経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

最終回 失敗の一つや二つはかまわない 大切なのは挑戦する企業文化 川端克宜 アース製薬

川端克宜 アース製薬 社長CEO

今年設立100周年を迎えたアース製薬。国内虫ケア用品市場では断トツを走るが、それでも「攻撃は最大の防御」と、あくまで攻め続ける姿勢を崩さない。この先にどのような未来図を描いているのか。川端克宜社長に聞いた。聞き手=関 慎夫 写真=横溝 敦(雑誌『経済界』2025年5月号より)

川端克宜 アース製薬 社長CEOのプロフィール

川端克宜 アース製薬
社長CEO
川端克宜 アース製薬 社長CEO
かわばた・かつのり──1971年兵庫県生まれ。94年に近畿大学商経学部(現・経営学部)を卒業しアース製薬入社。役員待遇営業本部大阪支店 支店長、取締役ガーデニング戦略本部 本部長などを経て、2014年3月代表取締役社長に就任した。

社員の「やりたい」には「まず、やってみろ」 

── アース製薬は今年、設立100周年を迎えましたが、今後、どんな会社にしていきたいですか。

川端 アース製薬は株式会社、そして東証プライム上場企業です。ですから売り上げを伸ばす、利益を追求するのは当然ですが、そこに囚われる企業ではいけないと考えています。数字は大切です。でもそれだけでは面白くない会社になってしまいます。それよりも、今、人々に何が必要とされているかを考えて、常に変化していくことが重要だと思っています。そのためには、社員が自ら考え、自ら行動することが必要です。

── 川端社長は、トップダウン型経営からボトムアップ型経営へと転換したそうですが、社員の提案を認めるかどうかの基準はありますか。

川端 社員がやりたいと言ってきたことに対しては、まずはやってみろ、というのが基本的なスタンスです。仮に失敗したところで、それで会社がどうこうなるわけではありません。だから、内心ではうまくいかないだろうなと思っていても、まずはやらせてみます。大切なのは、成功しても失敗しても、そこから学ぶことです。それが社員の成長につながります。言葉を変えれば、社員が一つや二つ失敗したところで揺らぐことのない会社であることが重要です。

 私自身、これまでたくさんの失敗を重ねてきました。以前はトップダウンだったという話が出ましたが、やりたいことはやらせてもらっていました。そしてこれは社長になってからも一緒です。大塚(達也)会長から11年前にバトンを受け取りましたが、普通なら、最初の数年間は会長がCEO、社長がCOOで、共同で意思決定をするものです。ところが会長は、最初からすべて任すと。ですから私が何か決めたことに対して反対されたことはありません。それと同じで、私もできるだけ社員に任せていきたいと考えています。

── 売り上げ、利益には囚われたくないとのことですが、川端さんは営業成績最下位だった広島支店を売上伸び率で全国トップに押し上げ、その後は売り上げの小さなガーデニング事業を軌道に乗せています。その経歴を見るとものすごく数字にこだわっているように思えます。

川端 囚われはしませんが、数字は大切です。そして、数字が上がっていないということは、伸びしろが大きいということです。私が初めて支店長になったのが広島支店ですが、支店内にはあきらめムードもありましたが、率先垂範して営業現場に出ることで雰囲気も変わり、伸び率で全国一位になりました。ガーデニング事業の担当になった時は、精鋭を集めてもらい、製品開発にも携わることで、非農薬の除草剤を大ヒットさせることができました。広島支店もガーデニング事業も、失うものがないので思い切ったことができ、それが結果につながりました。

 そしてこれは今も一緒です。守りの経営は楽に見えますが、私にとってこれほどしんどいものはありません。それよりも攻めていく。攻撃こそ最大の防御です。いつになってもチャレンジャーであり続けます。

今後の伸びしろは海外事業にあり

── 虫ケア用品の国内シェアは6割近くです。いくら攻めても、伸びしろはほとんどありません。

川端 そんなことはありません。海外が残っています。大塚会長が社長だった時代は国内を中心に取り組まれていました。ですから次は海外を強化することが自分の役割だと自認しています。

 2026年を最終年度とする中期経営計画を現在遂行中ですが、そこでも海外の売上拡大を謳っています。現在、中国や東南アジアなど、5カ国に現地法人があります。各現地法人を軸にした成長戦略で、各国での市場シェア拡大を目指すとともに、サプライチェーンの整備やグローバル人財の拡充を図っていく方針です。これにより、23年実績で175億円だった海外売上高を、26年には250億円にまで伸ばす計画ですし、その後もさらに伸ばしていきます。

 日本の人口減少は加速していきます。その一方で世界の人口は、現在の80億人がやがて100億人にまで増加するといわれています。マーケットを考えたら、海外を伸ばすのは必然です。そこで今取り組んでいるのは、海外が自律的に成長していく仕組みづくりで、現在、少しずつ整ってきました。近いうちに全ての拠点で黒転が見込まれます。今後はさらなる成長軌道に乗せていきます。

── 地球温暖化が進み、人間に害を及ぼす害虫の生息域が大きく変わってきました。2014年には蚊が媒介するデング熱の国内感染例も出ており、いずれマラリアも、といわれています。虫ケア用品の果たす役割は今後さらに重要になります。

川端 事業として虫ケアをやってきたことが、人々の役に立っているのです。意図したわけではありませんが、CSV経営そのもので、事業が社会貢献に直結しています。そのことに私も社員も誇りを持っています。おっしゃるように、今後、虫ケア用品の需要はますます増えていくでしょう。しかし、当社としては、虫ケアに限らず、さまざまな形で人々の生活環境向上に役立ちたいと思います。

── アース製薬の未来像を教えてください。

川端 アース製薬の企業スローガンは「Act For Life 地球を、キモチいい家に。」。これを実現する会社でありたい。ですから虫ケア用品の会社であることにこだわりはありません。実際、以前は虫ケア用品が売り上げのほぼ100%でしたが、今では全体の約40%となっています。

── するといつか社名から「製薬」がなくなることもありえますね。

川端 今の段階ではそれは考えていませんが、私が社長になってから変えた英語の社名はすでに「Earth Corporation」になっています。大切なのは、いつの時代になっても、世界に必要とされる会社であり続けるということです。