始めた。
現在はアジアを中心に海外輸出にも力を入れる。24年にはアラブ首長国連邦でも現地の代理店と事業をスタートさせ、業績は順調だという。
化粧品は「いかに早くグローバルに展開するか」が課題。一方、医薬品は一歩ずつ着実に製品化を進める。そのため、今は化粧品の売り上げが9割以上を占めるが、「数年後には医薬品の割合が大きくなっているはず」と権社長。既に医療に関しても多方面からの共同研究依頼が多数あり、今後に期待がかかる。
「私たちが成長できたのは、情熱と粘り強さがあったから。物事を成功させるには全力で走り切り、必ず完成させるという信念が大切です」
そう熱く語る権社長の顔は、経営者であり研究者でもあった。
会社概要 設 立 2001年5月 資 本 金 3,000万円 本 社 京都市南区 従業員数 195人(2024年4月30日現在) 事業内容 医薬品・化粧品・医療機器の研究開発および製造・販売 https://cosmed-pharm.co.jp/ |